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その吸血鬼は優雅であるのか  作者: 珈琲豆
優雅な吸血鬼は魔を統べる
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閑話:魔王と呼ばれた者たち

悪魔達が起こしたいくつかの騒動も、世界を大きく変えるには至らなかった。


四国連合大陸を突如襲った魔界の魔獣の群れ、それがもたらした数多の被害と死者。魔獣の恐怖はそこに住む者達の心に強く残った。けれども…それでも、人間は立ち止まりはしない。


既に復興は進んでいるし、あの日突如現れた雷を操る戦士の像の建造が進んでいるらしい。




北の大陸だって新しい長を決める戦いが直ぐに執り行われた。城は崩れようとも、戦いの場は直ぐに立て直されたという。

とは言っても前回の勝者は居なくなってしまっただけで、負けたわけではない。その点、新しい長の力に疑問を抱く声は多い。




トクロジムアに住み着いていた悪魔の被害、それに伴って起きた呪術によるゾンビ事件。それも今じゃ「あぁ、あったね」程度の扱いだ。組合長だけは未だに仕事ができないままだが。




吸血公爵が蝙蝠を回収した地、その周辺では奇怪な事件が起きていたが、今はもう起きない。もうあのような惨劇は起きない。あの村はもう誰も住んでいない、という事実は変わらないが。




もちろん、ダールニスが進めていた洗脳も既に解けている。不安定だった国同士の関係も結局元に戻ってしまった。



全ては過去の事となる。人間は常に進み続ける。今回の出来事だって、幾度となく滅びを迎えそうになりながらもその都度立ち直した歴史…その1ページに過ぎないのだろう。



それでも、悪魔ダールニスの策略によって世界各地の有力な魔物、亜人たちが集められ…そして消えたことは変わらない事実だ。


そしてそれによって少しずつではあるが、世界の力の均衡が崩れ始めていた。





集まった者たちは惹かれていた。「魔王」という座に。


もちろん名乗れば誰だって魔王になれる。もともと「魔王」とは絶対的な力を持つ者を指す言葉。その力を前に恐れた者たちが呼ぶ言葉。魔王の定義なんてものは無い。


誰かに任命されたり、誰かから引き継ぐものではない。()()()()()()()()()()()()だ。だから、別に自分で魔王と名乗れば魔王なのだ。その名に相応しいだけの力があれば。




遥か昔、世界がまだ生まれたばかりの頃。創造神・ファルは数多の生命を生み出した。人間、妖精、いくつかの人に似ているが人ではない種族たち。


数多の種族…その中に1人、神に反旗を翻した者がいた。


最初にして最強と呼ばれる魔王。人は呼ぶ。魔王アルスディアス、と。


彼の出自は謎が多い。邪神の様に世界創造の過程で偶然生まれたのか、創造神ファルがその手で生み出したのか。そもそもどんな種族だったかも記録はない。


唯一伝わっていることは、

「その者は無限の知恵を持ち 地割る力を持ち そして人の形をした獣であった」

という一文のみ。


後に残る伝承は全てファルとアルスディアスの壮絶な戦い…世界創生に関わる話だけだった。




神代よりも更に前、創生の時代。魔力という概念もない時代。まだ神がその手で世界を手入れしていた時代に、その者は()()を生み出した。


それは全能たる神すら予期せぬ事態だった。その力は強大で、神は否定した。抑え込もうとした。


神話で語られる物語だ。



その物語の結末は

「神が魔法を使い、アルスディアスを倒す。世界は平和になり神は魔法を人々に与えた」


と終わる。


一度は否定した魔法を神は最終的に人々に与えた。魔王は神に倒されたが敗北したわけではないのだ。結果的に魔法を認めさせたのだから、勝ったともいえる。



とはいえ、神が与えた魔法は強大で難解で非常に面倒なモノだった。だから人々は、知恵を振り絞り魔法の形を少しずつ、少しずつ変えていった。


魔法発動の為の準備を「術式」という詠唱を始めとしたいくつかの要素に分解して簡略化を図った。そして、魔法は習えば行使できるモノに変わった。魔法に触れる中で人々の魔術回路はどんどん強くなった。


そして、魔工具を始めた道具にまで魔法は組み込まれるようにまでなった。



これら全ては、元を辿れば魔王アルスディアスの功績なのかもしれない。


魔王。その力の大きさは人々に脅威となる。アルスディアスのように神にまで恐れられる、とまでは今の時代ではいかないが少なくとも神が支援する勇者と敵対する存在と言えるだろう。



人間の子供が勇者に憧れ木の棒を振るうように、種族によっては魔王に憧れる者も少なからずいる。


とは言え、そんなことを口にすれば「死にてぇのかい!」と怒られるのが世の常だが。



あの日悪魔に唆されて集まった者達は、自分の力を誇示したかっただけかもしれない。


部族の長として、将来の安寧を願って訪れたのかもしれない。

何も考えていなかったかもしれない。


けれども、幼き日に抱いた夢…それを忘れなかった者たちは少なからずいたことだろう。



悪魔ダールニスは世界の破滅を望んで動いていた。魔王を決めると言って集めたことも、その後の未来をいくらか見据えていたのかもしれない。


指導者を失ったとある鬼の部族は人里を襲う頻度が増した。話し合いでの解決には至らず、人間との徹底抗戦の末に滅びたという。


そんなことが世界各地で起きたという。



人間は幾度となく立ち上がる。けれども亜人や、魔物はその力が乏しい。それが人間という種が世界中に広がり、それ以外が少しずつ数を減らす要因なのかもしれない。




故に彼らは、人ではない者達は必要としていた。全てを立て直す強大な力を。人間にも負けぬ前へ進む力を。自分たちを導く指導者を。



混乱の時代にあの場で生き残った3人の男とその連れはどう進むのか。


後に彼らが「三凶の魔王」だとか「魔を()()()魔王」だとか…色々呼ばれることになるなんて、この時は誰も思っていなかったことだろう。

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