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魔物を克服

 スラ吉はストライクを覚えた。これは喜ばしい発見だった。ステータス以上の攻撃力を出すことができるのだ。正しくは、僕とスラ吉の力の合計値程度の能力を発揮することができるようだ。その晩は、その可能性について考えながら床についた。

 次の朝、例の親子は隣の町に帰ると言うことだったので、例によってまたご一緒することにした。天の民の声が示したように、魔物の生息地に関しては大きな違いがあった。昨日の狼人間にしてもそうだが、今日は虎の魔物が出てきた。牙を落としたので、スラ吉に貰った。フワフワのフードをかぶった、牙をはやした魔物の誕生である。

 町に着くと、ターバンの少年が暇そうにしていたので、一緒に洞窟を探検することにした。スライム三体に襲われた経験がなくても、戦闘に対して意欲的になって貰いたいと思ったのだ。

 洞窟では、相変わらずスライムやウサギの魔物が出てきた。スラ吉は覚えたてのストライクを惜しげもなく使い、少年はそれをみて楽しそうだ。

「僕も魔物を仲間にしてみたいな。」

 少年の魔物に対する見方は、少しずつ変わっていた。怖れの対象から、興味の対象へと。

「魔物を大切にできるかい?」

 僕は少年に尋ねてみた。

「大切にかぁ。」

「そうだよ。人間を苦しめてきた存在だよ。許せるかい?」

「わからないよ。怖いもん。」

 少年のレベルは、やっと3レベルになっていた。とは言え、僕よりだいぶ強いようだ。

「この槍を使ってみるかい?」

 武器さえあれば、魔物への恐怖も少しは和らぐと考え、武器を少年に譲った。僕は代わりに、木の棒を持っていくことにした。どうせ僕が攻撃をする前に、少年が倒してしまうのだ。

 武器を持った少年は、果敢に魔物に向かっていった。魔物が落とす薬草は、すべて僕が貰った。正確には、スラ吉がすべて取り込んだ。少年が傷つくと、すかさず取り出して、少年の手当てをした。

「スラ吉ってすごいね。どれだけ物を持てるのか、試したくなっちゃうよ。」

 少年のその一言で、ドロップアイテムはすべてスラ吉へ、と言う流れになったのだ。

 

 洞窟を奥へ進んでいくと、スライムが大量に発生していた。大きな個体もいる。大型犬ほどのサイズから、人間と同じ高さを持つ個体まで、種類は様々だ。色もカラフルである。

「ちょっと怖いね。」

 怖気付く少年。しかし、スラ吉は進んでその群れに飛び込んだ。一番大きな個体に、ストライクを浴びせたのだ。大きな個体はびくともせず、不意打ちに腹を立てた様子でこちらに向かってきた。

「サイクロン!」

 少年が突然大声を上げた。すると、少年の手から竜巻が発生し、小型のスライムを蹴散らした。大型のスライムも、体を少し削がれた。

 小さなスライムは、恐れをなして逃げ出した。残ったのは、大きなスライム一体だけだ。

 大スライムは、その体をさらに膨らませて、僕たちにのしかかろうとしてきた。大スライムの粘性のある体質に足を取られ、僕はそのまま下敷きになってしまった。15のダメージを受けているようだ。

 少年は槍でスライムを突き刺した。体を貫通し、30のダメージを与えたようだ。

 大スライムは、開いた傷口を閉じようともがいていた。その隙を見て僕はスライムの下敷きから脱出し、戦闘態勢に入る。しかし、いくら木の棒で叩いても、3ダメージ程度しか与えられない。

「逃げよう!」

 少年は逃げようとしたが、周りは見物のスライムで埋め尽くされている。サイクロンを使うMPも、もう残っていないようだった。

 戦いの意思が残っているのは、スラ吉だけだった。大スライムの胴体に噛み付いて応戦している。僕と少年は、それを見ていることしかできなかった。

 大スライムはスラ吉が噛み付いたまま離れないし、振り解くこともできないことを悟った。そして、動くことをやめ、静かに目を閉じて瞑想を始めた。すると、スラ吉の体がどんどん吸収されていく。

 終わった。このまま死んでしまうのだろうか。どうせ死ぬなら、果敢に戦って死のう。僕は木の棒で手当たり次第に叩いた。相変わらずダメージを与えられない。それを見た少年も、果敢に槍で突き刺している。大スライムは動じない。30ダメージ、60ダメージ…合計で300近くダメージを与えたとき、大スライムはスラ吉を吸収し終えた。

 疲労と絶望で、僕と少年はその場に立ち尽くした。

 スラ吉を吸収し終えた大スライムは、もう一度膨れ上がって攻撃しようとしている。こちらに向かって飛び上がろうとしたその時、大スライムの動きが止まった。こちらに近付いたり、あちらに遠ざかったりして、苦しんでいる様子だ。反撃のチャンスだと言わんばかりに、少年は槍相手に向けて突進した。

「やめて!」

 突然の声に驚き、少年は足を止めた。

「僕だよ。スラ吉だよ」

 喋っているのは、大スライムだ。スラ吉を取り込んだことで賢さが上がり、僕たちが攻撃できないような音を出しているのだろうか。

「スラ吉はそんなに喋んねーよ!」

 スラ吉を奪われた怒りで、僕は叫んだ。

「本当だよ!僕、スラ吉だよ!」

「嘘つけ!ならば三回廻ってジャンプしてみろ!」

 大スライムは、その場で3回廻ってジャンプした。

「大きさも調整できるだろ。いつものサイズに戻ってみろ。」

 大スライムはプルプルしながら小さくなった。

「これで信用してくれる?」

にわかには信じがたい光景に、僕は何も返事をすることができなかった。」

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