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その吸血鬼は優雅であるのか  作者: 珈琲豆
優雅な吸血鬼は魔を統べる
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7本の針は彼を止めるのか

文章は後日修正を加えます。

戦闘は再び再開される。雷鳴が轟き、猛る声が響き渡る。そして、それを超える叫び声…悲鳴と歓喜、2つの色が感じ取れるような声が樹海中に響いていた。


「…少し急ぐか」


勇者フォルマンドとその一行は樹海を進んでいた。

「なんて禍々しい気配なの…」

白魔導士のシャルルは顔を青ざめていた。聖魔術を得意とする彼女は、邪悪には人一倍敏感なのだ。


「あぁ。明らかにおかしいぜ。いくら他所から魔物が集まったからといって…こんな気配を放ったりはしねぇ…この感じ…今まで戦ったどの魔物…いや、魔王を名乗った連中よりもヤバいぜ」

「ガイアス…いや、みんな。引き返すなら…」

「何度も言わせないでよ。ここまで来て引き返す馬鹿はいないわよ。勇者御一行を舐めるなっての」

宝探士のケーナはフォルマンドの肩を小突く。


「まったく、勇者様は心配性です。20年前ならともかく…今の私たちはもう十分、危険性は把握していますよ。その上で…私たちは貴方についていくのです。」

シャルルの言葉を聞いた他の2人も、フォルマンドの方を向いて頷く。


「…わかったよ」

フォルマンドはそれ見て、軽く微笑んだ。


「じゃぁ行くぞ!!みんな、世界の安寧の為に!!!」

「「「おう!!」」」

何度目かもわからない落雷、轟音が藍樹の樹海に響き渡った。


△▽△▽△▽△▽△▽△▽


「どぅぅぅりゃぁぁぁ!!!!」


雷の剣は爆音と共に怪物と化したジャンの肉体を切り裂く。


「キィィアヴァァァァァ!!!!!!!!!」


耳を塞ぎたくなる悲鳴があがる。しかし、切り裂かれた肉体はすぐに修復され、すぐさま反撃が来る。鋭い牙、鋭利な爪、毒や呪い、そんな攻撃が幾層に重なって一度に押し寄せてくるのだ。


「魔女様ぁぁ!!!一発喰らった!回復しろ!!!」

「あぁぁもうわかってるわよぉ!!!解毒も呪いも私の本業じゃないのに!!!!」

その光景を嘲笑うように、ウォーゼンは叫ぶ。


「効かぬ!!!」


「なぁ魔女様よ。あの筋肉野郎はどうして効かないんだ?」

「知らない…」

「それは鍛えているからだ!!!!」

「んな理屈通るか!」


毒も呪いも効果が無いウォーゼンだったが、その表情には少しばかり"焦り"があった。


「夢魔の娘よ。まだか!まだ姿を見せないのか!!!」

「ダメ…まだ見えない。もう少し踏ん張って!!!」


メイアもまた焦っていた。いくら個人が強くても、攻撃の通じない相手との戦いが長引いて楽なはずはない。そういった思考がメイアの焦りを膨張させていく。あくまで自分の考えは予想というよりかは妄想に近い。ジャンが言った「7本の針」という言葉、ただそれを自分なりに解釈したに過ぎないのだ。



必死に攻撃を避けながら、どこかにジャンの残した痕跡が無いか、メイアは探す。怪物と化したジャンにはもう、知性の欠片も感じ取れない。もうジャンの意識なんてものは無くなって、まるで()()()()に肉体を奪われてしまったようにすら感じられる。


()()を探すことに躍起になっていると、フェンリスの声が耳に飛び込んだ。


「メイア様!!!!頭上を!!!」

「え?」


頭上を見ると、これまでの戦いによって損傷した天井が、崩れ始めていたのだった。瓦礫は真っ逆さまにメイアの方へと落下している。フェンリスは慌ててこちらに駆けて来ている。しかし間に合う距離ではない。


「やば…」




自身の死を悟った瞬間だった。


「麗しき貴婦人を守るのは貴族の役目…それは例え…如何なる時も変わりません!!」


突如、メイアの視界を黒い物が横切る。同時に瓦礫は空中で粉砕され、粉々になった瓦礫だけが降り注ぐのだった。


「不肖クリス・レガート、公爵殿の頼みを受けここに参上仕り候…仕り…えっと…そういうことです!!」


そう言って、その黒いモノはメイアの前に膝をついて首を垂れる。

「え、ええーっと…貴方は…」


メイアは困惑していた。何せ目の前には全長1.2m弱の二足歩行する黒い虫がいるのだから。


「おや?私の事をお忘れですか?…まぁ無理もありません。公爵殿は貴女の目を覆うようにスカーフを付けさせていましたからね」


一体どうやって発声しているのかはわからないが、その昆虫は鋏状の顎をシャクシャクと動かしながら喋る。メイアは少しばかり寒気を感じながらも「なんでこの虫はこんな良い声なのかしら」と疑問に思うのだった。


「とはいっても…今の私はあの時より遥かに力を失っています。ほら、体長、じゃない身長もだいぶ縮んでしまっていて。服も着ずに貴婦人の前に姿を見せるなどという破廉恥な行為をどうか、どうかお許しください」

「う…うん?そこら辺はお気になさらず…?えっと…貴方は…彼の眷属?いや、分岐って言うのが正しいのよね。貴方はどうして姿を見せられたの…?」

「そう、そのことを伝えるために私は呼ばれたのです。あの()()()()に飲まれる間際、彼は私の恐怖の権能を全て回収した後頼まれました。「彼女を支えろ」と」


黒い虫…改めクリス・レガートは4本の腕で腕組をしながら説明を続ける。


「聡明な貴女ならばお気づきのはずだ。公爵殿が宿す我ら分岐、それ全てに貴女の針を刺す。それこそが今できる最大の()()()()。あの黒き気配に対する報復でしょう。」

「私の考えは合ってるとして…その、他の分岐はどうして姿を見せないの?」


「それは少し説明が難しいのです。我らの在り方は千差万別。公爵殿の身体の一部に成る者もいれば、公爵殿と運命を共にする者もいる。私に至ってはただの入れ物です。あのお方の持つ膨大な魂。それを預かる身に過ぎません。故に、我らが姿を見せる条件に明確な決まりはないのです」


「それじゃぁ…!」

声を荒立てるメイアを諭すように、クリス・レガートは答える。

「ただ、我らに共通するものが一つだけあります」


そして、一呼吸おいて言い放つ。


「我ら、主の望むままに。我らは厄災を身に宿す者。我らは魂を抱える者。全ては…我が主、吸血鬼ジャン=レガード・ヴァンファイラの思うままなのです。例え黒き気配が迫ろうと、勇者が立ち塞がろうと、我らは…!!」


全てを言い切る前に、クリス・レガートの背後の黒い泥から泥と全く同じ色の触手が飛び出しクリス・レガートに巻き付いた。


「おっと、流石にバレてしまったようです。こんな身になっても、私の肉体は公爵殿の持つ魂の入れ物。流石に放っておきはしないか。…さぁ!メイア様。()()()()()()()()()


泥から延びる触手の隙間を見極め、メイアは針を刺す。


夢魔の骨を削り出し作るこの針は、1本刺せば感覚を奪い、2本刺せば認識を奪う。3本刺せば自由を奪い、4本刺せば、意識を奪う。そして5本刺せば、命を奪う。

その1本が今、放たれた。



「さぁ、気を引き締めて。ここからが本番です」


クリス・レガートはそう最後に言って、泥の奥へと飲み込まれていった。

邪神:『愚かなり。愚かなり。我の復活は誰にも止められぬ。愚かなり』

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