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その吸血鬼は優雅であるのか  作者: 珈琲豆
優雅な吸血鬼は肉体を失う
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城下町に入ることは容易であるのか

森、というか整備された道を優雅に歩いていると直ぐに開けた場所に出た。まったく、勇者のおかげか知らんが魔物の1匹も出やしないもんだから退屈だった。せっかく手にしたこの肉体(と言っても骨だけなのだが)を色々試したかったのだが、まさかまた人間の相手をしなくてはいけないとは。


開けた場所には2人の槍を持った兵隊が立っていた。

「む、何者…」


直ぐに精神汚染の魔術の一種で2人の意識を奪い、ついでに記憶を一部見させてもらう。


なるほど。森の周りにまで防衛線を貼ってあるわけか。つくづく私も運が良い。どうやら周りの警備は人員の都合で普通の兵士のようだ。こんなところまでさっきの騎士のような連中がいたならば肝が冷えていたところだった。


ひとまず森さえ出れれば安心ということを把握したので、城下町に向かうことにした。もしかすれば、メイアとそこで合流できるかもしれない。


悪戯好きの炎の霊を松明の代わりに使いながら歩く。森から街までも昔と違って整備されていて馬車道になっている。森と街を繋ぐ定期便でもあるのだろう。歩きやすいのでありがたいが、代わりに周囲からは丸見えだった。


しばらく歩くと街を囲む大きな壁が見えてきた。城下町特有の防壁とでも言えようか。うっすらとだが、なにかしらの魔術結界まで張られている。昔の街とは大違いだ。



やれやれと、ため息を吐く。肺もない今の身体では吐く息など無いが、気持ちの問題だ。これは…非常に厄介な話になってくるのだ。



魔術というものは規模が大きければ大きいほどその精密さは増す。つまり、些細な衝撃ですら与えてはいけない場合もある。魔術構築の最中にクシャミをして生死を彷徨った奴など何人見たことか。


この点を利用しているのが、こういった街の防御結界だ。防御結界の性能がどのようなものかわからないが、貼るからには対魔法、対魔物用の処理は施されているはずだ。


今の私の身体で結界にぶつかれば、いくら高性能なローブを纏っていても塵となるだろうさ。隠蔽の魔術をかけて門を潜るのも危険過ぎる。王国の…更に言えば王都の結界だ。一筋縄では行かないことは十二分にわかる。


もし、この壁を誰にもバレずに突破しようと思ったならば、それこそ日が明けてしまう。


そう思案している内に城壁の傍まで辿り着いた。


唯一何事もなく突破できそうなのは、門を正当な許可を持って通ることだろう(それでも安心はできないが)。

しかし、それをやる為の身分を現す物が何もない。今の時期、この街となれば下手な賄賂も通じなさそうだしなぁ。顔を見せろなんて言われればこの骸骨顔だ。もうその場で切り捨てられよう。


困った。

この街に入らなければメイアと合流できない。そうなると今後の行動に支障が出る。


そんなことを思いながら城壁の周りを右往左往していると、街に入る為の門の前で人だかりができていた。急いで自身に隠蔽と探査不可の魔術を掛ける。せっかくなので少し近づいて話を聞いてみることにした。


「現地にいた隊からの連絡によると、吸血公爵と思わしき骸骨(スケルトン)はこちらに向かっている可能性があるという。死傷者は既に4人、聖魔術協会の魔術師が皆…」


私の話をしているのは鎧を着た騎士。別の隊だろう。で、肝心の話を聞いているのは…冒険者のようだが…


私は、冒険者を見てしまったことに後悔した。


何の因果だと神すら呪った。今更どの神だとかそういう問題ではない。

これは、あまりにも…


過酷過ぎやしないか??




騎士の話を聞いているのは4人の冒険者。聖職者のような服装の女、ガタイの良い剣士、レザーアーマーに身を包んだ女、そして、あろうことか…

黄金の剣を携えた優男だ。


忘れもしないあの剣は、かの勇者が神から賜った宝剣「闇割く金色の剣(ゴルディーン)」だ。

そしてあの優男…勇者…勇者フォルマンドだ。


そんな男が、復活したばかりの私の側に、もう、もういる!!


私は恐らくこの身体で出せる最高速度で城壁を離れた。だが、時は既に遅い。私は見てしまった…勇者を見てしまった。見てしまったという事は…


「どうしたの?フォル」

レザーアーマーに身を包んだ女が勇者に訪ねる。勇者は既にこちらを見ている。

「魔物の気配だ。すぐそこ」

「ったく、神の加護ってのは便利なのは良いが性能良過ぎるぜ?俺が始末してくるからお前は騎士様の話を聞いておけ」

剣士の男が言うと、勇者は無言で頷いた。


剣士の男は背中に背負う身の丈ほどある剣を抜き、構えながらこちらに近づいてくる。



あぁ、流石の私でも肝が冷えた。

もしも私がただの貴族だったならば、君に領地を譲ってもいいくらいだ。ありがとう、名も知れぬ剣士よ。


「おい、隠れてないで出て来いよ。じゃなきゃ…」


剣士の男の腕に力が入っていくのが感じ取れる。あの剣士は…恐らく、私が最初に行動不能にした男だろう。不用意にドアを蹴破って入ってきたものだから足の腱を切って呪いまで付与したはずだったが…


そう思っている間に、男は剣を大きく振り回した。


え?


男の周囲の草が刈り取られ、宙に舞う。それも、私のいる場所まで。

馬鹿な…魔術適正距離は間違いなく離れている。魔術の仕業ではない。人の手で、剣を振るった勢いだけで草を刈り取ったというのか?


「隠蔽の魔術か?だが場所は見つけた。器用に防御結界なんか張ってくれたおかげでな!!!」

剣士は地面を蹴り、大きく私との間を詰める。信じられない。随分元気な脚を持っているみたいじゃないかぁ!


鋭い斬撃が頭上から落ちてくる。転がるようにして避けると、さっきまで私が居た地面は地割れが起きたかのように亀裂が入っていた。

「初手を交わされたか。お前、ただの魔物じゃないな。まさか…」


クソ、次から次へと規格外の人間ばかり出てくる。想定外だ。


「フォル、ケーナ、シャルル、こっちだ!!吸血公爵は、ここにいる(・・・・・)


剣士は大声で叫ぶ。瞬時に撤退を試みようと思ったが…既に結界が張られている。恐らく私を閉じ込めようとして張ったものだろう。あの聖女みたいな女か?ここからかなりの距離があるというのに…座標指定まで会得した魔術師に成長しているだと…

20年前なら抱いていた。惜しい…、じゃなくて!


非常に危機的状況だ。優雅であるべく私がなぜこうも!「つくづく私も運が良い」なんて言った少し前の自分を憎みたいね!!!



「本当に、吸血公爵か?」

勇者が剣士の男の隣に立って言う。


勇者フォルマンド。神から授かった加護と黄金の剣と、精霊王から授かった精霊魔法を駆使する勇者。私の心臓に杭を打ち込んだ唯一の男。私を殺せた唯一の男。それが今目の前に再び立っている。


「なんで今更復活してきた。殺す前に聞いてやる」

勇者はそっと腰に提げている鞘から剣を抜く。辺りは夜で真っ暗だったのに、剣を抜いた瞬間眩い光に包まれる。それは悪戯好きの炎の霊(ウィル・オー・ウィスプ)のそれとは比べ物にならないものだった。


私の身体にかけていた隠蔽やら探索不可の魔術が剥がれていくのか感じる。悔しいのでわざわざ仮面を外してカラカラと骨を振るわせて嘲笑ってやった。


「返事は無しか。喋れないのかもな」

剣士が呟く。おうとも、骸骨には声帯は無いからな。察しろ馬鹿!


そもそも話すことなんか何もない。私と彼らの間にそういう物は必要無いのだから。念話だって使わないとも。


状況は最悪、まさに絶体絶命といったところだ。蘇って早々冥界に戻ることになるかもしれない。


さっき騎士に使ったような影の呪術はこいつらには通じない。勇者とその周囲は邪を払う。呪術の類が効くならば、遠くから呪い殺してやったのだがね。


全ては神の加護だ。勇者に加護を与えているのがどんな神か知らないが、死霊系魔物(アンデッド)にどれだけ厳しいのだか…



あれ…待てよ。加護?


「フォル、もうやっちゃおう。コイツ…さっきからカラカラ笑ってるみたいで気味が悪い」

「そうか…もし話ができるなら聞いてみたかったことがあったんだけどなぁ」


そう言いながら勇者は剣を高く掲げた。黄金の輝きが闇夜を引き裂き、周囲は浄化されていく。剣士の斬撃で刈り取られたばかりの草ですら、今じゃ生き生きと背を伸ばしている。


こうなったら、一か八かだ。あまり気の進むものではないのだがね…


「黄金の剣よ!!邪気を払え!!!!」

『冥王神の加護よ!!今こそ私を守りたまえ!!!!』



▽△▽△▽△▽△▽△▽△


「跡形もないねぇ…魔術の発動の痕跡も残ってない。これは完全に消えてるよ」

「そうか…シャルルの方はどうだい?」

「私の方もケーナと一緒。フォルの剣を受けたんだから仕方ないって気はするけど…もうここら一帯は神気で満ちてる。邪の入る隙間なんか微塵もない」


勇者の剣は邪気を払う。その為、勇者が剣を振るった場所は魔物は寄り付かなくなるという。


「ったく…俺にやらせれば良かったんだよ。お前が剣を抜く度に観光地が増えるんだぜ?」

「そんなこと言わないでくれよゲイン。相手が吸血公爵なら妥協できないだろ?」

そう返事をしながらも、どこか落ち着かない様子のフォルマンドにゲインは尋ねる。


「昔の血が騒いだか?」

「20年だ。もう俺達だって若くはない。こうやってパーティーを再結成できたのだって奇跡みたいなもんだろう?」

「あぁ。だが、俺は嬉しいぜ。こうやってまたお前の隣に立ててな」

「ゲインは相変わらず血の気が荒いな。別に俺たちはまた魔王を狩りに行くわけじゃない。今回はただ、宴会でタダメシを食いに来ただけだろう?」


そう言いながら、勇者は剣を鞘に戻す。辺りは再び闇に覆われる。しかし、溢れる神気いつまでも残り続けていた。


神の加護:勇者の持つ加護は、邪を払い、魔物が自身を視界に入れた瞬間に自身に防御結界を付与し更にどこに魔物がいるかまで知ることができるもの。

「今度機会があったら、無垢な人間の子供にでもナイフを持たせて突撃させてやるか。流石に反応できないだろ…?え?無理?」

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