閑話1 アラン視点
私はアラン・アボット。
男爵家の次男であり、ドール侯爵家の執事見習いだ。
シュナトリーゼお嬢様の世話の為だけの雇われなので、お嬢様専属の#下僕__いぬ__#と名乗るのが正しいのかもしれない。
お嬢様は見た目はとても美しい少女なのだが、性格は苛烈で短気。
常時癇癪を起してばかりで世話をしていて正直うんざりする。
頭は悪いくせに悪口に関してだけは良く口が回り、普段から生活のほとんどを共にしている私が主にその悪口雑言を受ける事になる。
罵倒されている時その良く回る口を糸で縫い付けてやろうか…と思ってしまう。
旦那様は私ごときの事を気にして気軽に声をかけて下さり、なにか困った事があれば言うのだよと常々言って下さるような、仕えていて鼻が高くなるお方だ。
アマーリエ様とはあまり関わる機会が無いのだがいつもニコニコと優しい笑みを浮かべた柔和な方で、使用人に無茶な事を言うことも無く、世間からの評判も良い。最近は変だという噂があるが最近は関われていないのでその噂は定かではない。
他の使用人達も気さくで礼儀正しい人ばかりで、本当に良き同僚達だ。
お嬢様の存在だけがこの屋敷の中でいびつに歪んでいた。
初めて彼女と出会った時。
私は、恋をした。
この美しい人を1番近くで守れるのだと、誇らしい気持ちで胸が一杯になった。
そして彼女が口を開いた瞬間、その恋は破れた。
「嫌だわお父様、こんな汚らしい従者なんて」
無邪気に彼女は、毒を吐き。勝手な幻想を抱いた私の恋は砕かれた。
彼女は妖精のような可憐な顔で、醜い毒を吐く。
それが憎らしくて、憎らしくて。
しかし諦めきれない自分が居る。
お嬢様が朝大声を大声を出した時があった。
お嬢様が朝から癇癪を起すことは珍しい。何かしらできないことがあって癇癪を起していることは多いが。
何かあったのだろうかと向かうと既にカトレアが向かっていたようで部屋にはカトレアがいた。
ノックもせず入ったことを咎められるだろうかと思ったがどうやら私が入室したことに対して気づいていない様子だ。
そしてそこで信じられないものを見た。
あの傍若無人なお嬢様が謝っているところを。
たまたまかと思ったがそうではないようだ。
その後の家族の団欒の時でもお礼を言うし、ディートリヒ様が来られた際はいつもの態度ではなく淑女としての対応を行われていた。
私は夢を見ているのだろうかと思った。
初めて恋をした彼女が私の願いを聞き入れ理想のお嬢様になったのかと思った。
そして、私はお嬢様に二度目の恋をする。