雪だるまおろし 【閲覧注意】
非常にショッキングな内容を含む作品です。お読みになる際はご注意ください。
猟師の田吾作は猟犬を探し、雪の降り積もった山を一人歩いておった。
「おーい! 太郎吉やーい!」
大声を張り上げても、かえって来るのは山びこばかり。
太郎吉の姿は見えない。
しゃり……しゃり……しゃり。
どこからともなく音が聞こえてくる。
音のする方へ行くと、奇妙なものが目につく。
雪だるまだ。
何もない雪原に雪だるまがいくつも見える。
「旅の人、お疲れの様子じゃのぅ」
振り返るとそこにはみすぼらしい老婆がおった。
「誰だ……」
「こわい、こわい。
そんなものを人に向けてはなりません」
種子島を向けられた老婆はクスクスと笑う。
「すまん、道に迷ってしまったんじゃ」
「それなら、わしの家へ来るといい。
一晩宿を取らせてやろう」
「かたじけない」
田吾作は好意に甘えることにした。
老婆の家は歩いてすぐの所にあり、囲炉裏には火が付いている。
「旅のお方、空腹じゃろうて。
遠慮なくお上んなさい」
老婆は火にかけていた鍋の蓋を取る。
味噌とコメの粥が入っていた。
「いっ……いいのかい?」
「ああ、ちょっと待て」
老婆は外へ出て桶を取って来た。
桶に入っていた雪はほんのり赤く染まっている。
それを鍋に流し込む老婆。
「ほぉら……できたぞぉ。
たんとお召し上がりなさい」
「うむ……」
老婆がよそった味噌汁をすする。
味はまずまず。
しかし何か妙だ。
口の中に何かが絡まる。
「なんだこれは……これは髪の毛⁉
それに……うひゃああああああ!」
椀に浮かぶものを見て、田吾作は悲鳴を上げた。
人間の歯や指が浮かんでいたのだ。
田吾作は小屋を飛び出した。
走って行くとさっきの雪だるまが目についた。
雪が崩れて中身が見える。
入っていたのは凍った人間。
顔の半分が何かですりおろされたように欠けている。
あの音の正体は……。
「まてぇ! まてぇ!」
老婆が人の背丈ほどもある鬼おろしを担いで追いかけてくる。
ついに追いつかれてしまった田吾作。
もうこれまでかと観念した時……。
「わんわんわんわん!」
はぐれていた太郎吉が現れ老婆の喉元にかみつく。
「ぎゃああああああああ!」
「くそぅ! くたばれぇ!」
田吾作は冷静に種子島に火をつけ、狙いを定めた。
放たれた弾丸は老婆の眉間を打ち抜く。
「がっ……が……」
白目をむいて動かなくなった老婆。
てっきり物の怪の類かと思ったが、普通の人間のようであった。
その後、殺された旅人たちを供養する石碑が建てられた。
今でもそこを通ると何かをすりおろす音が聞こえるそうな。