表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その吸血鬼は優雅であるのか  作者: 珈琲豆
優雅な吸血鬼は魔を統べる
62/67

その針は神の思惑すら止めるのか

クリス・レガートを取り込んだ瞬間から、変化が現れ始めた。


「ガ…グググググググ…」


「おい、なんか苦しんでねぇか?」

「そうね…何か悪い物でも食べたのかしら…」


「呑気な事言ってられないの!ここからが本番…?らしいわ!」


メイアの叫びにウォーゼンが両拳をガツンと合わせて応える。

「よしきた!任せろ!!蛇が来ようと狼が来ようと、我が拳で粉砕してみせようぞ!!」


すると、怪物と化したジャンの肉体から何やら黒い球体がポンポンと頭上に放たれ始めたのだった。


「さぁ来ぉぉぉい!!!」


ウォーゼンは叫びながら飛んできた一つの球体に拳を叩きつける。


その瞬間、メイアの脳裏にとある記憶が蘇る。

『彼らは好戦的かつ派手好きでね。群として目立つだけに留まらず、個々でも目立とうとして来るんだ』


優雅に紅茶を飲みながら、彼はそんなことを言っていた。そして同時に…


「防御結界を!!!!」

「安心して…もう既にやってある」


ウォーゼンの拳はものの見事にその球体を爆発四散させた。それは、丸まった鼠だった。

「ネズミ…?とな…?」


「…危なかった」


飛び散る鼠の破片を眺めながら安堵する。同時に少しの罪悪感を感じながらメイアは周りに伝える。

「確かこの鼠は病魔を運ぶらしいの。不用意に触れたりしない方がいいらしくて…」

「もう既に触れたがな!」


「なぁ魔女様よ。あの筋肉は…」

「もう聞かないで。知らない。」


毒も呪いも効かず、正体不明の病魔も受け付けないウォーゼンの肉体に皆が驚く中、1匹の鼠がトコトコと近づいてきた。


鼠は何かを訴えるようにチューチューと鳴く。すると、それを聞いたウォーゼンが反応を示すのだった。


「ふむふむ?『アンタの肉体マジでどうなってるんだ?すげぇぜ。アンタにしか頼めない仕事がある』と。よかろう。弱き者ならば我に近づくことも躊躇うもの…気に入ったぞ」




「なぁ魔女様よ」

「知らない」


鼠は再び何かを訴える。


「『お嬢さんの針を俺に刺してもらって、そしたらあんたが俺を掴んで泥に放り投げてくれ。俺らは個であって全。俺らと蝙蝠の奴らはそんな感じだから何とかなるっしょ』と。聞いたか夢魔の娘よ」


「え、ああ…うん」

メイアは困惑しつつも、鼠が「さぁ針よ来い!」と両手を広げて受け止める姿勢をしているので何とか状況を受け入れることにした。


安全を考慮して、メイアは結界の内側から針を投擲する。鼠はそれを自ら刺さりにいくように飛びかかり、針が刺さると動きを止めた。

ウォーゼンはその鼠の肉体を片手で包み込むと、恐ろしく速い速度で泥に投げ込んだ。


「実に素晴らしき心。小さな身で強者に立ち向かう姿勢。良き」


ウォーゼンは満足そうに頷くのだった。


鼠を再び取り込んだ泥は変化を見せる。鼠の放出を辞め、同時に辺りに転がる他の動きの止まった鼠を拾い集めるように泥が広がったかと思うと一気に収縮し、不定形だった形からなにか、一つの形になろうと変化を見せたのだ。


溜まった泥から1本の太い腕が付きだす。巨人の腕だ。そして、その腕に巻き付くように蛇が這い、側面には大きな翼が2つ姿を見せる。


「これはまぁ、なんとも」

「…我は知らんが!これが芸術というものだな!知らんが!!」

「多分違うと思うわ~」


「いいえ?あれは芸術。ご主人様の身に宿る力の具現化。ご主人様自体が芸術作品のような方なので、当然ですわ?」


突然妖艶な声が背後から聞こえたものだから、皆が振り向く。そして、メイアだけが「あっ」と声を漏らすのだった。

ライズンペート、そう呼ばれていた蛇が――人の姿で立っていた。


「無事だったの?」

メイアの問いかけに、ライズンペートはニコリとほほ笑む。


「ずっと後ろにいたのに誰も気が付いてくれなかっただけですの」

「嘘だな。後ろにいたなら俺が気が付かないはずがない」

「あら?意地悪な人」


「そ、その!」

慌てたようにメイアが口を挟む。ライズンペートは頷く。


「わかっているわ。でも私に針を刺すのはもう少し待ってちょうだい。これは嘘ではなく、本当。

 せっかくならあのカラスにも刺しておきなさいな」


そう言ってライズンペートは巨人の腕の方へ手を伸ばす。その動きに合わせて巨人の腕に巻き付いていた蛇が動き出した。蛇は鎌首をもたげると直ぐに大きな羽根に嚙み付く。


「さぁ目を覚ましなさい。そして眠りなさい。私たちは戻るのよ。ご主人様を助けましょう。」



その声に合わせて、巨人の腕から烏の顔が姿を見せる。泥には覆われていない、正真正銘本物の烏の頭だ。目に生気はない。

すかさずメイアは針を投擲する。針は何にも阻害されることなくカラスの頭に刺さり、頭はそのまま巨人の腕に飲まれていった。



「素敵ね。流石はご主人様が見込んだ女性。私ができるのはここまでだから…あとはお願いね?」

「ありがとう。感謝してる」

「ご主人様の為ですもの。。今から毒が滲み出ちゃいそう」


ライズンペートはそう言って、胸元に手を当てて針を刺すよう促す。メイアはそれに応えるように針を刺す。


「では、ごきげんよう」

そう言い残し、人の形をしたライズンペートは一瞬蛇の姿へ変貌したかと思うと霧が晴れるように姿を消す。それに合わせて巨人の腕に巻き付いていた蛇もずぶずぶと腕に飲み込まれていった。

烏と蛇に針を刺し、目の前には巨人の腕だけが残る。その時だった。


『そこまでだ』


ズシンとくる重たい声が、メイアの脳に響く。あたりを見ると、皆も同じ反応を示している。どうやら全員にも聞こえる声のようだった。


『愚かなり…夢魔の娘よ…そのまま針を打ってみろ。例え刺さるのが別の生物であろうと、取り込めば一つ…つまり針を打てば打つほど、貴様の信じる男は死へと近づくのだぞ…?』

その声はいやらしい笑い声と共にメイアに語り掛ける。


「なんだぁ…?脅しか?…らしいといえばらしいがな。」

「どうするのかしら?」


『今ならまだ間に合う。針は4本。あの男は死なない。さぁ、無駄な抵抗は辞めるといい』



腕が動き出す。黒い、黒い巨人の腕だ。その腕はまっすぐとメイアの方へと手を広げ迫りくる。


「無駄な抵抗…?」


メイアは真っすぐと前を見据え、答えた。


()()()()()。なんとでも言いなさい。私は私の信念を曲げたりはしない。私は私のできることをするだけ。それにね。あの人は死なないわ。私の針で死ねるなら、もっと前に頼み込んでるはずだもの。あの人は…ジャンは!!!」


針を、巨人の手のひらに刺す。その瞬間、腕はダランと力なく崩れ落ちる。


「ジャンは死ぬ気だもの。"己の持つ魂と冥界に返す"なんて言ってね。残される者の事なんか考えずにね!!!」

『貴様…!!貴様もか…貴様も邪魔をする気か!!夢魔如きがこの我を!!!』


「残りは2体!!!狼と…蝙蝠よ!!!」


不定形だったジャンの形は再びまとまり始めていた。黒い泥は再び収縮していき、次第に1匹の黒い狼へと姿を変える。


「ようやく戦いやすい見た目になったな!!」

「えぇ。でも油断はしないで。まだあくまで形だけ。私たちも見たあの狼は姿を見せていない。」

「獣の気配、そして単純!!あれは泥で覆われし汚れた狼…泥を取れば良い!!!」


ウォーゼンは狼に飛び掛かる。そして弧を描くように蹴りを放つ。

凄まじい風圧が巻き起こり、狼の表面の泥が宙を舞う。そして、一瞬の隙を付くようにその肉体に拳を打ち込む。


狼は吹っ飛び、壁に打ち付けられる。ここまでの戦いで、初めて物理攻撃が通った瞬間だった。


「攻撃が通るなら話は早い。そんなまどろっこしいことしなくたって…」


何度目かの落雷、轟音と共にゼクスの剣に雷が走る。


「焼き尽くせば…」


「待っ…」


メイアが慌てて止めようとすると、既にアルテマが手を打っていた。


「ごめんなさいね。今までの苦労を全部無駄にするわけにはいかないのよ~」

「ありがとう!!!」


魔術的拘束によって動きを封じられたゼクスを横目にメイアは走り出す。

「メイア様。今更私ごときが役に立つとは言い難いところですが…」

「えぇ。どちらが役に立つ狼か、しっかり見せてもらうわ…なんてね」

フェンリスはニコリと微笑む。


「望むところです!!!」


狼は真っすぐにメイアを狙う。それがフェンリスには酷く不愉快だった。人狼として、狼の血を引く者として。例えそれが主人の眷属であっても、主人の肉体が混ざっているとしても。

「私は、譲らない!!」


素早くメイアの前に滑り込み、そのまま真っすぐ頭上を狙うように蹴りを入れる。蹴りは見事に開いた口を閉じさせ、同時に首元の泥を掬い取る。


「メイア様!!今です!!!!」

「ありがとう、立派な狼ね!!」


メイアの針が、がら空きになった狼の喉元に突き刺さる。


『…まだ終わらん。我は不滅…』


その声は吐き捨てるようにメイアに言う。


『ここまでの貴様の努力は認めよう…だが、この肉体は便利だ。ここは一旦退かせてもらおうか…たとえ6柱の分岐の動きを止めようと、彼奴が蓄えた魂は我が手中!!!』


そう言い終わると同時に狼の肉体は砕け散り、代わりにそれらは蝙蝠達へと姿を変える。


『くくく…復活の日はもう間近だ。さらばだ!!』


「誰が逃すかよ!!」

ゼクスが剣を振るう。しかし、その剣撃は霞を斬るだけに終わる。

「ならば捕まえれば」

ウォーゼンが1匹の蝙蝠目掛けて跳躍するが、それも徒労に終わる。


「厄介ね…己を霧、霞へと姿を変える吸血鬼の力…それの源ってわけね~」

「呑気な事言ってる場合か?得意の魔法で何とかしろよ」

「やってるわ。でもダメ。結界が見事に素通りされちゃう。高度な魔術阻害かしら。残念だけど、ここまでね~?」


「クソッ!!!こんなところで…」


フェンリスが悪態を吐く。それを見て、メイアはニコリと笑うのだった。


「ダメじゃない。あの人に仕えるなら、もっと優雅でないと」

「メイア様…?しかし…!!!!」

「危機的状況?そういう時の備えがなくちゃ、あの人の傍にはいられないわ。何せ優雅が自慢の吸血鬼なんだから」


メイアは2本の針を構える。


「切り札っていうのは、最後まで取っておくの。あんまり人に見せるものじゃないんだけどね。夢魔の秘匿。少しだけ見せてあげるわ」



邪神:『我が復活、我が野望、尽きぬ。果てぬ。我は邪神。我はこの世全ての悪の、願いの元に成り立つ。我、生命体の悪意、負の感情募る限り滅びぬ故、不滅!!!例え何度滅ぼされかけようと、何度封印されようと、必ず蘇った。これまでも、これからも』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ