0歩 攫われのギャル系原始人
(´・ω・`)女主人公は初めて書くから初投稿みたいなもの
ブクマ・感想・レビュー・評価点をいただけると非常にうれしいです。
「そろそろ、餓死しそうですね」
「せっかくみんなで獲ったアムゾフログ(胴の太い中型犬サイズのトカゲ)の串焼きはアイツに食べられちゃったしね〜」
鬱蒼とした密林を突き進むのは、サラシに腰巻きだけの女性4人。
先頭のアスリート体型の女性が「ふんなぁっ!ふんしょぉっ!」と気合を入れつつ石斧で背の高い植物を切り倒し道を切り開いていく。
「ねーねー!道こっちであってる~?」
「どうかしら、何をもってして正解なのか誰にも分かっていない状況なのだけれど」
この4人は石の裏の少し開けた場所で休憩をとり、狩りで手に入れたトカゲ肉にありつこうとしていた。しかしそこに無粋な乱入者。あわれ、彼女たちのトカゲ肉は丸ごと飲み込まれ、彼女たちはキャーキャー姦しく騒ぎながら尻尾撒いて逃げ出すしかなかったのだ。
「えーっと、取り敢えず川沿いにいることは見失わないように進んでるつもりなんだけど~」
先頭で石斧片手に道を切り開く少女が自信なさげに答えると、他3人は顔を見合わせて首を傾げる。
「なにをもってして川沿いと判断してるの?」
「私達、あの怪物から適当に逃げてきてなんとか再集合したから、距離とか方角と完全にロストしてしまっているのだけれど」
「お二人の言う通り、マップでも川は表示されていないので確認することは難しいはずなのですが」
この世界では皆がMAPを所持しており、歩き回った範囲を自動で記録してくれている。しかしこの世界のMAPはかなり不親切で、レベルが上がらないとMAP更新範囲が最初はとても狭い。具体的に数値化すると、序盤は自分から半径約25m前後。ジャングルの中で何とか目視できる範囲とあまり変わりないのである。
「ん~、あたしは川の音が聞こえるよ?」
3人は聞こえない?と逆に問い返すスポーティー少女。4人は黙って周囲に耳を澄ませるが、3人には蟲と獣の声しか聞こえてこない。
「わたしは聞こえないなぁ」
「私も聞こえないわね」
軽くふわっとウェーブをかけた金髪ショートヘアであか抜けた感じの女性と、艶やかな黒髪でクールビューティーという言葉の似あう女性は首を横に振り、この世界で一番経験値の高い委員長でも務めていそうな生真面目な雰囲気を感じる女性に視線を送ると、その女性は考え込むような顔をする。
「ステータス、見せてもらえますか?」
「ん、いいよ~!」
しかし考えても明確な答えは出なかったのか、今度はスポーティー少女にステータスを見せてもらう。
「…………なるほど、戦闘数が多いだけあってレベルが高いですが、初期にステータスポイントを振るべき『運搬』にはあまり振らず、『感知』や『腕力』に振っているのですね」
「あははは、『運搬』や『食料』に振ったほうがいいとは言われたのは知ってるんだけど、戦いやすくなるからつい…………」
自分が経験者の指示を聞いてなかったことを後ろめたく思ったのか、笑ってごまかそうとするスポーティー少女。しかし経験値の高い少女はそれに怒るようでもなく、ジッとステータスを見ていた。
「原因は『感知』でしょうか?『感知』は戦闘時の視覚強化だけでなく他の五感もある程度強化するはずですので…………しかしここまではっきりと感知能力に差が出る物かはわかりませんが」
うーん、と考え込む委員長タイプ少女に、その肩をポンポンと叩いてショートパーマ少女はカラカラと気楽に笑う。
「まー、難しいことはおいおい考えようよ。今は“アイツ”からできるだけ離れて、次の棲み処を探そう!」
「そう、ですね。そうしましょうか。考察にはあとでお二方も知恵を貸してくださいね」
「いいよ」
「わかったわ」
「え、あたしは?あたしはー!?」
真顔でサラッとジョークを吐く委員長タイプ少女に、スポーティー少女はきゃいきゃいと騒ぎたてる。しかしその表情が深刻でもなければ再び道を切り開く作業を開始した辺り、それが分かりづらいジョークだと認識できていることは確かだった。
そんな彼女は相も変わらず「ふんす!ふんにゃぁ!」と謎の気合を入れつつ石斧をブンブンぶん回す。石斧の耐久値がなくなると、荷運び担当のショートパーマ少女から製造担当の委員長系少女が『短い木材』や『尖った石』などの素材を受け取り、『石斧』をクラフト。スポーティー少女に手渡す。因みにクールビューティー少女は道にある素材をチマチマと拾ってギャル系少女に渡す係である。
かれこれ十数分近く同じような作業を繰り返しているので、4人の連携も地味に様になっている。
そんな効率化された作業によって密林を突き進む4人の少女はステータスの『渇水』と『飢餓』が無視できなくなり、道を突き進む途中でクールビューティー少女が確保した未鑑定の『赤い木の実』を食べてみることにした。
見た目はもさもさした毛の生えた小さいドリアン、と言ったところか。其の果実は毒々しいほどに赤く、棘の先は黒ずんでいる。それを更に硬めの白い毛が覆っているのだ。道中で取り敢えず確保した非常食ではあるが、見た目からしてあまり食べたいような形状ではなかった。
スポーティー少女はその実にスパッと石斧を振り下ろし、果実を真っ二つにする。その毒々しい見た目の果実の中身は、黒いバージョンのドリアン。香りも非常にエキゾチックな独特の香りをしていた。
「『毒』になる確率は50%、『猛毒』は10%、『気絶』や『麻痺』の可能性は数%…………」
委員長系少女はその実を手に取りぽつりと呟く。この世界には『鑑定』という技能有れど、序盤はそれほど正確ではない。というより“機材”や“魔法”、あるいは毒物を感知する“生物”が無いと正確に判別することはほぼ不可能である。
残念ながら、この世界の人間は一つの星を支配する天下の人間様ではなく、クソザコ激よわ種族の一種でしかないのだ。
この世界では他三人より経験値の高い委員長系少女も知らない未知の果実。切り分けた果実を前に、4人は妙な緊張感からゴクリと唾を飲み込む。
「せーの、で食べようか」
「お、オッケー」
「…………わかりました」
「いいわよ」
ギャル系少女が代表して音頭を取ると三人も目配せしつつ同意する。その視線は牽制か疑心か、未知の食材を前にした時に起こる独特の緊張感が高まる。
「せーのっ!」
そして一斉にかぶりつく4人…………のうち、一人だけがバターン!と倒れる。前のめりに勢いよく倒れたスポーティー少女の手から大きく齧られた果実が転がり落ち、他三人は気まずそうに目配せする。
「本当に食べちゃいましたね」
「いつもなら4回程度フェイクを挟んでから食べるのに…………」
「でも、この純真さが彼女のいい所ではあるのだけれどね」
委員長系少女はしゃがみ込み、スポーティー少女の様子を取り敢えず【鑑定】する。
「栄養価と回復効果自体はかなり高いみたいですね。生命力や体力は大きく回復しています。ただその副作用として『気絶』するみたいです。致命的な『毒』ではありません。特定の処理をすれば食用可能な栄養効率の高い優れた果実だと思われます」
「死ななくてよかったね~」
「不幸中の幸いですね」
うんうんと頷く三人。しかし気絶中でも周りの様子はある程度見えるし聞こえている。その上チャットも使えるので、その三人のパーティーチャットには『なんで誰も食べてないの! (#゜Д゜) プンスコ!』『よくない!よろしくない!』『幸いでもない!』と苦情の高速連投チャットが来ていた。
未知の食材を前に毎度起きるこのチキンゲームでは、今のところスポーティー少女が8割犠牲になっている。どうせ食べなければいけないので彼女の行動は褒められるべきものだったのだが、他三人、特にクールビューティー少女と違い、食べた時の失敗率(毒含有率)が飛びぬけていた。この世界には『幸運』というパラメータはあれど、その植物が毒を持っているかはリアルラックに賭けるしかない。つまり、それはスポーティー少女のリアルラックの低さの証明に他ならない。
「どうしましょうか。収穫難度の低さや栄養効率は他の果実よりも格段に優れているので、気絶の回復から待って一人ずつ順番に食べましょうか」
「え、本気?」
「確かに、飢餓状態は深刻なレベルだけれども…………」
「効率的に考えると、現状ではこれが最適解です」
そんなスポーティー少女に思うところがあったのか、委員長系少女は予想していなかった提案を二人にする。しかしスポーティー少女があまりに勢いよくバターン!と倒れたせいで、ギャル系少女とクールビューティー少女は明らかにしり込みしていた。
「というより、この果実、かじると臭いが凄いね」
「形状がドリアンに似ているのであまり驚きはないわね。栄養価の高い物は臭いのキツイ物も多いから」
「確かに、匂いますね」
三人は目配せしあいちょこっと気絶状態のスポーティー少女から距離をとると、『あたしがくさいみたいじゃん!! (#゜Д゜) プンスコ!みんなひどい!』と再びお怒りチャットがくる。
「冗談はそこそこに、どうしましょうか?」
「気絶時間はどれくらい?」
「あと2分程度です」
「結構長いわね。それだけこの果実の持つ効果が高いという事ね。何か罠とかに使えそうだわ」
『あたしその間チャットしかできない!?』
もちろん彼女を担いで移動を再開することもできるのだが、この4人の中で一番腕力があるのも石斧の扱いに長けるのもスポーティー少女。他三人だけでは効率がただでさえ落ちるのに、一人を担いで進むのは現実的な話ではなかった。
手詰まりになり、うーん、と考え込む彼女たち。しかし彼女たちは忘れていた。激よわ種族『人間』でも明確にわかるほどの香りならば、人間よりも明らかに嗅覚に優れる他の生物共が感知できないわけがないことに。
この謎果実は獣達を強く惹きつけるいい香りがしているわけではない。しかしこの栄養価の高い果実をかじれば確実にその香りが周囲に拡散する。つまり『この果実をかじる様な生物が近くに居る』というサインに他ならない。
そう、この謎植物『フレムエルフルーツ』は栄養価がとても高い反面、『気絶』のデメリットと共に『肉食生物を引き寄せる』効果を持った『罠系果実』だったのだ。
バサッバサッと風を切るその音が聞こえた時には、既に遅かった。
元々鬱蒼と木が生い茂った場所なので地面辺りは明るくない。しかしそれが更に陰りギャル系少女が上を見上げれば、顔をサーっと青ざめさせる。
「ちょっ、ヤバ!?」
深く考え込んでいたせいで反応が遅れた二人はギャル系少女の鋭い声に一拍反応が遅れ、彼女の視線の先を見て思わず硬直する。
「また“アイツ”が来た!!」
バキバキッと木を降りながらこちらに突っ込んでくる巨体。フクロウナギに手とモモンガじみたの翼を生やしたような体長30mオーバーの怪物が彼女達めがけて突撃してきていた。反射的に散り散りに散開する彼女たち。巨大生物相手には推奨される賢い手段だ。しかしいち早く気づいたからこそ思考が働く時間があったギャル系少女は、地面に倒れたままのスポーティー少女を視認する。
そしてこのまま放っておけば彼女が喰われることは自明だった。
【モンスター(ボス級)があらわれた!】
たたかう
まもる
ちょうはつ
にげる
やきどげざ
ばいがえしだ!
お・も・て・な・し
たすける
ギャル系少女の視界にちらつくコマンド(幻覚)。3個ふざけた選択肢があったかそれは無視。優先順位で言えば、戦闘系極振りのスポーティー少女よりパーティーの荷物を一手に引き受けている倉庫役のギャル系少女ほうがパーティー内生存優先度は圧倒的に高い。何故ならこの世界に於いて資材は自ら手に入れるしかなく死んだらその場に放置されるので再度取りに行く必要がある。一方で人間が石斧程度で戦ってもたかが知れているからだ。
しかしまた外れくじを引かせてしまったスポーティー少女にギャル系少女も思うところがあったので、その体は思考を凌駕して咄嗟に『たすける』のコマンドを実行していた。
全てを飲み込むほど大きな怪物の口。その標的はピクリとも動けないスポーティー少女。そこにギャル系少女がギリギリでカットインし容赦無くスポーティー少女の身体を蹴り飛ばす。その直後、ギャル系少女はパクリと一口で飲まれてしまう。その怪物は餌が自ら口の中に飛び込んだのが予想外だったのか、ギャル系少女を飲み込んだ途端に激しくのたうつ。
その間に委員長系少女とクールビューティー少女はどうにか吐き出させようと必死に頭を回転させるが、怪物が飛び立つ方が早かった。
「フォールさん!!」
「フォール!」
『フォールちゃーん!ギャ━Σヾ(;`・Д・)ノ━!!!!』
3人が空へ叫ぶ一方、怪物は飛び立つ。更にそれに引き寄せられた他の肉食生物も集まってくる。これはこの世界では割と珍しくない光景だった。
◆
そんなよくある光景が見られる1日前のこと。
緩くウェーブをかけたショートヘア、そこそこ露出多めな格好をした、しかして顔はナチュラルメイク程度で柔らかな印象を受ける若々しい少女。凄い美人というほどでもないが、誰が見ても不細工とは思わない程度に整った顔立ちのほんのりギャル系少女『秋島 遥』が軽い足取りで歩いていると、後ろからパタパタと誰かが駆け寄ってくる音がする。
「遥さん」
「ん?春乃か~。どうしたん?機嫌良さそうだけど」
声をかけてきたのは、真面目そうな顔立ち、委員長でも務めていそうなそこそこ顔立ちの整った少女『桜田 春乃』。遥と呼ばれた少女はそんな彼女を“機嫌良さそう”と評したが、彼女は表情豊かな方ではなく初対面ではやたら冷たい冗談の通じない人であると思われがちな顔をしている。
しかしそれなりに長い付き合いの遥はそんな生真面目少女に見える春乃が割と冗談好きであることをしっている。それに、あまり豊かでない表情でも、仕草や歩き方で機嫌の良し悪しは察することはできた。
「1週間前から正式にサービスを開始した『Re:Develo』がかなり楽しいので」
そして、春乃は真面目そうな外見とは裏腹に、ガリ勉というよりは完全に廃人よりのゲーマーだった。
「それはまぁ毎日顔を合わせてるから知ってるけどさぁ、特に機嫌がよくない?」
そんな彼女がゲーム関連で機嫌が上下しやすいことも遥は知っている。しかしこの機嫌の良さはなかなか見ることのないレベル、明らかに浮足立っていると感じるほどだ。
ただ、他の人からすれば「いつも機嫌よくなさそうだけど、今日はわりと普通?」程度なのだが、遥にはまるで春乃がスキップでもしだしそうなほどに喜んでいるのがわかる。
「『Re:Develo』をプレイ可能な環境があちらでも整ったようです。久しぶりに雪穂さんと夏希さんとゲームができそうです。遥さんにも彼女たちからの連絡はきていますよね?」
「あ~、まだ確認してないや。それじゃ、家帰ったらやるかね~」
「はい、17時に」
遥は腕時計の様に付けた携帯端末を操作すると、拡張現実パネルが表示され、暇なときに調べておいた『Re:Develo』の情報を表示する。
「スウェーデン製のドM御用達“ファンタジーサバイバルゲーム”、ねぇ~。βテストでの評価は真っ二つ。やり込み甲斐が他のゲームよりも格段にある神ゲーか、難易度設定などが酷すぎるクソゲーか、肌に合うかはその人次第な玄人向けゲーム。オープンワールドで非常に広いけど、プレイヤー人口は多くないから数十キロ範囲で他のプレイヤーに出会うことはほぼありえない。
『素材をかき集め、一から建築して自分だけの住居を作り、発展を目指す』事をモットーとするゲーム。確かに春乃は好きそうなゲームだね」
「普通にログインすると初期リスポーン地点は先行プレイヤーとはかなり離れるので、初ログインの際は私が教えた座標コードを忘れずに打ち込んでくださいね。失敗すると私とは数十km離れてスポーンしちゃうので迎えにいけません。しかも座標を打ち込んでスポーン可能なのは最初の一回のみです。なのでそのままログインしてしまうとキャラデリして一からやり直しになってしまいます。くれぐれも気をつけてください」
世界での今のトレンドゲームはVRMMO系ゲームだが、春乃は大人数がワラワラと動くMMOタイプのゲームは苦手としていた。しかしソロオンリーゲームでは味気がない。少しわがままな嗜好を持つゲーマーである春乃が好みとするゲームは自然と『どちらかと言えば過疎ってる玄人向けゲーム』になる。
『Re:Develo』も同様に、春乃が好きなタイプの『玄人向けゲーム』だった。22世紀、VRやAIが発展したゲームでは、NPCが人間同様に高度な会話を行うことも一つの売りだ。また丁寧で親切なプレイヤーガイド、緻密なバランス調整、大人数での大規模戦闘も可能である。しかし、『Re:Develo』はそんな風潮に真っ向から対立するようなゲームだった。
一周回って不親切なまでの無駄に多いやりこみ要素。親切なゲームガイドなどなく『プレイして覚えろ』という硬派なスタイル。そしてその世界を闊歩する、プレイヤーを一蹴りで殺してくるような強大なエネミーたち。
ぼんやりとした不思議な世界観、人の手がほとんど入っていない世界を自ら探検し、世界の秘密を少しずつ解き明かし、文明の発展をしていく。序盤はモンスターに襲われ、飢餓で倒れ、有害な植物をかじって死に、天然のトラップである見えない崖や底なし沼にはまり、5分に一度は死ぬことも珍しくない世界だ。
死ねば所持アイテム・装備はその場で全ドロップ。時間内に死亡地点に取りに行かなければ全ロス。救済措置は一切なし。ほぼ裸一貫で放り出され、武器も防具も自分で一から作り、食事すらままならない中でなんとか生き抜く超サバイバルゲームである。
万人受けする爽快感と充実感を重視したゲームとはかけ離れた、22世紀のVRMMORPGにしてはかなりシビアなゲームだった。
まかり間違っても、今が女性としての一番のピークを迎えているであろう少女が目をキラキラさせて遊ぶゲームの類ではない。しかし春乃のゲーム偏食には昔からの付き合いである遥は慣れっこであり、それを苦笑するにとどまる。
22世紀ではVRも一般化し“ゲーム”はスポーツをも上回る市民権を得ている。なのでゲームという物が本格的に市民権を獲得しだした21世紀前期に比べて女性ゲーマーも格段に増えた。
しかし若い女性だけで、加えてそれなりに顔面偏差値が高いとなれば男から必ず声をかけられる。VR空間という現実と非現実の境にある空間だからこそ、男たちはより気軽に女性に話しかけられるのだ。
元から人見知りが激しく野生の草食獣の様に警戒心の強い春乃にとってはそれが非常に嫌だった。それは一番の親友相手である遥に対してでも未だに丁寧語であることからもわかるように、彼女は色々と線引きが激しいタイプなのだ。そしてその線を勝手に超えてくることを非常に嫌がる傾向にある。
だが今のVRはほとんどがMMO型が主流。となれば、企業が力を非常にいれるのも自然とMMO型になる。VR型のゲームはやはり生産コストが高いしデバッグも非常に手がかかる。となるとシングルプレイ用ゲームよりは22世紀主流のVRMMO型に多くの予算がおり、ハイクオリティのゲームがプレイできるのは確かだ。
故に、春乃のような偏食ゲーマーたちは『ほどよく過疎ってる玄人志向のゲーム』を好むようになる。
「とにかく、17時にお願いしますね」
「はいよ~」
こりゃ~忘れたら激しく落ち込んじゃうな、と思い遥は携帯端末のタスクに17時ログインと入力するのだった。
◆
携帯端末のタスクに入力するまでもなく、所用を終えて帰宅すると同時に春乃に直接せかされて遥は『Re:Develo』(春乃が買ってプレゼントした。お値段3万8000円)を起動してログインする。
今どきのゲームではプレイヤー達を惹きつけるために最初にステ振りだの課金要素だのランダムで得られる特典などがあるが、『Re:Develo』にはそんな要素は一切ない。初期ステータスは全て均一である。容姿はリアルの物をダイレクトに反映するタイプで、肌の色などプチ整形ぐらいに多少弄れる程度。初期装備ガチャなど序盤から心躍る要素もなく、自由に決められるのは名前ぐらいだ。
ただ、髪型だけはかなり自由に弄れる様で遥は自分の髪型をアフロにしたり落ち武者スタイルにしたりしてちょこっと遊ぶ。
「(っと、あんまり遊んでると春乃が心配しちゃうか。名前はいつも通り『フォール』で)」
“秋”島 遥でフォール。非常に安直だが遥が昔から使用しているプレイヤーネームだ。
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NAME:フォール
Level:1
Seed:人間
生命力:100/100
精神力:100/100
体力:100/100
食料:100/100
水:100/100
肺活量:100/100
運搬:0/10
脚力:1
腕力:1
智力:1
器用:1
耐久:1
感覚:1
幸運:1
工叡:1
魔導:1
古星:1
【武器・道具】
なし
【装備・アクセサリ】
頭:なし
腕:なし
胴:巻き布
脚:腰布
靴:なし
アクセサリスロット残り3
①
②
③
【称号】
固定称号:星の開拓者(効果:開拓者に必要な技能を与える)
称号スロット残り9
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
――――――――――――――――
やたら多いパラメータ、情報量の多いUI。これらも主流のUIからはかけ離れている。序盤からここまでプレイヤー厳選をするゲームも珍しい。春乃のお陰で玄人向けゲームに少し詳しくなってしまっている遥も、ここまでプレイヤーに媚びてこないゲームはなかなかお目にかかれないと変な感心をしてしまう。
しかし、少し気になるのは初期装備だ。女性プレイヤーに与えられるのは『巻き布』という名のぼろいサラシに、腰布だ。無論ポロリ防止、“中身”は見えないように完璧に配慮がなされているものの、水着より布面積が少しは多いはずなのに余計にエロティックな格好になっているのだ。
だが別の視点で見ると、男の場合は腰布しかもらえないらしいので『巻き布』が与えられる女性プレイヤーは幾らかマシかもしれない、遥はそう考えてみるも、やはり制作人に筋金
入りのHENTAIが混ざっているに違いないと自分の色々際どい姿を見て確信する。
遥は高校生時代、スポーツ狂いに付き合って朝は適度にランニングなどのトレーニング、学校まではかなりキツイ坂を毎日自転車で駆け上がっていたので元帰宅部ながら非常に健康的な肢体をしている。更にヒップやバストも地道な努力により平均値以上を達成。ウェストもしっかり引き締まっている。
そんな彼女自身も、仮の自分の見本アバターを見て『ちょっとエロいよねこれ』と思うほどだ。
他三人は、一人は生真面目な印象で隠れがちだがかなり着やせするナイスバディタイプなのは遥もよくしっているし、一人はソフトボール好きスポーティー少女でアスリートやモデルじみた体型、一人は胸こそ平均より少し小さいが全身のバランスが非常によく取れた完璧なプロポーションを誇るクールビューティー少女である。
そんな彼女らがこんな格好をしたら男子は思わず前かがみになっちゃうだろうな、と遥の心の中にいる小さなおじさんはそう考えてしまう。
閑話休題。
キャラメイクのメインである名前を付ければ、後はログインするだけ。普通ならそのままログインすればいいのだが、春乃から何度も言われていたことを遥は忘れていない。
「(初期リスポーンの座標は…………)」
VR機器に同期した携帯端末のデータから春乃が教えた座標を確認する遥。座標設定の欄にその数字を入力すると、遥は決定ボタンを押した。