愛と呪いの重さは天秤で測れるか
ああ、彼女は今日も美しい。髪は梳いたら指から零れ落ちてしまうストロベリーブロンド。色素が薄いから日に当たったらまるで妖精のように幻想的だ。瞳は彼女の一族の特徴である鮮やかな新緑の色。その瞳に見つめられた時から彼女は僕の心を離さない。
「もう一度彼女に会いたい。僕から会いに行こうかな。でも、僕なんかが会ったら彼女が汚れてしまう。僕の死を持って償うしか……」
「けっ、何度同じことを聞かせる気だ、リオウ。オメェは呪われてるが、呪いが発動するのは、想いが成就した時だろ?成就さえしなければ呪いは発動しない」
その無責任な物言いに僕は激怒した。目の前の男とは腐れ縁だが、その言い草はいただけない。
「もし万が一発動したらどうするんだ!彼女の視線が僕だけに注がれて、彼女の口は愛の言葉を紡ぎ出し、彼女が僕と番いたいと言ってくれたら」
「まだ知り合いですらないのによくもまぁそこまで考えるねぇ。んーと、そうだな、とりあえずは……遠目から見るだけならどうよ?会うよりハードルも低いだろ」
「あなた、身体鍛えてるわよね?よく使うのは槍?ねぇ、何か話してちょうだいよ」
腐れ縁のいい車に乗せられた僕は、なぜか憧れの彼女と一人では絶対行かないような今時の喫茶店で向かい合っている。
「私の名前をまだ言ってなかったわね。親しい人は私をレインと呼ぶわ。あなたは?」
「……レイン……」
教えてもらった彼女の名を呟くように噛み締める。本当の名前は番じゃないと教えてもらえないけど、仮の名前を教えてもらっただけでもう死んでもいいくらい幸せだ。
「え?聞こえなかったからもう一度教えてもらってもいいかしら?」
ちょっと困ったような表情も可憐だ。ダメだ、会ったら、ますます彼女がほしくて仕方ない。
「もしかして、緊張してる?それとも、私には答えたくないだけ?」
でもやっぱり、彼女を困らせたくはない。彼女にはいつも笑顔でいてほしい。不幸など一つも起きてほしくない。僕は、いつもの嫌われ者の仮面を被った。
「……リオウ。俺に話しかけるなんて物好きだな、アンタ。なんなら呪いを移してやろうか?」
こう言って離れなかった奴はいない。これでいい。彼女と僕は住む世界が違う。
「あら、当代は引きこもりの穀潰しと聞いていたけど、いい男じゃない。呪いは重い分条件が厳しいものだと聞いてるわ。それでも、引きこもってることには同情していたけど……あ、私を助けてくれたお礼に、イイコト、してあげてもよくてよ?」
予想していなかった反応に内心驚いて、イイコトという言葉にまさかからかわれてるのかとドギマギしつつ、表面上は何も感じていないように返す。
「……いや、助けなくても、あの暴漢くらいアンタ一人で倒せてた。そうだろ?」
「嫌だわ、か弱い乙女にそんなことできる訳ないじゃない。でも、感謝しなきゃね。私、あなたみたいないい男が大好物なの。……ワープ」
大好物という言葉に引っかかりを感じた後、浮遊感が身体を襲い、気づいたら僕はベッドの上にいた。彼女の細い腕が僕を抱きしめる。
「ねぇ……いいわよね?」
ベッドからは微かに他の雄の臭いがする。彼女はいつもこうやって雄を誘っているのか?番いもせず、快楽を得るためだけに。いや、違う。彼女の祖母は淫魔だから、その血が濃く出ていて、性行為そのものが食事になるのだろう。しかし、本来性行為とは番同士が子を生すために行う神聖なものであるべきだ。こんな風に、と思考の渦に巻き込まれている間に、彼女の指が僕のベルトを外し、下着に手をかける。
「立派ね……。こういうのは初めて?」
思わず生唾を飲む。ダメだと思いつつ、彼女から目を離せない。そして、他の雄の気配がするこのベッドに本能が反応し、早く彼女を自分のものにしろと訴えかけてくる。
「リオウ、あなたの身体を私の男にしてあげる」
結論からいいます。とても、気持ちよかったです……。