慈悲
次の日の朝食は、ダリス親子と席を同じにした。明日、ついにスクエアシャートに発つようだ。ダリスは仕事の仕上げをしに、何処かへ向かった。僕は、スラ吉とトランスとライムを連れて、町の外に出た。僕の雷を試すのだ。
外に出る前に、僕たちは武器やに立ち寄った。以前、銅の剣を買うと約束をしていたのを思い出したので、トランスに銅の剣を、ついでに、ライムに石の牙を買った。トランスの竹の槍は、僕が返してもらうことにした。
今日の魔物は、大きなミミズだ。ちょうど4匹現れたので、それぞれが1匹ずつ倒すことにした。
トランスとライムは新調した剣を試し、スラ吉は冷却ブレスを開発していた。僕は雷をイメージして、ちからを貯めた。
ほかの3人は、あっさりとミミズを粉砕した。僕はというと、雷は出てこなかった。
「サンダー!ライトニング!スパーク!」
いろいろと呪文のようなものを試してみたが、どれも効果がない。ミミズの攻撃は竹の槍で打ち払いつつ、何度も呪文を唱えてみた。
「スラ吉!雷の呪文って何?」
「知らないよ!それに、呪文自体はなんでもいいんだ。自分がイメージしやすいものを試してみてよ!」
会話に気を取られて、ミミズの攻撃に反応できなかった。体を鞭のように横から打ち付けてきて、僕は吹き飛ばされた。打ち付けられたダメージより、地面で膝をすりむいた方が痛かった。ダメージは8。あと3回は吹き飛ばされても大丈夫そうだ。
起き上がると、すでにミミズは次の攻撃をしてきた。バックステップで躱したが、ミミズの頭は僕の左腕を擦った。掠った部分は、摩擦で軽度の火傷をおった。
これ以上は持ちそうにないと判断し、竹の槍を打ち付けることにした。クネクネと動く物体を捉えられず、槍はミミズを掠った。勢いよく掠ったと見えて、ミミズには2のダメージが通った。
掠るだけでもダメージなのか…掠る…静電気だ!
僕はちからを貯めた。静電気をイメージしながら。そして、竹の槍に集中し、攻撃してくるミミズを迎え撃った。
ミミズと槍がぶつかった時、バチっという音と共に、静電気が走った。ミミズには3のダメージが通った。
あれから何度攻撃を浴びせただろう。ただ向かってくるミミズの攻撃を、帯電した槍で受け止めるだけの、攻撃とは呼べないものだったが、それでもミミズは次第に弱っていき、ついに動かなくなった。ミミズは何とか首を持ち上げ、頭の先を僕に向けた。
次の瞬間、僕は後ろに吹き飛んだ。ミミズの頭の先から、蓄積された電撃が僕の方に放たれたのだ。僕は意識が飛びそうになった。ダメージは29。まさに瀕死状態だった。すかさずスラ吉が駆け寄り、薬草を使った。今までの痛みが消え去り、僕は立ち上がった。
トラストがミミズに向かって剣を降ろうとしている。
「やめろ!」
僕は叫んだ。僕はスラ吉から薬草を受け取り、ミミズに近寄った。もう動く力は残っていないようだ。
「スラ吉、君はほかの魔物と話ができるかい?」
「できる…と思うよ。」
「そうか、わかった。」
僕はミミズのそばにしゃがみ込んで、話して見ることにした。
「君のほかの仲間は死んだ。君はどうする?今の技を教えてもらいたい。あそこにいるスラ吉に教えてくれればいい。そうすれば君を助けよう。どうする?」
ミミズは首を持ち上げ、スラ吉をみた。スラ吉もミミズの方を見ている。
「キュルル…」
なんらかの声をあげ、ミミズはうなずいた。
「わかった、って言ってるみたい。」
スラ吉はミミズの言葉がわかるようだ。
僕は持っていた薬草をミミズに使った。ミミズは起き上がり、僕の前に大人しく蜷局を巻いて座った。