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クラフターズ・ローグ

 『いい事思いついた。オジーチャンは人に慣れた野生動物。もし外で寝ているなら、そこにくっついて寝れば凍死はしないで済むだろう』


 などという、安易な考えで歩き出した俺はバカだ。

 全然見つからない。……あまり野生をナメるなよ、俺。


 完全に夜は更け、奥歯がガタガタと音を鳴らし出した。まずい、マジで死ぬ……。


「使えてくれ……インベントリ」


 つい口に出してしまったが、目の前に効果音と共に見慣れたUIが表示された。

 よし、使える!

 思わず、安堵のため息が漏れた。何かいいアイテムは……。


「いた、やっと見つけた」


 突然、後ろから声をかけられた。焦って、ついUIを閉じてしまう。

 振り返ってみると、走ってきたのか、息を荒げたラウラが立っていた。


「……なんで濡れてるの?」

「い、いやー、感動の再会をしまして。ちょっと袖を濡らしたといいますか」

「髪まで濡れてる。泣きながら逆立ちでもしたの?」


 袖を濡らしたという表現がこの世界でも通用したことは意外だし、見事なツッコミにも驚嘆する。

 うむ。さすが経営者というだけはあるな。

 詳しい説明を省きたい俺は、「てへへ」と照れ隠しのような何かで返答した。


「えっと、それで、文無し男に何用で?」

「ふふ、ちょうどいいタイミングだったみたい」


 鼻水を垂らしはじめた俺を見て、ラウラの表情は笑顔に変わる。


「やっぱり、うちに泊まっていって。それを伝えたくて、探してた。手伝いをしてくれれば、タダで――」


 タダ。その言葉に、自分の耳がピクリと動くのが分かった。体に再び活力が湧いてくる。

 俺は瞬時に頭を巡らせ、禁忌とされる秘技の一つを使う事とした!


 ジャパニーズ礼式――『土下座』

 無詠唱で行う事も可能な技だが、今回は詠唱が必要だ。


 俺はラウラの前で制動をかけると同時に、息を思いっきり吸い込む。

 そして、


「お願いします! わたくしイツキ、掃除洗濯残飯処理、おっさんの飲み相手からオジーチャンの散歩でもなんでもします!  だから、アルトラウラさん! あったかいご飯とお布団をください!」


 どこまでも響く大声で、しかしそれを一息で言い切る。


「い、イツキ……?」

「おねがいします! 死んでしまいます!」

「顔上げて……」


 その言葉に甘んじて顔を上げると、ラウラは目を細めて微笑んでいた。


「じゃあ、やってもらいたい事がある」


 よし! これでなんとか、明日への切符を掴めた。

 立ち上がり、「ありがとうございます!」と返事する。


 宿についたら、まずは体を温めよう。

 そして、キリキリと宿の手伝いをするのだ。


「あの、素人のワタクシでも出来ること、ですかね……?」


 進むラウラを追いながら、揉み手で質問する。

 いきなり会計とかを任された場合、俺は詰む。


「……」

「……アルトラウラ様……?」

「さっき言質とれたし、いいかな」


 つぶやいた後、ラウラはバツが悪そうな顔で答えてくれた。


「実は、宿はかなり古くて。色々修繕したいところが多いんだ。でも、直すのには結構お金かかるみたいで。イツキが大工なら、直せるかなーって」


 そういう事か。


「オッケー、任せてくれ。大工仕事には自信がある」

「うん、頼んだよ……でも」


 ラウラがじっと俺の顔を見つめた。


「そのまえに死なないでね……」

「……ぜ、善処します」


 あまりの震えに心配されつつ、俺は宿への道を進むのだった。




◇◇◇




 鹿の脚亭は、二階建ての宿だった。到着してまず目に入ったのは、一階でたむろする数人の男たち。

 いかにもファンタジーといった格好で、楽しそうに騒ぎながら酒を飲んでいる。

 どうやら昼までは受付として、夜になると大衆酒場として機能するらしい。


 俺は、着いて早々に風呂を借りる事ができた。

 スタッフ用と思しき小さなシャワー室だったが、体を温めるには十分だ。

 体の疲れも取れた気がして、ラウラにやるべき仕事を尋ねる。


「どこから直したらいい?」

「もう深夜だよ。明日のために英気を養っておいて」


 そういいながら、俺の目の前に料理が取り出される。さっきからしていた、いい匂いはコレか!

 俺自身も食べたいと言ったことをすっかり忘れていた、魚料理だ。


「んーっ! すげぇ美味い!」


 腹が減っていたせいか、それとも彼女の料理の腕がいいせいか。


 うん、両方だろう。何の魚かも分からないが、現代っ子の俺でも明らかに分かる上品な美味さ。唸らずにはいられない。


 正直、おかわりが欲しい……そんな事を思っていると、後ろから足音が聞こえてきた。


「ラウラちゃんの料理は美味いだろ」

「んぐ……あ、ああ」


 野太い声で話しかけられ、急いで口の中の魚を飲み込んでから振り返る。

 どうやら先ほど見かけた男性客のようだ。もうすっかり出来上がっている。


「兄ちゃん、見ない顔だな……となり座るぜ。なぁ、その魚の味付けマジで絶品だろ? この村の特産らしいぜ。あ、一口貰うぞ」

「あっ」


 夕方に会った村人達とは違い、距離をカケラも感じない遠慮の無さだ。

 止める間もなく、目の前で残り少ない魚の身が、飛び込んで来た指先に摘ままれて男の口へ吸い込まれていく。


「ひゃー、やっぱうめぇなぁ。ホント、ここは良い宿だ、酒も呑めよ。ラウラちゃん、こっちだ! こっちに酒だーっ!」


 何だ、このオッサン。


「そういえば、兄ちゃんは旅人さんかい?」

「旅人っていうか……これからなるところかな」


 まさか『この村の制作者だ』と言うわけにもいかない。


「ここらも最近は物騒だからな……武器はちゃんと使えんのか?」

「ぶ、武器? まあ、簡単なものなら、多分、人並み程度には……」


 突然飛び出した恐ろしい単語に、顎を引いてしまう。


「簡単じゃいけねえなぁ」


 ガッハッハ、と男は大仰に笑い、ほかの男たちの顔を見る。

 周りは彼ほど酔っていないみたいだが、皆一様に「そりゃいけねえよ」などと言ってニヤニヤしている。

 こ、怖い……。


「武器ってのは、こう、パワフルで、エレガントでねえとなぁ? げふっ」


 男のゲップには、酒のニオイが混じっていた。

 俺は精いっぱいの愛想笑いで「そ、そうですねぇ」と返す。


「俺らみたいに『冒険者』でもなけりゃ、武器には無頓着かもしれんが……旅をするんなら、防具ばっかりじゃ戦えねえぞ?」

「ぼ、冒険者……?」

「なんだその顔。まさかオメエ――」


 そこでガッツリ肩を組まれ、真横でジョッキを傾けられる。

 「ひっ」と声をあげて真っ青になった俺の顔色なんて、全然見えていないのだろう。


「冒険者もいねぇところから来るなんて、オメエはどんだけ田舎モンなんだ? だーっはっはっは!!」

「おいおいアベル、その辺にしとけよ。お前はいっつも酒癖が――」

「だーまってろサル助ェ!」

「サルートルだ! いい加減名前くらい覚えろ!」


 アベル、と呼ばれた男の腕に力が入る。


「ちょっと、首が……締まる……!」

「あ、おお、悪ィ!」


 ガラガラの声で謝りながら、アベルが俺の肩を解放した。

 少し遠くで立って俺たちの話を聞いていた『サル助』ことサルートルが、こちらに向かって歩いてくる。


「冒険者ってのは、簡単に言うと賞金稼ぎだな。市民の困りごとを解決する何でも屋だ」

「もっとも、そこのヘッポコサル助みたいなのに任される依頼は『警備~』だの『店番~』だの、雑用ばっかりだけどな」

「フン。だが、アベルのような脳が筋肉で出来ている者には、引っ越しの依頼ばかりが来るぞ」

「あ゛ぁッ!?」


 顔は見えないけど、俺には分かる。横のアベルのおっさん、怒りで髪が逆立ってる。

 それが、ゆっくり垂れて、小さなため息が漏れた。ジョッキを傾ける。


「……平和なのは何よりだが、こう何も事件がないんじゃ、俺たちみたいな冒険者ってのはなかなか厳しいんだよ」

「色々、あるんすね」


 俺は適当に相槌を打って、ラウラの料理に手を付けた。

 やっぱりうまい。だけど、今そんなことを言ったらまた話が振り出しに戻りそうだ。

 ぐっとこらえて、ゆっくり咀嚼した。


 いつの間にか、俺の隣にサルートルが座っている。


「君、名前は」

「イツキです」

「イツキ……冒険者のことも知らないとなれば、相当な辺境の出身と見える」


 辺境というか……異世界?


「それならば、この世界が作られた伝説も知らないのではないか?」

「バカオメェ、いくら何でもCRAFTER'S ROUGE<クラフターズ・ローグ>を知らねえ奴がいるわけねえだろ」

「フン。私はそういう辺境出身者を何度も見た事がある。残念だが、物を知らないのはお前の方だ」

「ぶ、ぶっ殺すぞサル助ェ! イツキとやら、オメエもなんか言ってやれよ!」


 なあ、と顔を覗き込まれて、俺は目をそらす。


「……ウソだろ……世界って、やっぱ広ぇんだな……」


 アベルはまた酒をあおって、小さくしゃっくりをした。




 ◇◇◇




 その昔、この世界には多くの動物、豊かな自然があふれていた。

 人間はいたが、言葉を使わず、道具も使えない。まさに動物のような存在だった。

 そこでは、人間たちはかろうじて集団で生活することを知っており、自然の地形を利用した洞窟や村に住んでいた。


 ある年、人間たちは大きな災難に見舞われた。

 川が氾濫し、山は燃え、狩るべき動物はみな姿を消した。木の実さえもなく、枯れ果てた野には、大量の猛獣が棲みついた。

 人間たちは滅びに向かって進み、全員が死を覚悟した……その時だった。


 彼らの前に、人間たちに姿のよく似た、3人の若者が現れた。


 1人は言葉を巧みに操り、誰も記録できない言葉を発した。

 すぐに川の氾濫は癒え、山は鎮まり、森に鳥たちが帰ってきた。


 1人は転がっていた木と石から、不思議な装置を作り上げた。

 すぐに猛獣は追い払われ、野には花が咲いて食糧へと変わった。


 最後の1人は道具を作った。農地を作り、農具の存在を教えた。

 獲れた作物を入れる箱を作り、人間は洞穴から、家に住むようになった。


 3人の若者は、自らを『プレイヤー』と名乗った。

 そして、自らの手で作った都市を人間に与え、そしていつしか姿を消した。


 プレイヤーのその後を、私たちは誰も知らない。




 ◇◇◇




「これが、『プレイヤー神話<クラフターズ・ローグ>』だ」

「こんなこと言っちゃアレだが……オメエ、母ちゃんいねえのか?」


 アベルの視線が突き刺さる。

 俺は半笑いで、「ああ、そんな話もあったね」と言わんばかりの表情をした。もちろん、聞いたことなどないのだが。


 つまりこの世界では、様々なMODを使って建築をしていたロークラのプレイヤーが、世界を作った神『プレイヤー』として語り継がれている、ということだろう。

 次世代に伝えた――そうヒョウドウの幻影も言っていた。


「何なら、俺たち冒険者の始祖ギルドだって、プレイヤー達が作ったって話だぜ?」


 『冒険者なんていかにも』なんて思ってたけど、まさかの冒険者システムを作ったのもプレイヤー?

 ウソだろ……自分で異世界ファンタジーを作り出したってのか。


 ……俺も一緒に参加したかったよチクショウ!


「んでよぉ、コレ」


 アベルがニヤっと笑って、背中の剣を引き抜いた。


「これがそのプレイヤーと同じモデルの剣なんだよ」

「はァ……また始まったよ、アベルの剣自慢」


 サルートルは俺の背中をトントンと叩いて「聞き流せ」と耳打ちする。


「プレイヤー仕様と同じ剣が今でも作れるってのもスゲぇ話だけどよ、コイツは斬れ味抜群、リーチも充分、おまけにこのブツでこの軽さときてやがる」


 立ち上がり、軽く振り回す。

 ブンブンと空を切れる音がする。

 当然、こんなもの食らったら死ぬ。凍死するなら、剣でだって死ぬはずだ。何より俺の直感が「ヤバイ」と言ってる。


「こいつは縁起物でな、プレイヤーの加護で1度だけ奇跡が起きるってのは有名な話だ。冒険者じゃないにしても、そこらの野犬をぶん殴れるくらいの武器は用意しておくべきだぜ。コイツはちと高いが……短剣だって十分だ。……おっとっと」


 どしゅっ、と鈍い音がして、目の前のテーブルに剣がめり込む。アベルは剣を取り落としていた。

 分厚い木のテーブルは裂け、木片が飛び散っている。


 どんな威力だよ……。


 雑談でざわついていた酒場が、一瞬でシンと静まり返る。

 アベルは首を傾げ、椅子に腰を下ろした。


「ひっく……酔っちまったかなぁ……」

「お客さん?」


 少し遠くから、低く唸るようなラウラの声が聞こえた。


「おぉ~、ラウラちゃん、お酒おかわりおねが~い」

「毎週毎週、よくも飽きずにウチのテーブルを……」


 はぁ、と声が漏れて、それから冷たい視線が酒場をぐるっと見回した。


「誰も彼を止められないんですね」

「あっれ~? ラウラちゃん怒ってる? ごめんねっ」


 アベルは明らかにおどけて、さっきまでよりも調子よく言っている。

 さすがに通用しないだろ……。


「アベルさん、でしたっけ?」

「おぉ~っ!? 俺の名前、覚えてくれてたんだぁ! さすが若女将アルトラウラ! 将来の天才経営者!」


 ラウラは酒が並々入ったジョッキを手に持って、張り付いた笑顔でゆっくり近付いてくる。


「さすがにそろそろテーブル弁償してくださいね?」

「ごめんごめん、酔っぱらっててさぁ~! ほら、コイツ……イツキだっけ? この田舎モンにプレイヤーの剣を見せてやりたくて!」


 え、俺? 今俺が悪いことにされそうになってない?


「縁起物の剣で、縁起でもないことしてくれて……本当にいつもありがとう。でも、3週連続でテーブル破壊しちゃったら、もうその剣で起こせる奇跡は使い切っちゃったかもね」

「あっはっは! ウマいこと言うねぇ!」

「これでしっかり頭冷やしてね」


 ラウラがジョッキを振り上げ、アベルの脳天に――ゴンっ!!

 グラスが割れ、酒が飛び散り、アベルが「おぎょッ」と変な声を出して背もたれに体を預けた。

 酒場に静寂が訪れる。


「イツキ」

「は、はいッ!!」


 こ、殺される……!


「お願いしたいこと増えちゃった」

「なんでも! なんでもします!」

「テーブル直すのもお願い……今度でいいから」


 ラウラは背筋が寒くなるような笑顔でそう言うと、キッチンの奥へと帰っていった。

 彼女の背中が完全に見えなくなったのを見て、俺はゆっくりアベルに近付く。


「……あ、あの……」

「は~……アルトラウラちゃん、やっぱ可愛いなぁ~……ツンなところが、またたまんねぇ……」


 ……ひとまず元気そうで何よりだ。

 俺は「なんか、すみません」と頭を下げて、部屋へと戻ることにした。

 恒例行事なのか、アベルの心配をする冒険者はいないらしい。ゆっくりと酒場に雑談の声が戻っていった。




 ◇◇◇




 客間の裏にあった古いベッドでぐっすり眠った俺は、日の出と共に目覚める。

 全然寝た気がしないが、目がギンギンに冴えていた。なんて言ったって、ロークラの世界で自由に遊べるのだ。

 しかも、自分は『神話で神にされてるヤツら』と友だち。……俺の中二病が逸らない訳がない。


 軽快な足取りで1階に降りると、ラウラが昨日の割れたビンの破片を捨てているところだった。


「おはよう」

「あ、おはよ……」


 彼女はまだ眠いのか、パチパチと何度も瞬きをして、気の抜けた声で言った。


「朝、早いんだね」

「ゆっくり眠れた。客間用じゃないとは思えないね」


 俺は腕をグルんと回して、「で」と彼女を見た。


「どこから始めればいい?」

「そしたら、まずは村の外壁……割れてるところがあるから、そこを直してきてほしい」

「任せとけ」

「……いいの?」

「え、何が?」

「いや、だって、宿じゃなくて『村の外壁』だよ?」

「うん。元から直す気だったし、丁度いいじゃん」


 言ってみただけだったのに。そういう顔だ。

 俺のやる気を不審がっている彼女を尻目に、俺は意気揚々と宿を出る。


 まあ、この世界の時間で何十年、何百年という時間が経っているわけだから、建物や壁が古くなるのも仕方ない。

 その間、建築の技術を持った人間――この世界で言うところの『プレイヤー』――も現れず、朽ちていく一方だったのだろう。

 そう考えればむしろ、何百年も崩れていない事に驚くべきなのかもしれない。


 彼ら自身に、プレイヤーとしてではない『普通の建築能力』は無いのだろうか? 


 ……そういえば、ラウラは「お金がかかる」と言っていた。無い訳ではないのだろう。

 

「さて、と……」


 ヒョウドウの教えに則り、インベントリを表示させるのには成功している。

 だけど……実は何かの勘違いで、『インベントリは出せてもアイテムは使えない』なんて可能性もまだある。

 そうなったら、俺は安請け合いした仕事すらこなせない、最速ホラ吹き野郎だ。


 ……あ、なんか急に怖くなってきた。

 インベントリ、インベントリ……思い浮かべろ……頑張れ俺の脳細胞……!


 インベントリっ!


 ぽわん、と気の抜けた音がして、目の前にそれは現れた。

 ほんの少し使えなかっただけのはずだが、かなりの安堵感がある。親の顔より見たUI、ってヤツだな。


「どっかで拾った石……土……この辺は修理に使えるか……あと鉄鉱石……」


 目の前にあるインベントリをタッチすると、ポロンと素材が落ちる。

 よし、呼び出しは成功だ……!


 ありがたいことに、素材はそのままブロックとして出てくるようだ。

 土が『リアル土』で出てきたらたまったもんじゃないからな。


 落ちた土は地面につくと同時に膨らみ、砂場のように盛り上がった。


 ああ、ブロックは自動で『解釈』されて、解像度とかが上がった状態で実体化するのか。

 それでみんなの建築も、あんなにリアルになっているわけだ。納得納得。


 そんで次が、布団……? ああ! 『布団MOD』の布団か。

 出してみると、本当にリアルな「ただの布団」だ。

 とりあえず間違って踏まないように、布団はすぐにインベントリに戻そう。


 成功。

 インベントリの出し入れに問題はなさそうだ。


 あとは、一括採取ツール、自動建築機、音メガネ……。


「改めてみると汚いインベントリだ……」


 クリエイターズワンド、敵影感知レーダー。

 どれも建築にあれば便利なものだが、ほとんど使っていないものも多い。

 ……ただ、今はこのアイテムが、とんでもなく心強い仲間に見えて仕方ない。


「あっ、これは! ポジトロンスーツ! と思ったけど、充電が……」


 ポジトロンスーツは、科学MOD「テクノロギア」の最終装備だ。PVP以外で、装備していて死んだとは聞いたことがない。

 身につけられれば最高に頼もしい存在だが……。


 今は、その充電残量が小数点以下。つまり、ほぼ『重たい鎧』である。早めにエネルギークリスタルを充電してやらないと。


「でも……中二心をくすぐるよなぁ……」


 黒光りするボディに、赤黒いライン。

 分解補修可能なパーツの機能美。

 リアルになったからわかる。やっぱり、これをデザインした奴は天才だ。


「もったいないからしまっとこ」


 腐っても最強装備である。後々充電方法が分かれば、これは十分使い物になるはずだ。

 手放すなんて選択肢はない。


「んで……」


 結局、建築に役立ちそうなのは、石と土と、あとは自動建築機くらいか……。


 俺はあたりを見回した。

 まだ、村が動いている気配はない。遠くから、鶏の鳴き声が響く。


 ひんやりとした爽やかな早朝の空気に、少しずつ明るくなっていく家々。

 ロークラの……この世界の、新しい一日が始まろうとしていた。


 少し遅れたけれど、俺もみんなのようにこの世界を楽しもう。

 そしていつか……俺も頑張ったって……あいつらに胸を張ってやるんだ。

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