序章 一話
「けほっ けほっ、なんなのよ!? 孫娘にこんなホコリまみれな古い蔵を大掃除させるだなんてどうゆう神経してるのよ!」
「まぁまぁ、そういうな。ご褒美はちゃんと用意してあるから安心せい」
「ご褒美ってことはおごつかい!?」
脚立に跨っては大きな壺を抱えていた私、七可愛 春夏はお爺ちゃんのご褒美って単語に敏感に反応し眼をキラキラさせた。
が、お爺ちゃんは期待を裏切る笑みを浮かべては横に首を振っては「お前さんの好きなみかんじゃ!」とあっけらかんと言ってのけた。のものだから私は愕然とし肩の力が抜けては壺を落としそうになった。
「おわっ、! あぶねぇ」
お爺ちゃんがすかさず壺の底を持ち上げてはフォローをしてくれた。
「お爺ちゃん、ナイス!」
「気をつけてくれよ!大事なものなんだからさ」
おでこに冷や汗を滲ませたお爺ちゃんはマジな顔つきで文句を言ってきた。けれど私はわざとらしく鼻歌を鳴らしながら平然と言い返す。
「そんな言うなら私に手伝わさせなければいいじゃん!せっかく電車に乗ってまで来てやったのにさその態度はないよね」
そう言って落としかけた壺を掴む手の力を弱めさせた。が、お爺ちゃんは歳に似合わない素早い動きで壺をキャッチしてみせた。が、私はあえて無視をし他のホコリまみれの荷物に手をかけていた。
自分よりの大きい壺を抱えたお爺ちゃんはよろめき尻餅しては壺に押しつぶされてしまう。
「うぐぐぐ、春夏。助けておくれよ!」
「嫌だよ。お爺ちゃんはそのままでしばらくそこにいなよ。私はちょっと掃除ついでに宝探しでもしてくるからさ」
「ま、孫娘よ!お願いだ。ただでさえ最近、オバァからバカにされてるのにこんな姿を見られたらもうワシは救いようないじゃないか」
「よく言うよ! オバァとあんなに仲良くしてるのにさ」
「おまえは知らないと思うが、ワシはオバァにいじめられてるんだぞ!」
「胸張って言うことなの?」
ちょっとお爺ちゃんの情けない泣きべそ顔が可愛くおもえて脚立から飛び降り、しゃがんではお爺ちゃんのおでこを指先でツンツンっともてあそぶのだ。
「やめんか! はよ、この壺をどけてくれよ!」
「えぇ、どうしようかなぁ」
「おごつかいあげるから、どうか助けておくれよ!」
「どれぐらいもらえるの?」
「5000円でどうじゃ!?」
「5000円ぽっちかぁ」
冷や汗から脂汗になりつつある濡れたお爺ちゃんのおでこを円を描くように遊びながらじれったく首をかしげてみせた。「じゃ、10000円ならどうじゃ!!」
「よし、それでよかろう!」
「ほんとうか!?」
「ほんとうじゃ、しかし、この蔵にあるものひとつだけ私に譲ってもらおうじゃないか!」
調子に乗って殿様口調となりお爺ちゃんの壺に身軽な動きで乗っかり、さらに重さが加わり悶え苦しむお爺ちゃんの様子を笑いながら見下ろす。
「おまえは悪魔か!」
「悪魔とはなんじゃい!その態度は許せぬな!」
私は完全に殿様気分だった。
「わ、わかった。ならひとつだけお前に好きなものを譲ろうじゃないか!」
その言葉を聞いた私はニヤッと笑い、壺から飛び降りては側に偶然にあった木の野球バットを掴んでは振りかざしてはいっきに振ってみせた。
その瞬間、お爺ちゃんの悲鳴と私の無邪気な笑い声とともに派手に壺が割れる音が鳴り響いたのだった。
そのあとはもうお爺ちゃんは壺のかけらを拾い集めては泣きべそかいていたのだった。
その一方、私はお爺ちゃんとの約束の蔵の掃除と整理を再開したのだった。
私はまだ知らなかった。
この蔵であるモノを発見してしまっては、平凡だった生活が一変することを知らずにいたのだから私はほんとうに後々後悔することになるのかもね。