それぞれの限界
翌朝、ダリスからエディンバラのことについて詳しく聞いて見ることにした。
「なぜその地にこだわるのですか?」
「あなたの息子、トランス君のスライムは、エディンバラから来たスライムの血を多く引き継いでいます。いずれはその地に向かうこともあるでしょう。その時に備えて、出来る限りのことをしたいのです。」
ダリスが言うには、エディンバラでは異なる言語が話され、土地は島国であるため少なく、飯がこちらの人間とは随分違うと言うことを聞いた。実際のところ、あまり詳しくは知らないようだ。
「魔物については、皆目検討もつきませんな。そもそも魔物なんぞがいるのかさえ…いや、スライムはいたと言うことらしいが…興味がおありなら、スクエアシャートの城に行ってみると良いでしょう。実は私たちもそちらに向かうところでしてな。書物庫を見せてもらえるように打診してみましょう。」
この世界にも書物はあるのか。それはそうだ。僕だって、ゲームで見たことがある。それに、この世界の書物といえば、魔物のステータスに影響を及ぼすものもあったはずだ。早速、スラ吉に本を読ませてみよう。
ダリスは城へ向かう前に、ここですることがあるようだった。あと3日はかかるという。僕は早速この町にある本をスラ吉に読ませるべく、あちこちの民家を訪れた。スラ吉には文字が読めないようだったので、全て読み聞かせようとした。
「農作物の育て方大全。最初は根菜でも見てみようか。根菜の種類には…」
「まって、僕に本を貸して。」
スラ吉に本を渡すと、なんと!食べてしまった!
「何やってんの?他人のだよ!?」
スラ吉は数十秒モグモグした後、本を吐き出した。本は綺麗なままだ。
「この本は美味しくないな。魔力が感じられないよ。」
なるほど。よく言ってる意味がわからないが、とりあえず読んでも意味がないということだろう。
僕たちの本棚巡りは、お昼過ぎまで続いた。宿屋に戻って、二階の本棚が最後だった。
「スラ吉、魔力が感じられる本ってあるの?」
「洞窟の奥にあった本は魔力があったよ。人間が言葉で何かを伝えようと思って書いたんだと思うんだ。」
つまり、コピーされたものではなく、作者が誠意を持って書いたものしか意味がないのだろう。
「じゃあ、この古い本なんかどうだい?」
「やってみる。」
スラ吉はモグモグした後、飲み込んだ。
「だから何やってんの?他人のだって!」
なんと、スラ吉のお尻から本が出てきた。内容はそのままらしい。本は綺麗なままだった。
「美味しかったよ。天の民について書かれた本だったよ。」
「なんて書いてあったの?」
「天の民はこの地を見ている。この地に異変が起きた時、天の民は動く。しかし、それに気づくものは何人いるのだろう。気がつくものは天の民の声を聞き、そうでないものは改変される。だから魔王の力には誰も気づけない。魔王はいつもこの地に干渉しようとしている。それを止めるのは、選ばれたものである、勇者しかいない。」
「なんでそんなものに魔力が宿るの?」
「わからないけど、この本からはとてつもない魔力を感じたよ。魔王様の魔力みたいだった。」
「スラ吉、君は魔王を知ってるの?」
「当然さ。僕のお父さんだもの。」
「え?」
「魔物の父さんは魔王だよ。僕たちはみんな、魔王の魔力から生み出されているんだから。」
「魔物と魔物が結婚したりして、子供を産むことはないの?」
「あるよ。でもそれは、魔王の祝福を受けて、少し力を借りないといけないんだ。だから、魔物と魔物の子、つまり、魔王の孫は、僕たちみたいな子供よりも強いんだ。」
「君には子供はいなかったの?」
「スライムは子供を作れない種族なんだよ。そのかわり、魔王が少しの魔力で簡単に作れる。」
「なるほど。」
「だから僕の成長の限界は4レベルだったんだ。そうだ、融合したから、もうすこし強くなれるかも知れない。教会に行ってみようよ。」
スラ吉のお告げどおり、僕たちは教会に行ってみた。暇そうなトランスもついでに連れて行くことにした。
「スラ吉は後349の経験値で次のレベルに、イアンはもう十分強い。トランスは後218の経験値で次のレベルに…」
僕たちは教会を去った。
「おじさん、顔色悪いよ?」
「ああ、心配しないで。」
「ね、僕、もっと強くなれるって、聞いた?」
スラ吉よ、お前の主人はこれ以上強くなれないのだそうだ、聞いたかい?




