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そこに、いてくれ!
記録は度外視されたデッドヒートのレースで、一人が抜け出た。
その者が、苦しくて苦しくてたまらない今、両足に込めたのは、己の走る意味だった。
それでも、トップを走るプレッシャーと肉体の限界が、彼を、いつしかスローダウンさせようとしていた。
そして、登り坂で、とある声援に混じる、一つの発生がズバリ、彼のギリギリを射抜いた。
射抜いたはずだった。
ドンピシャで。
その時、極度状態で先頭を走る男の頭に、とあることが過った。
「ねぇ、スロリー、僕は今日、絶好調さ。普段、左腿がズキズキだけど、今日は右フクラハギに少しだけ」
スロリーは、今まで走ってきた。
そして、彼の人体には、ある感情によりシグナルが下る。
彼は、その時、己が本当に望んでいた最高の舞台で、この上ないスペクタクルで自分が走っていることを真に理解した。
体が、満遍なく熱く熱く、頭が冴えきったトップの男は、そのまま、その舞台で一番になった。