序章 2話
しくしくみっともなく子供みたいに泣くお爺ちゃんの声を背中で聴きながら、蔵の奥へ進んだ私はため息をこぼすしかなかった。
やはり10000円は良しとして、よくよく考えてみたら値打ちもないであろう骨董品などもらってもしかたがないなっと冷静になってから気づきバカバカしくなってしまった。
そんな心境でひっちゃかめっちゃかになっては放置されている骨董品をひとつひとつ雑な手つきで整理しつつ、竹ほうきとちりとりで地面のホコリを取り除いていると、私がいる蔵とはおおちがいに澄みきった夕焼けの陽射しが頭上高くある窓から差しこんでは私の顔を照らしたのだった。
普段なら気持ちのいいはずなのにこの時だけはうざくしか感じられなかった。
あえて無視する形で整理をし続けていると、ふっと突然、背後に人の気配を感じ、ばっと振り返ってみた。ものの誰もいなかった。値打ちのなさそう骨董品が乱れて並べられてるだけだった。
あれ、気のせいかな?
私は不自然に感じた気配的なものに首をかしげ、無意識に止まっていた手を動かしはじめた途端、また背後から、しかもさっきよりもはっきりと近くに得体の知れない気配を感じた。瞬間、先ほどよりも素早く背後にふりかえってみた。が、なにもない。
妙に橙色の夕陽に照らされた蔵の床しかなかった。
私はまた深く首をかしげては手をふたたびうごかしはじめた。
途端、私の肩に誰かの手がおかれた。これには心臓が飛び跳ねては素っ頓狂な声をあげてしまった。
「そ、そんなに驚くことではじゃないか!」
「それは私のセリフよ。心臓が止まるっておもったじゃない、 悪趣味にもほどがあるよ。さっきから嫌らしく私の背後に近づいてはおちょくったりするなんてさ!」
「そんなことした覚えはない。ワシは今来たんじゃからな!」
「なに嘘言ってんのよ!」
「嘘じゃない!」
「うそよ! あぁ、もういいや。どうでもいいわよ、そんなこと。とにかくもう驚かさないでよね!」
「ワシはたわいもないじゃれあいをしようとしただけなのに」
ちいさな子供みたいにお爺ちゃんは拗ねた。怒ったり拗ねたりして忙しい老人だなっと私はなにも言えない気持ちだった。
野良犬を追っ払うかのように手をふってはお爺ちゃんを蔵から出るように仕向けたのだった。
お爺ちゃんは黙って孫娘である私の指示に従って去ろうとした時、蔵の一番奥からガタガタガタッと物が小刻みに震え動く音が聞こえてきた。
私はもちろんお爺ちゃんも背中越して驚きで怖気つき強張った顔をしては固まってしまった。
無意識に私とお爺ちゃんの喉が鳴り響いた。