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その吸血鬼は優雅であるのか  作者: 珈琲豆
優雅な吸血鬼は実家に帰る
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吸血鬼の思考回路は短絡的なのか

吸血鬼の足跡を追って馬車を走らせる。幸いその足跡は真っすぐと進んでいる為、見失うことはなかった。ただ、進んでいる方向が問題だった。


村があるのだ。小さな村だが人は大勢住んでいる。



馬車の中でルシル嬢が私に尋ねる。


「吸血鬼特有の身体能力の高さ、か。だが…もしかしたら葡萄園の従業員が自分に魔法をかけて走って外に知らせているかもしれないぞ?」


御者をしながら答える。

「仮に従業員に身体強化の魔法に長けた人がいたならば…馬を使うさ」


まぁ?()()()()()()()()長けている私にとっては簡単なことだがね!


「そうなのか」

「ええ。身体強化の魔法は長続きがしない。短期決戦、といった場面では大いに力を発揮するけれど。

 だから、長い距離を高速で走りたい、なんて時は魔法よりも馬を使った方が絶対に良い。ここから一番近い人里でも7㎞、あまりにも魔法を使うに適さないわけさ」



日は傾き、夜が近付いている。


しばらく馬車を走らせ吸血鬼の足跡を追っていくと、小さな村が見えてきた。



耳をすますと、悲鳴を始めとした喧騒が聞こえてくる。


「すまないが、馬を任せてもいいかな?」

「え?」


時間が無いので、馬から飛び出し身体強化の魔法をかけてい一気に走り抜ける。


「助けてくれ!!!娘が!!娘が!!!!」


そうすがりついてきたのは太めな男性だ。背中に傷を負っていて、服が血で滲んでいる。


「勿論、そのつもりだとも!!!!」



陽が沈み始めた今の時間ならば、大抵の吸血鬼ならば活動が可能だ。恐らく夜の内にこちらの村に来て、ずっと日が暮れるのを待っていたのだろう。



一匹の蝙蝠を空に飛ばし視界共有をしながら村を一望する。


「っち…既に何人か食人鬼(グール)化しているか」


拡声魔法を用いて声をあげる。


『村人諸君、私は冒険者組合から来たジョン・デュークという。この村に吸血鬼が侵入している!!!繰り返す!!!この村に吸血鬼が侵入している!!!至急、南広場に集まれ!!!!!繰り返す!!!この村に吸血鬼が侵入している!!!!』



そう言いながら、食人鬼の居る方向に走る。食人鬼は知能が低い。私の声を聞いても反応はしないだろう。逃げる人間を追うだけだ。問題はこの声を聞いた吸血鬼の反応だ。


蝙蝠を用いて村で確認できた4人の食人鬼(グール)を幻術に陥れる。


村の南側の広場に少しずつ人が集まってくる。


「皆さん、ご安心を。この場は必ず私が守ります」


そう言いながら、村の長を探し出し逃げ遅れた人等を確認していく。どうも老人が多く、まだ半分も集まっていないようだった。



このままでは埒が明かないので、召喚魔法を発動させる。魔力は十分だ。今なら彼らを呼べる。




召喚されしは13体の鎧騎士。皆が黒い板金鎧に身を包んでいる。これはいつしかの暗殺教団と戦った影の人形ではない。


彼らが本当の鎧の持ち主だ。全員が全員意思を持つ、13の騎士…一種の死霊系魔物(アンデッド)だ。


「ひ、ひぃ!!!!」



集まった村人達が悲鳴を上げる。それも仕方ない。鎧の隙間からは黒い靄が出ていたりするし。そもそも何体かは明らかに人間の大きさではないし。


「ご安心を。ただの召喚魔法です。皆さんに危害を加えることはありませんので!!!」


村人達を落ち着かせながら騎士たちに村人の救出、食人鬼の討伐、吸血鬼の捜索、村人の護衛、といった支持を出す。


そうこうしているうちに、ルシル嬢が到着した。



「身体強化の魔法…自分にかけていたな?」


「短い距離だったのでね」




ルシルは辺りを見渡しながら尋ねる。


「凄いな…初めて見る召喚獣…?召喚獣なのか…?」

「そんなところ…おっと、吸血鬼が見つかったようだが…これは嫌な状況だな」

一体の騎士から報告が念波によって伝わってくる。


村人の警護は騎士達に任せて報告のあった場所に向かうと、既に4匹の食人鬼と2体の騎士が戦っていた。そして、それを楽しむように眺める一人の男が奥に居たのだ。



「食人鬼を人間に戻せる方法は知っていたりするかな?」


一応の確認をルシル嬢にする。


「残念ながら。ゆで卵を生卵に戻すことが無理なのと一緒だ。時間逆行の魔法でも知っているかい?」


「勿論知らない。…残念だ。」


騎士達に支持を出す。騎士たちは指示に従い、瞬時に食人鬼と化した村人4人を斬り捨てた。




「ひゃはははははは!!!なかなかやるじゃねぇか…?」


奥にいた男が声をあげる。



既に日は完全に沈み、村の街灯がぽつり、ぽつりと灯り始めていた。



「はぁ~…こんなことならもっと食人鬼を作っておけばよかったぜ…」

男は頭を軽く掻きむしる。


「君が吸血鬼か。悪いがここで潰させてもらおう」

「あぁ…冒険者組合のなんたらってのがお前か?ずいぶんデカい声だったな。俺の耳にも、し~っかり届いてたぜ?」


男はニタァと笑みを浮かべる。



「何がおかしい?」


「村人共が一か所にまとまってくれると、こちらとしても好都合なんだ。何せ…まとめて殺しやすいからなぁ!!!!!」



男は天高く手を掲げると、パチンッと指を鳴らした。その瞬間、村人が集まっている方向から悲鳴が上がる。


ルシル嬢が慌てたように振り返る。


「俺が一人だと思ったか?今頃仲間が村人共の虐殺を楽しんでることだろうよ…あぁ…俺もそっちに混ざるのも良かったかもなぁ…」

「…仲間っていうのも吸血鬼か?」

「あぁ?だったらどうだっていうんだ?」


あぁ、仮面を付けておいて良かった。こんな笑いが止まらない顔、誰にも見せられないぜ。


「いや、だったら大変だなぁと思ってね。簡単に死ねない身体は辛かろう!」



私がそう言い放つが先か、後か、私の頭上を飛び越えるように一人の男が吸血鬼の前に転がり込む。


「お、おかしらぁ!!!化け物…化け物が…!!!」


既に再生できるだけの魔力が無くなってしまったのか、それとも元々大した再生能力を抱えていないのか、身体中に切傷を抱え片腕は失っている。


「何を言ってやがる…?」

「ヘッジもベラも殺られちまって…黒い鎧を着た奴らに…て…こっちにもいるじゃねぇかぁぁぁぁ!!!!!」


「ふははははは!!大したことない輩じゃないか!!!私の騎士達にアッサリやられてしまうとは情けない!吸血鬼とやらも高が知れているなぁ?」

「おい、そんな刺激して大丈夫なのか…?」

不安そうに尋ねるルシル嬢。


「えぇ、問題ないとも。むしろまだ足りないくらい」



「魔術師か…厄介な奴を召喚したみたいだが、お前を殺せば問題ないなぁ!?ベッグ!!!お前の残った魔力、寄越せ」

「え?」


吸血鬼はそう言うと、傷付いた仲間の吸血鬼の首に親指を突き刺す。


「ま、待って…」



助けを乞うように声を漏らすが、直ぐに息絶える。血液ごと吸い取られたのだ。


吸血鬼は干からびた仲間の吸血鬼を放り投げると、ゆったりとこちらに近付いてきた。



「随分仲間を乱暴に扱うじゃないか」


ルシル嬢が呟く。


「ひゃははは!仲間?あんなもん使い捨ての道具に過ぎねぇよ。いくらでも作れるからなぁ!!!」


こっちに向かってくる吸血鬼に騎士達をぶつける。だが予想以上に動きが良く、2体とも首を吹き飛ばされてしまった。


鎧の頭が2つ、地面に転がる。


…まぁまだ余裕で動けるんだけど、せっかくなので2体は還元させる。


「なんて動きだ…全然見えなかった…」

「魔力量がかなり上がっているからね。吸血鬼はその持つ魔力量で力の強さが変わる」


「どうだ?怖気づいたか?遠慮するなよ?」




吸血鬼はずいぶん余裕ありげだ。


「こういう吸血鬼は…多いのかね?世界には」

ルシル嬢に尋ねる。


「そうだな…吸血鬼が小さな村を襲ったりする事例はかなり多い。やはりあの吸血公爵、の存在が大きかったんだろう。国一つは無理でも村ならば…なんて考えの輩が多いんじゃないか?」



あぁ、耳が痛い。そうかそういう輩か!!やってしまったなぁ…


俄然、後始末をする気が湧いてきたぞぅ…



「なるほどね。まぁ…その…なんだ…吸血公爵は…恥ずかしいことをしたんだな…」


ルシル嬢は、「?」という表情をするのだった。



13体の騎士:死霊系魔物の1種、鎧を纏いし魂(リビングメイル)。鎧に魂が憑依した時生まれる魔物。その強さは魂の歩んだ人生に左右される。

「13体全員名前がある。そして個性もある。ちなみに13人とトランプをやった時は…私が最下位だったよ…」

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