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江崎 -05-

 時間としては全てをひっくるめても30分にも満たなかっただろう。僕は、全ての設定を元通りにすると、気が抜けてしまいその場に座り込んだ。

 すでに音楽は流れていない。僕は盛大に息を吐いた。


 佐久間さんが笑う。僕は笑えない。


「緊張したかい」

「そりゃぁもう」


 脱力したまま佐久間さんを見上げれば、彼は苦笑をこぼした。

「まぁ、こういう事態に備えて、蓄電エネルギーは無駄にできないんだ」

 佐久間さんはもっともらしく頷きながら、そう、僕を諭した。

「一体何が起こったんですか? …………もし、訊いてもよろしければ、ですが」


 僕が国防に関わることでしたら、民間人に話せないようなこともあるんでしょうし、と遠慮がちに問いかければ、佐久間さんは感心したように顎に手を当てて頷いた。


「君は冷静で、随分物わかりがいいな」

「分を弁えてるだけですよ」


 というよりも、正直面倒ごとには関わりたくないのだ。とは言っても、すでに遅いような気がする。しかし、佐久間さんは謙遜と受け取ったらしく、ははっと明るく笑い飛ばした。


「<ヤタノカガミ>を発動させたんだ」


 彼の言葉に、僕は口の中で、やっぱり、とだけ呟いた。

 <ヤタノカガミ>は、八つの衛星からなるシステムで、この国における国防の要だ。エネルギーを一点に絞ることにより、高密度のエネルギー波を出して巡航ミサイルを迎撃したり、面単位で高密度エネルギー帯をつくることで、地場を狂わせて爆撃機を墜落したり、と簡単に言ってしまえば神州を護るバリアを瞬時に展開できる。


「大陸から複数個のミサイルのような物(・・・・・・・・・)が確認されたから、打ち落としたそうだ」


 佐久間さんの言葉に、僕は深くつっこむ気にもなれない。

 正直、この国の周りは仮想敵ばかりなのだ。エネルギー資源の枯渇が叫ばれて久しい昨今、アマテラスシステムは常に狙われていることを、さすがに理解している。このシステムを護るための鎖国政策なのだから。


 もし僕がアマテラスシステムの概要を知らなければ、世界中に技術譲渡してエネルギー枯渇問題の解決を訴えていただろう。しかし、今となってはそれが不可能だと理解している。


 技術譲渡はしたくても、できないのだ。おそらくこのシステムを公開した時点で、国際社会だけでなく、国内からも酷いバッシングを受けるだろう。それぐらいの想像はつく。しかし。


「<ヤタノカガミ>って発動してたんですね……」


 この手の情報は一般に公開されることはないのだろう。いたずらに国民を心配させてはいけないだろうし。


「ここ最近は少なかったんだけどね。それでも時々は発動してるし、やっぱり春分、秋分の日は特にねらわれやすいね」

「俺……あ、僕はこれに携わっていいんですか……」


 正直、国防に直接関わる仕事だとは思っていなかった。責任が負えるとは思えず、一抹の不安に佐久間さんは苦笑する。


「それはなぁ、上の決定だからね。俺も防衛隊に所属しているとはいえ、所詮技術屋の一人だからなぁ。お偉いさんの考えることはわからないよ」


 確かにその通りなんだろうけど、僕は不安をぬぐえないまま、ふらふらと立ち上がると、姫巫女の顔をのぞき込んだ。僕よりも幼いであろう、いとけない寝顔。彼女は何事もなかったかのように眠り続けている。


「巫女様はおいくつになられるんですか?」


 僕の素朴な疑問に、佐久間さんはそっと目を伏せた。憂いているようにも見える。……実際そうなのかもしれない。


「…… 14の時にお仕えになってから4年。今年で18になるかな」


 僕はそっと感嘆のため息をついた。14歳。僕は何をしていただろうか。18の頃は、何を思っていたのだろう。


「そう、ですか」

「どうした?」


 僕が力なく呟けば、佐久間さんは気を取り直したように僕の顔をのぞき込んできた。


「いえ、情けないなと」


 唇を噛み締め、答えた僕に、佐久間さんは目を見開く。


「情けない……か。君は本当に……」

「なんですか?」


 途中で口をつぐんだ佐久間さんに、僕は振り返り訪ねるけれど、佐久間さんは緩く頭を振っただけで言葉の続きを紡ぐことはなかった。ただ、神妙な顔をして、少女の顔をのぞき込む。


「いや、そうだな。情けないな。国の全てを一人の少女に背負わせている。本来ならば国民一人ひとりが担うことなのだが」


 彼のもっともな意見に、僕は言葉を失い、ただ立ちつくすしかない。


 佐久間さんと僕は、しばらく少女を見つめていたけれど、不意に佐久間さんは僕を振り返ると、ニカッといつもの笑みを浮かべた。


「そろそろ交代の時間だな、引き継ぎの準備をしよう」

 そういって、未練などないかのようにきびすを返す。強化ガラスがはめ込まれた扉の向こうには交代員の影が見える。

 僕は彼女に再度、視線を落とす。


「お疲れ様です。せめて、よい夢を」


 口の中だけで小さく呟き、僕もまた引き継ぎの準備をするために、きびすを返した。

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