3歩 おいでませグランドオニオン①
(´・ω・`)フォール、やらかす
◆
「( ……………のはずなのに、昨日の今日で別バイオームに来ちゃったなぁ)」
大きなスライムを吸いきって体力も食料ゲージも水分ゲージも全回復。ようやく一息ついたフォールは周囲を見渡す。
「(ん〜 …………荒原か山岳?なんかこんな感じの世界遺産があった気がする。えっとグランドオニオン?違う、なんか違う。あー!オニオンが脳内に居座ってる!玉ねぎ邪魔!)」
オニオン、オニオン?オニオンじゃない。パッと思いついたグランドオニオンがフォールの頭から離れないが、やがて正解を導き出す。
「(グランドオニオンじゃない!キャニオンだわっ!)」
ようやくスッキリした様に胸中で叫ぶフォール。しかしその声に応える者はなく、轟々と滝だけが音を立てていた。
「(やっべ、なんか超虚しいんだけど)」
そのバイオームは、赤褐色の岩肌と川周辺のみに生える草木のコントラストが美しい巨大な峡谷だった。
鬱蒼と草木の生い茂るジャングルバイオームと違い、そこは非常に見渡しがよい。そう、ちょっと目線を上流の方に向ければ、スケールの狂った鳥の巣様な物の上を飛ぶ巨大なエネミーの姿もバッチリと確認できてしまう。
「(ヤッベ〜、あれドラゴンじゃね?うわぁ、火ぃふいてるぅ〜)」
ジャングルででぶトカゲをぽこぽこ殴っていた自分達は一体なんだったのか。どう見ても強そうなエネミーの姿にフォールは思わず遠い目をする。
やたら死ぬゲームとはスーチェから幾度となく忠告されてはいたが、フォールも流石にウェルダンでドラゴンに美味しくいただかれるのは嫌だなぁ、と思う。
「(さて、どうしますかね~?)」
見渡す限りの美しい高原と峡谷のマッチしたバイオーム。そこには大型の生物も小型の生物もよく見ればうろついている。フォールは取り敢えず探検してみようと思い、高原をテクテクと歩き出す。
その道中ではミーアキャットやフェネックらしき生き物や、カンガルーとカピバラの中間みたいな生物の群れも見かける。しかしそれらは攻撃性の高い生物ではなかったようでフォールに襲い掛かってくることはなかった。
植物という面ではサボテンやバオバブの様な幹の太い木を発見することができた。反面、果実などは発見できなかった。
暫く当てもなくドラゴンとも滝とも離れたほうへフォールが歩みを進めると、岩が尖り帽子のような形で連なり、その上に天然の岩のアーチができている場所を発見する。まるでそれは針山のトラップのようで、俄然興味が湧いたフォールは駆け足でその不思議な地形へと進んでいく。
「うわぉ、めっちゃ綺麗やん」
距離にして2km程度だろうか。途中でサボテンや尖った石ころを回収しつつ、前方でうっすら確認できた巨大な蠍や蛇、蜘蛛からさりげなく迂回し、フォールは目的地に到着。遠くからみたら針が連なっている様に見えるだけだったが、近くで見ればその一つ一つが3m以上に達している。アーチ状の崖も思い切り見上げるほどに高くアーチを描いている。
岩肌はベースは赤褐色でも層状に色が異なっていてそれだけでも美しい。それが連なることである種近くから見れば迷路のようにも見えなくはない。フォールはアーチ状の崖を真下からみたいと思い、ずんずんとその針岩迷路を進む。
ジャングルは蒸し暑かったが、この高原バイオームはカラッとしていてかなり熱い。暑いというよりは“熱い”。
フォールは空を見上げ、燦燦と照り付ける太陽に目を細める。その時だった。涼やかな空気が足首を撫でた気がしてフォールは下を向く。
「(ん~?気のせいじゃないよね?)」
フォールは皮袋に入れた水を指にかけて、濡れた指を地面近くに向ける。すると一部分だけが涼しく感じた。
「(こっちかな?)」
涼しく感じる、ということはそちらから風が来ているということ。こまめに指で方向を確認しつつ針山迷路を蛇行しながら通り抜けて進んでいくと、その先には斜め下に緩やかに伸びるようにぽっかりと大きな穴が開いていた。
「(この洞窟から涼しい風が吹いてたのか~)」
洞窟の中は日陰になっており、入ってみれば非常に涼しい。もう少し先にチョコチョコと歩みを進めると、フォールは洞窟の暗がりに隠れた穴を発見。そこから更に涼やかな空気が流れていることに気づく。
人間が一人身を屈めて通れる程度の穴をゆっくりと進んでいくと、真っ暗な筈の穴の先から淡い光が差し込んでいるのが見える。また岩はかなりひんやりとしており、穴を進むほどに湿気を感じ取ることができる。
穴を抜けた先には、絶景が広がっていた。
「(え、なにここスゴ!あたりスポットじゃん!)」
そこには岩肌から溢れる水により、非常に清らかな小さな池ができていた。その池には青白く発光する大きめなキノコが何本も生えており、またその池には蛍と水黽の中間のような手のひらサイズの光る虫がスイスイ泳いでいた。更に嬉しいことに、池の底には仄かに青く光るスライムが集まって水中を照らしていた。
「(こんなところに拠点とか作りたいよなねぇ)」
ここに来た記念に何かを設置していきたい。そう思ったフォールはインベントリリストを表示してなにか手ごろなアイテムがないか確認する。すると、リストの中に手に入れた覚えのないアイテムがあった。
「(『TemporaryBaseCoreMachine』?なにそれ?)」
フォールがそれを試しにアクティベートすると、手のひらの上に一辺50㎝ほどのメカメカしい正八面体が出現する。すると視界の中にうっすらと緑色の光で照らされている部分と紅く表示されている部分ができる。これは設置可能なオブジェクトを手にした時に起きるアシストビジョンで、設置型オブジェクトは緑色で表示されている部分にしか置けない。
よくわからないが面白そうなので、フォールは池の横を抜けて洞の少し奥、一段高くなっている台座の様な部分の中心にそれを設置する。
するとその正八面体からシャキンと棒が伸びて地面にがっしりと固定され、緑色の光を放つ。そして半径5m程度の緑色の光のドームを形成する。
「(おー、この光の中にいると生命力とかは高速で回復するんだ。え、しかもこれって巨大なインベントリ付き!?超便利じゃん!!)」
しかしいつ手に入れたアイテムなのかサッパリ心当たりがない。なにか取得ログでも残ってないかとメニュー画面を開けば、通知が大量に届いていることに気づく。
「(あ、しまった。春乃達に生存報告してないじゃん!)」
それならばこの大量の通知も納得がいく。フォールが慌ててトループのチャットを開き生存を報告すると、スーチェ達から予想外の返事が返ってくる。
――――――――――――――――
フォール:ワレ、フォール
フォール:ナントカイキテルヨ
スーチェ:ネタに走ってるくらいなら結構大丈夫そうですね。ソロでもエンジョイしているようですし
ウィノウ:それにしても綺麗な場所よね。グランドキャニオンをイメージした壮大なバイオームばかりかと思えば、人工の光に侵されていない秘密の洞窟。私も行ってみたいわ
フォール:ちょいまち。なんで二人とも私の現在地がわかってるふうなの?教えてエラい人
エーテ:2人というより、たっくさんの人が知ってるとおもうよ?だってフォールちゃんずっと前からライブ配信し続けてるじゃん!VG・Broで急上昇ランキングに入ってるし!( ≧ᗜ≦)੭ु⁾⁾
フォール:ライブ、配信、とは
ウィノウ:やはり気づいてなかったのね
――――――――――――――――
何か非常に嫌な予感がして慌ててメニュー画面を弄るフォール。メニュー画面をよく見れば左上に赤い点の様な物が表示されおり、小さく『ライブ配信中』という文字が。
「(くぁwせdrftgyふじこlp !?あ?えっと?ん゛ん゛ん゛!?嗚呼ーーーーー!!ナニコレ!?珍百景!?ダァシエリイェス!!)」
不測の事態に一時的にテンションがイカレるフォール。パァン!と素早く赤いボタンを引っ叩きライブ配信を終了させた。
「(え、しらない。はるかしらないもん。なんでライブ配信してんのぉ?)」
意味不明すぎて幼児退行を起こすフォールがチャットに縋り付くと、スーチェから直ぐに解答が返ってくる。
――――――――――――――――
スーチェ:憶測ではありますが、フォールさんあの怪物の口の中にいる時にメニュー画面をよく見ずにいじってませんでした?
フォール:しました。しちゃいました
でもさああああああ勝手にライブ配信する機能があるなんて知らんのだけどオオオオオオオオオオオオ!?必死に一人で頑張るの虚しいからスーチェ達に私の勇姿を後で見せつけてやろうと録画し始めて切り忘れだけなのにうわああああああああああ
エーテ:鎮まれ!鎮まりたまえ!さぞかしバズってるギャルと見受けたが何故そのように荒ぶるのか!
(๑˃̵ᴗ˂̵)/オチツクノダ
(ΦωΦ)急上昇ランキング30位オメ!
フォール:んぎぃ
ウィノウ:死体蹴りはよしなさい。人間に戻れなくなってるわよ
フォール:百年後まで、御機嫌よう ( ゜皿゜) ==|ニニニ>
エーテ:十二番隊隊長……だと……?というよりフォールちゃんが壊れてる! ( °o°)
スーチェ:事前に詳しく説明していない私にも非があるのですが、このゲームはVR系ゲームの配信がダイレクトに可能な動画投稿サイト『VG・Bro』と提携していまして、『Re:Develo』でアカウントを作成すると自動的に『VG・Bro』のアカウントも作成されるんです。
――――――――――――――――
因みに、『VG・Bro』を運営している企業の新設された子会社が開発したのが『Re:Develo』であり、『VG・Bro』のアカウントを使って『Re:Develo』のアカウント作成も可能である。
この『VG・Bro』はVRゲーム実況者に今人気の動画投稿サイトで、『VG・Bro』とゲームをリンクさせればゲーム中の自分の動きを素晴らしいカメラワークで録画してくれるし、視聴者側からある程度視点を操作できる非常に革新的な技術を導入していた。
この技術のお陰でVRゲームの実況は非常にやり易くなり、ソロ向けのゲームも数多く配信される様になった。
そんな企業の子会社が開発したゲームは当然ながら『VG・Bro』とガッチリ提携している。
特に『Re:Develo』はビジュアルに非常にこだわり動画映えする光景が撮影できるので『Re:Develo』に限っては『VG・Bro』のプレミアムアカウントと同権限のクオリティで撮影が可能だったりする。
――――――――――――――――
スーチェ:フォールさんは録画ボタンを押すと同時に、よく見ずに操作したせいでライブ配信も開始してしまったのだと思います
ウィノウ:そのおかげで私達も貴方の無事と現状をリアルタイムで把握できたのだけれどね
エーテ:でもライブ配信なのに全く喋んないから多分これ気づいてないな〜とは思ったけどねぇ。途中から「事故配信じゃねこれ?」「気取った感じが0で盗撮してる気分になれて良き」「このギャルえっちい好き」「ア〇ル弱そう」「ヤリたい致したい!」って感じのコメントでいっぱいだったよ! (灬•௰•灬)
フォール:なぜ、人は人を愛するのか
スーチェ:あ、心にヒビが
フォール:てかア〇ル弱そうってもうパーペキセクハラなんだけど!?そいつらのア〇ルから手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせっかぁ?おぉん? (#ʘ言ʘ)
ウィノウ:咄嗟に意味不明な哲学的問題に逃げることで現実逃避をしようとしたのね。それにエーテ、わざわざ伏字にしなければならないようなことは触れなくていいの
フォール:あの、雪穂ちゃん、マジレス分析は一番ダメージくるから無しでお願いします。しかも拾わなくていい物をしっかり拾ってるし
エーテ:ついでに言っておくと、最初口の中で奮闘してた時は特殊な性的嗜好の持ち主たちが大興奮してて、スライムを吸い出したあたりから猛烈に視聴者数が伸び始めて、その後洞窟にたどり着いたあたりで急上昇ランキングに入ってたよ!
フォール:クソUIに変態オヤジ達のコンボなんてもうこの世界はおしまいだ!私は男どものオカズにされちゃうんだ!
エーテ:本音はぁ?(=^▽^)σ
フォール:急上昇ランキングにのるぐらいバズったなら自己承認欲求にたっぷり養分はいって幸せホルモンの大洪水だから全く嬉しくないと言ったら嘘になる
(`・ω・´)b
エーテ:フォールちゃんのそういう正直なところ大好き♡
フォール:私も天然そうで実はナチュラルS疑惑のエーテが大好き♡
スーチェ:あの、話戻していいですか?
エーテ:助けてフォールちゃん!フォールちゃんのお嫁さんが隣で冷えオコだよ!焼き餅をドライアイスで焼いてるよ!
ウィノウ:フォールのお嫁さんって言葉に照れてるから大丈夫よ
フォール:春乃ちゃんは私の嫁じゃ!誰にも渡さん!
エーテ:あたしもほしいです! (۶•̀ᴗ•́)はーい
フォール:ダメじゃ!おまえもワシの嫁にしちゃう!もちろんウィノウも私の嫁!それで円満解決!
エーテ:きゃー!フォールちゃん素敵ーーー!!(((o(*゜▽゜*)o)))♡
――――――――――――――――
脱線しまくって一向に進まないチャットに、ウィノウとスーチェは顔を見合わせる。
「これいつまで続くのかしら?」
「分かりませんが、フォールさんのメンタルが割と不安定な状態にあるのは確かです」
それから数分ほど取り留めもないくだらない漫才もとい話をして、チャットは本題に戻る。
――――――――――――――――
スーチェ:今回の件については、一応UIの改善依頼をGMコールでしておきました。私も試してみましたが、特に二重、三重の丁寧な確認もなくボタン一つ押すだけで配信が開始されてしまう仕組みの様ですね
スーチェ:それと一応フォローになるのか分かりませんが、『VG・Bro』と『Re:Develo』は同じ会社が運営しているので、ライブ配信を行うとなんらかの報酬を得られるシステムになっていたはずです。なにか運営から通知はきてませんか?
フォール:ちょいまち
――――――――――――――――
フォールが改めて通知を確認すれば、色々な通知が運営から来ていることに気づく。その中に幾つか該当しそうなものをフォールは発見する。