異国の地
スラ吉と名乗る大きなスライムは、どんどん小さくなって、いつものスラ吉のサイズになった。
気が動転していて気づかなかったが、仲間ならステータスを見ることができるはずだ。そしてそのスライムのステータスは…
HP398 攻撃50 防御50 素早さ50 賢さ58 技:ストライク のしかかり
「おじさん?このスライムは本当にスラ吉なの?」
少年が話しかけてきた。
「そうみたいだね。何が起きたのかわからないけど。」
その言葉に反応したスラ吉は、辿々しく説明を始めた。
「ぼ、僕は死んじゃうと思った。食べられたとき、聞こえた。『一緒に 強くなる。人間を 倒す。』って。僕は教えてあげた。人間、いいやつ。信じてくれなかった。あいつ、たくさん刺されて死にそうだった。だから、僕、あいつと一緒になって生かした。薬草も使った。そしたらあいつ、薬草を持ってる僕が、人間と仲良くしてるって気づいた。今はあいつも、前のスラ吉もいない。二人で一緒になった。僕は大スライム。大スライムのスラ吉だよ。」
その光景を見ていた周りのスライムたちは、一斉にスラ吉に飛びかかった。スラ吉はダメージを受けていない。しかし、スライムたちは攻撃の手を緩めようとはしない。スラ吉は大声で叫んだ。
“In the name your king, I command you to kneel! STOP THIS NONSENSE!”
周りのスライムたちは一斉に平伏した。数匹、言葉を理解できないスライムが攻撃を続けている。
“Sam, Flora, Tim, I , SAID, STOP.”
名前を呼ばれ、3匹の言葉を理解できないスライムはやっと落ち着き、周りを見て、同じように平伏した。
“I leave this place soon. Still, you need a king. Joff, I’d like you to be the one.”
“No, your grace, I will always be with you.”
同じように英語を話したスライムは、スラ吉と融合した。それを見ていた周りのスライムは、何かを訴えている。
“So, this is your choice, is it? I will accompany this man, human, which is your enemy. It was once my enemy, too. I’ll ask you again, is this, truly, your will?”
なにかを言い終えて、周りのスライムたちの反応を見たスラ吉は、僕たちの方に振り返り、尋ねた。
「みんな一緒に来てもいい?」
僕と少年は顔を見合わせ、互いにうなずいた。
「いいけど、この量は困るな。」
「No worr... 心配ないよ。みんな一つになる。」
「わかった。けど、条件が2つある。一つ、この少年についていくスライムを一人つけること。弱くてもいいが、将来性があるやつね。もう一つ、スラ吉は今まで通り、日本語を喋れるままでいること。」
スラ吉はスライムたちに説明する。
スライムたちは集まって一つの大きなスライムになった。大きさは先ほどの大スライムとほとんど変わりないが、なんとなく威厳と威圧力に欠ける気がする。スラ吉の説明で、即席の大スライムは、普通のスライムと同じ大きさ、人間の膝より少し高い程度、少年にとっては腰のあたり程度の大きさになった。
「シャー!ピー!」
新しく生まれたスライムは、言葉を発することができないようだ。すると、スラ吉は口からスライムを一体吐き出した。
“As you command.”
出てきたスライムはそう言って、新しいスライムと融合した。
「少年!少年!」
融合したてのスライムは、言葉を発し始めた。
「少年じゃない。僕の名前はトランスだよ。」
「トランス!トランス!」
どこか英語っぽい発音のスライムは、ライムと名付けられた。
「よかったね、SamとFloraとTimは、もともとここにいたスライムだったんだ。こっちの言葉も少しはわかるみたいだね。」
スラ吉が説明してくれた。
「こっち?」
僕とトランスはほとんど同時に声を上げた。僕がその質問を続けた。
「ってことは、君たちは別のところからきたの?」
「From Edinburgh, エディンバラからさ」
スラ吉がそう答えると、ライムも頭を縦に振っている。
“We, I mean, I, am from Edinburgh.”
ライムは英語ならスラスラと話せるようだ。
スライムたちの話をまとめると、不思議な空間を抜けてきた、その空間は、すぐに消えてしまった、ということらしい。
洞窟探索を終え、宿に戻ると、少年の父親は驚いていた。
「トランス!お前もスライムを仲間にしたのか!」
「ライムって言うんだよ、お父さん。」
父親は僕の姿に気づくと、何かに気づいたように話した。
「またお世話になったようですな。自己紹介をしておりませんでしたが、私はダリス=グレニア。グレニアという地を訪れる際は、私と息子の名を伝えてくだされ。おもてなし致しますぞ。」
僕はダリスに礼を言い、こっそりと耳打ちした。
「まさか、あなたはその地の王なのでは?」
ダリスは意味深な笑みを浮かべたまま、何も言わなかった。返事はしないものと見て、僕は続けてこっそり質問をした。
「ダリス王、エディンバラという地をご存知ですか?」
ダリスは驚いた顔をした。
「旅のお方…ええと…」
「イアンです。」
「おお、イアンさん、少しこちらへ…」
ダリスは僕を地下室へ連れて行った。
「どこでその地の名を?」
「スライムが教えてくれました。その地からやってきたのだと。」
「なんと。あり得ませんな。船でも一月はかかるところ。ましてやこのような田舎には…いや、船に隠れていたのかも知れませんな。」
僕はスライムから聞いた情報を説明した。
「魔王が力をつけております。魔界との繋がりがどんどん強くなってきている。そのせいかも知れませんな。」
「このあたりの魔物も少し強くなっていますよね?」
「…そうですか。あなたはこの地を長くご存じで?」
「いえ、ここ数日で魔物の種類が増えたような気がしまして。」
「はっはっは!それは単に、知らない魔物と出会ったというだけのことでしょう。無理もない。この辺りの魔物は種類も多いですからな。」
会話を終え、夕食を済まし、ベッドに向かい、考えた。ダリス王でさえ、この世界の変化に気づいていない。何か不思議なことが起きても、魔王の仕業と理由づけ、疑おうとしない。なるほど、この世界の変化は、僕にしか分からないようだ。僕は、そこで考えるのをやめ、眠気と疲れに身を任せた。