婚約者の王太子殿下がずっと私のことを知らないふりするので他のみなも私のことを知らないふりするようになってしまいました……婚約破棄の原因となった女性と私の前で平気で微笑みあうのです。ひどいですわ
「殿下、私、あの」
私が話しかけてもこちらを見ることもせず、女性相手に談笑しています。
私は舞踏会で壁の花のまま、殿下はこちらを見ることすらしません。
「サーシャさん、あの私……」
「あら、ローラさんお久しぶりですわ!」
私が声をかけると、知らんふりでお友達であったサーシャさんは違う人に声をかけます。
もう1年以上こんな感じでした。
私は殿下の婚約者でありました。
しかし殿下はある時、心変わりして庶民の女性を愛して、私と婚約破棄をすると宣言をし、その時から私はすべての人から無視される存在となったのです。
ええ、殿下が無視するので、他の人も無視します。
家に帰ってお母さまに泣きつくと、いつかそれもなくなるわというのです……。
でも庶民である女性と婚約し、殿下はとても幸せそうでした。
「……どうされました?」
「はい?」
白い髪に紅の目、珍しい色彩の人でした。私がふと見るとその人はこちらと目が合い、なんですか? と聞いてきたのです。
「あなた、私のことを無視しないのね!」
「無視してどうなるものでもないですし」
「うれしい! あなたお名前は?」
「シオンと申します」
「私はユーレリア・オージュよ」
私はにっこりと笑い、シオンの横に立ちます。
壁の花はシオンもでした。
「……私、婚約破棄された人なの」
「ええ聞きました」
「それからずっとみんなが私を無視するのよ」
「……目も合わせないと」
「そうなの」
シオンはふうとため息をつきました。私は殿下がこちらをちらっと見たので、笑いかけましたが、でもふいっと無視するのです。
心変わりされたのは仕方ないけれど、気にしないようにしているつもりでした。
だって……王族ににらまれたらおしまいですもの。
「あなたはどこのおうちの人なの?」
「男爵です。ローズベリー男爵の血縁にあたります」
「そう初めて見るわあなた」
「そうですね今日が初めてです」
シオンはふうと小さくため息をついて、お母さまはお元気ですか? と聞いてきました。
お母さまのことを知っているの? と聞くと、はいと頷きます。
「昔、お世話になりまして」
「そうなの」
私は舞踏会も佳境に差し掛かったけど、やっぱり誰もダンスにすら誘ってくれないわとため息をつきます。
ずっとなのよと……。
「館では、お母さま以外の方と会話されることは?」
「ほぼないわね、使用人も私のことを知らないふりするのよ」
「……」
「私、お母さま以外とお話したことすらないのよ最近、話しかけても無視されるの」
「これ以上、多分ここにいたらいけませんよ。ユーレリア嬢」
「え?」
シオンはこちらを悲しそうに見ます。そして自覚してない人に対して、あまりこういう手は使いたくなかったのですが、と懐から鏡を取り出しました。
「え? なに? 私、私が映ってない……」
私が映っていませんでした。他のみなの姿は映っているのに。
「ええ、そうです。無意識に見ないようにしてきたのでしょうが……」
「私」
「そろそろ行かないと、道がなくなりますよユーレリア嬢」
シオンがすっと窓の外を指さします。窓の外には白い光の道みたいなものが続いていました。
空に向かって伸びています。
「……私、私」
「1年前に、あなたは殿下に婚約破棄をされたのに驚いて、心臓発作を起こして死んだのですよ。もともとお体が強いほうじゃなかったとはいえ……」
「私、死んじゃってたのか」
「ええ、私は、あなたが死んでからもずっとあなたと話し続けるお母さまをなんとかしてほしい、心がくるってしまったのでなければ、あなたの魂がこの世にとどまっているかもしれないとあなたのお父様から相談を受けた、降霊師です」
「そっか、私……」
「ほら、大丈夫、あなたは天国に行けますよ」
「お母さまにさようならを言いたかったですわ」
「心が残ると、道が消えます。申し訳ありませんが……」
「そうね、うん、行くわ、ありがとうシオン、でもすごく腹が立つわね、ずっと無視されていると思っていたら、私が死んでて、でもみんな楽しそうで、殿下は……」
「うふふ、復讐をよければしておきます」
「え?」
「だから……」
「ありがとう」
私は優雅にドレスの裾をつまんで一礼しました。
こちらを奇異の目で見る人たちが数人います。誰もいないところで話しているように見えるからでしょう。
「ありがとう、シオン」
「今度生まれ変わるときはあんなどうしようもないろくでなしの婚約者にならないように気を付けてくださいね」
「ありがとうわかったわ!」
私は手を振って、とんっと光の道に乗ります。そしてずっと空の上に向かって歩き出しました。
今度生まれ変わるときはあんなろくでなしと絶対にくっつかない運命を選びますわ!
「殿下とその婚約者殿が寝込んでしまわれたそうだなシオン」
「へえ」
「夜な夜な幽霊が出て眠れないそうだ」
「はあ」
「……もう一か月も寝てないとか」
私はおじ上に笑いかけました。あははそうですかあと言うと、お前、また何かやったなとため息をつかれました。
「お前、我が家のコネは使いたくないとか言いおって、降霊師とかいうろくでもない職業についてからに! わたしは死んだ我が兄や義姉にたいしてどうやって……」
おじ上がくどくどとお説教を始めます。
私はこれがあるから、舞踏会に潜りこむのにおじ上に手を借りたくなかったんだよとため息をつきました。
「いやあ王族というのは恨まれているものですねえ。地縛霊や浮遊霊がたくさんいたので、皆さんに……」
「わかったわかった、聞かなかったことにしておく、シオン、お前は我が跡取りに」
「いえいえ、私はこのままの身分のほうが気が楽なので結構です」
おじ上曰く、正当な跡取りは私だそうですが、私は今のままでいいのです。
しかしかわいそうなユーレリア嬢、あんなろくでもない婚約者をもって……。
これくらいの復讐しかできない私が情けないですねえ。呪い殺すのはなしとして……。
「お前な、そろそろ嫁を!」
「私、心に決めた人がいるのでそれはなしで!」
私はにっこりと笑って拒否しました。ユーレリア嬢、天国で元気でされてますかね。
これくらいで終わらせるのもちょっとどうかと思いますので、もう少し霊障を起こしてもらいましょう。
私はにっこりと笑って、おじ上のお説教を聞いたのでした。
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