束の間の平和
おじいさんが強盗の前に現れた。
「おいおい。笑わせるなよじいさん。お前に何が出来るんだ?」
「お前さんをあっという間に半殺しにできるが。」
「ぶはははは!!!これがボケ老人ってやつか。年は取りたくないねぇ。」
「いいからさっさとかかってこい。」
「じいさん。これはおもちゃじゃないんだぜ?」
「そんなものに頼らないとワシを倒せないのか?」
「ふん、安っぽい挑発だな。いいから俺を半殺しにしてみろよじいさん。」
「やれるもんならな。」
「うおああ!」
強盗の背後から寿司職人が飛びかかる。
強盗は素早くかわし、寿司職人は床を転げまわった。
「ナメやがって!」
強盗はすっかり頭に血が上ってしまった。
「なるべく穏便に済ませようと思ってたが、もう我慢できねえ!」
強盗は寿司職人に向けて引き金を引いた。
「ふう、ワシも衰えたもんだ。」
おじいさんのこめかみに、弾丸がめり込んでいた。
「ちっ!外したか。」
「昔は弾丸を掴むことなんざ、造作もなかったんだが。」
「何言ってんだ?ごちゃごちゃうるせーぞ。じいさん。」
「お遊びは終わりだ。若いの。」
おじいさんの身体中から汗が噴き出した。
「奥義、老廃物スプレッド!」
強盗へ向けて、無数の汗が弾丸のように発射された。
「ぐぼぉ!!!!!」
強盗の体に風穴が開いた。
「これがワシの銃だ。お前さんのよりずっと強力だぞ。」
「げぼぉ!!!!がばぁ!!!!!」
強盗は吐血した。
「安心しな。急所は外してある。」
さくらんぼ家
「うーん。死にかけたよ。」
「おはよう、たくろう。」
「ごめんね。卓郎君。」
「おお、卓郎君。目が覚めたか。」
「よかった。卓郎さん。」
「さっきのお茶。一体何が入ってたんですか?」
「猛毒よ。」
「猛毒!?」
「うちでは、毒への免疫力をつけるために食事や飲み物に毒を混ぜているの。」
「えぇ…」
「いつもの癖で、卓郎君のお茶にも猛毒を入れちゃったのよ。本当にゴメンね!」
「え、ええ。大丈夫ですよ。」
〈僕じゃなきゃ死んでたぞ。〉
〈この家の人たちは変わってるな。〉
『速報です。高級寿司店に押し入った強盗を、お笑いコンビ老廃物の多汗じいちゃんこと川井…』
「あっ、この人は!」
「卓郎君。この人を知っているのか?」
「ええ、まあ。」
「へえ~。強盗をやっつけたんだって。すごいわねえ。」
「まあ、あの人も超古代人の血を受け継いでいるからね。」
「へえ~。あの人も僕らと同じだったんですね。」
「そうそう。ここだけの話なんだけど。」
「なんですか?」
「元アイドルで女優の川井いこって知ってるかしら?あの子、老廃物夫婦の孫娘なのよ。」
「そうなんですか。」
「ちなみにあの子も、おじいちゃんおばあちゃんの力を受け継いでいるらしいわよ。」
「えっ」
「それに、おじいちゃんたちのものより強烈らしいわよ。」
〈知りたくなかった。あの娘、結構お気に入りだったのに…〉
「そっそういえば、ぶどうちゃんも相手を石化させる能力を持っているんですか?」
「ええ。うちの一族は全員、目が合った者を石化させる力を持っているわ。」
「やっぱり。すごい家系ですね。」
「ただし、ぶどうは特別でね、目が合った者をダイヤモンドに変えてしまうのよ。」
「それはすごい!」
「ちなみに、この家はそのダイヤモンドを売り払ったお金で建てたのよ。」
「ほえ~。さしずめこのお宅はぶどう御殿と言うところですか。」
「たくろう。」
「なに?さくらんぼちゃん。」
「わたしのへやに、あんないする。」
「その前に僕が汚した所は拭いておくよ。」
川上はウェットティッシュを取り出した。
潔癖症の川上は、常にウェットティッシュを携帯している。
「私が拭いておくわ。気にしないで卓郎君。」
「すみません。」
「いいのよ。元はと言えば私が悪いんだから。」
「たくろう。はやく。」
「わ、わかったよ。」
さくらんぼの部屋
「いい部屋だね…ん?」
部屋の隅に犬や猫の石像があった。
「さくらんぼちゃん。あれは何?」
「じぶんへの…いましめ。」
「戒め?」
「むかし、くびかざりをわすれて、あのこたちとあそんでしまった。」
「ああ…それでか…」
「そう言えば、他のみんなは首飾りをしていなかったね。」
「おとうさんとあかあさんはゆびわ。ぶどうちゃんはうでわ。」
「そうなんだ。ってうわあ!ゴキブリ!」
川上の足元にはゴキブリがいた。
しかし
「ん?」
よく見ると石化したゴキブリだった。
「ごきぶりも、せきかさせれば、こわくない。」
「だからって別に取っておかなくても…」
「いわれてみれば。」
さくらんぼは窓からゴキブリ石を投げ捨てた。
「……」
「ん?これはSHI☆BA☆KI☆AIじゃないか!このゲーム、結構やりこんだんだよなあ。」
川上はテレビ台にあった懐かしいゲームに気が付いた。
「やる?」
さくらんぼはゲーム機を引っ張り出してきた。
「よっしゃ!やろう!このゲームでは負ける気せんわ!」
「ぐぬぬ…」
「たくろうよわい。」
川上は、ゲームでもさくらんぼにフルボッコにされてしまった。
「む。もうこんな時間か!そろそろ帰ろう。」
川上が失神していたせいもあり、既に時刻は9時を回っていた。
玄関
「おじゃましました!」
「卓郎君。また遊びに来なさい。」
「はい。」
「卓郎君。これ。」
さくらんぼ母は卓郎に1万円札を差し出した。
「え、なんですか?これ。」
「交通費よ。ここ、遠かったでしょう?」
「いえいえ、結構です。」
「いいから取っといて。さくらんぼの友達が来てくれたのは初めてなんだから。私も嬉しいの。」
「えー、うーん。」
「ほんの気持ちだから。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「それじゃ卓郎君。気を付けてね。」
「はい。」
「たくろう。またね。」
「さくらんぼちゃん。またな。」
自宅
「今日は疲れたな。」
「…しかし、さくらんぼちゃんの本名を探ろうと、名前が書かれていそうな物を探してみたけど、何ひとつ手掛かりはなかったな。あの家、表札すらなかったし。」
「まあいいか。今日は寝よう。」
翌日
「さて、今日は家族に会いに行こう。」
それから半年間、川上は自由を満喫した。
家族を世界旅行へ連れて行ったり、友人と飲みに行ったり。
さくらんぼの家にも何度か遊びに行った。
そしてある日。