昔、とある神社で一緒に遊んでいた初恋の子は狐っ娘神様
夢を見ていた。電車に揺られ、すやすやと眠ってる時に、懐かしい夢を見た。
それは、俺がまだ幼稚園生だった頃。
散歩をしていた時に、山の中へ続く道をみつけ、登って行った先には神社がある。
そこで知り合った少女と一緒に遊ぶ夢。10年前の出来事だとしても、俺はしっかりとその時の事をまるで昨日の事のように思い出すことが出来る。
木々がゆれ、幻想的に合間から除く太陽光。そして鳥居の先で佇む金色の可憐な少女。
名前はお互いに知らなかったけど、それでも楽しかった思い出。初恋の夢。
そして今でも俺はその子の事が好きでいる。
『またね、きっとまたいつかこの神社でーーー』
「………………」
いつものお別れのシーンで目が覚める。それと同時に、なんとも言えない虚しさが俺の胸を覆い、首にかけてあるロケットがキラリと銀色に光る。
カチッと開けてみると、そこには幼い俺と、金髪少女が笑顔で手を繋いで写っている写真。こっそりと父さんのデジタルカメラを持って行って撮った懐かしの写真。
今回、高校に進学するにあたって、折角なら一人暮らしがしたい、折角なら思い出のあるあの子がいたあの街で暮らしたい……とは言っていないが、少しでも土地勘のある場所がいいと両親に言った。
田舎と都会の真ん中ぐらいの街。そこにあるマンションに家を借りることになった。家賃五万で1LKの1人で暮らすには少し広い部屋。お金は心配しないでいいと言われたが、流石にちょっと申し訳ない。
電車の車窓から眺める風景をぼんやりと眺めていると、あの時の光景が幻視する。あの子は今、何をしているのだろうか。
『間もなく○○駅に着きます。お出口は左側です』
電車から降り、駅の構内を出ると、懐かしさを感じる。10年前と見える景色は変わったが、何となく覚えている。
すぐにでもあの神社へ行きたかったが、荷物があると邪魔なので、先にマンションへ荷物を置きに行ってから行くとする。荷物は既に運んであるらしいが、荷解きはまた今度。高校入学まであと1週間はあるんだしのんびりとやっていこう。
既に貰っている鍵を使って今日から我が家となる家へ入る。しかし、感傷に浸るのは後。今はあの神社へ向かうことが先決である。
リュックサックを下ろしてスマホと財布だけを持ってすぐに家を出る。借りたマンションは、昔ここで住んでいた時と近い場所にあるので、道は覚えているはずだ………多分。なんか少し心配になってきた。
道を右へ左へと曲がりと曲がり、山へ向かう。会える嬉しさと、もしかしたら……という不安の気持ちがごちゃ混ぜになってなんとも言えない気持ちになる。
でも……何となくだけど、彼女はきっと居る。なんでかは分からない。再会の約束はしたが、日時の指定はしていない。でも、なんとなくだけどいるという確信がある。
道を左利き曲がり、坂道に入る。この先は山の頂上まで繋がっており、展望台がある。
その中腹部分に、目的の神社がある。
自然と、歩みが早くなる。どんどん早くなってついには走る。目的の道を見つけた時には息切れてしまい、肩で息をしていた。普段運動していないツケが回ってきたなこれ……。
でも…………。
「……良かったぁぁ、あって」
そこだけ、時代が切り取られていたかのように、何も変わっていない道。周りはどんどん時代が流れていくが、ここだけは時が止まったままだ。
森の木々に囲まれた道を歩く。昔は今日はどんなことをして遊ぼうかと喜々しながらこの道を歩いていた。
そしていよいよ、あの階段が目に入る。疲れているのに、俺は早くあの子に会いたくて走る。
階段も走る。会いたいという気持ちだけが俺の足を動かした。
「はぁ……はぁ……」
何とか登りきった俺は、季節外れの汗を拭って、鳥居の向こうを見つめる。
「――――――っ」
疲れているはずなのに、息がスっと止まる。視線の先には、木々の合間から入ってくる太陽光を浴びているあの子の姿。
いた。昔とは背丈も顔つきも変わっているが、俺はしっかりとその子が10年前のあの子だと確信を持って言える。
鳥居をくぐる。あえて真ん中から。
「……もう、昔から言ってるでしょ?鳥居の真ん中は神様が通る道。端っこから入って端っこから出る。昔何度も言ったよ?」
くるりと、ゆっくりと振り返る。そして重なる。昔の姿。
「……久しぶり。ちゃんと約束…果たせたね」
にっこりと笑う彼女。その笑顔だけは昔から変わらなかった。
ただ一つ……言いたいことがあるとすれば……
ファサ……ファサ………。
「……?どうしたの?」
「……あの、最初は無かったと思うんすけど、後ろの尻尾なんですか?」
「………………あっ!?」