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その吸血鬼は優雅であるのか  作者: 珈琲豆
優雅な吸血鬼は過去を語る
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それは破滅の誕生

夢を見ていた。


「ほら、ジャン。いつまで寝ているの?」


目を開ければ傍にはエリザがいる。兄貴もいる。親父もいる。


「あぁ、少し嫌な夢を見ていたみたいでね」

「もう!お話の途中で寝るだなんて、これは罰を与えなきゃ駄目ですわ!」


頬を膨らませるエリザに皆が明るい笑顔を見せる。


「ははは、勘弁してくれ。姫様に言われたら冗談でも冗談に聞こえないだろ?」


「冗談じゃないだから。」




その瞬間、周りにいた人間全ての皮膚が腐り落ち、その奥の骨を剥き出しにする。


「…へ、あ、あぁぁぁ!!!!!!!」


思わず椅子から転げ落ち、逃げるように壁際に避難する。



「ねぇジャン?どうして?」

「ジャン、お前という奴は…」

「どうしてこんなことに?」

「お前のせいだろう」

「何故生きている。お前だけが」


呪言のような言葉が押し寄せてくる。目を背けたくて、目を瞑る。けれど、そうすれば瞼の裏側にでも刻まれているのか、より鮮明にあの日の事が思い出される。



逃げたくても逃げられない。永遠のように繰り返される。


幾たびも後悔した。幾たびも懺悔した。許しを請うように、謝り泣き叫び、その首を掻き切った。


けれども、けれども、終わりはない。



その身に宿した50万2076名の人間の魂が解き放たれることはないのだから。



▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△


いったいどれほどの時間が経ったのだろうか。気が付けば完全に意識を失っていたようだった。




意識が戻ったのは、声が聞こえたからだった。


『…きて…起きて!!!…私がコイツを押さえ込んでいる間に!!!』


それは切羽詰まった女性の声だった。


『起きなさい!!もうそろそろこっちが限界なの!!!!!!』


うるさい声だ、と思う。しかし、なんとも聞いていて心地が良いというか、懐かしい声だった。



だからか、うっすらと目を開ける。声の主がどんな輩か確かめようと思って。



目の前に声の主らしき人は見えない。少しガッカリしながらまた目を瞑ろうとすると



『あ、今ちょっと目を開けたでしょ!起きろっつーの!!!!』


仕方なく起き上がる。目をこすりながらしばらくはボーっとする頭が覚醒するのを待つ。



意識がハッキリしてきたところで、辺りを見渡す。


「なん…よ…誰もい……じゃ…」



声の主らしい人はいない。けれども、光景は変わっていた。



周りは草原、そして武器を構えた男たちが何人も立っている。




『眠れ!!!!!貴様は起きる必要はない!!!!眠れ!!!!!!!!』


今度は頭が痛くなるような声がズシンと響く。思わず眉間に皺が寄る。



しかし、ここは何処だろうか?


「ど…だ…わから…が…少し歩…か…」



独り言のように呟くが、声があまり上手く出ない。それどころか、身体の動きも鈍い。まるで這いずりまわるようにゆっくりだ。


そこで改めて自分の身に違和感を覚える。



目線を動かし下を見る。そこに足は無い。あるのは、黒いドロッとした何か。泥の塊のようなものだ。



「な…だ?これ…身体に貼……いてい…のか?」


手で払おうと思うがそもそも手が無い。今の身体は…黒い泥の塊のようだった。



「構わん!!!攻撃開始!!!!」


後ろの方で叫び声が聞こえる。直ぐ後に、幾つもの弓矢が身体に突き刺さっていくのが感じ取れた。しかし、痛みはない。



「邪魔…ないで…く…」


鬱陶しい弓矢兵たちの方を向く。兵士たちの表情がよく見える。



怯えている。あれは、恐怖の顔だ。


そうか、今…私?俺?僕?自分?…


プツリと何かが切れる。それは、魔導線が流れる魔力に耐え切れず焼き切れるような感触だった。




私は…誰だ?

他者に恐怖を抱かせる姿をした私は誰だ?


『貴様は依り代だ!!我の復活の為の器だ!!意識を明け渡せ!!』


また声が響く。それが何とも嫌な気持ちになる声で、思わず叫び声をあげてしまったんだ。



「あぁぁ…あ、あ、あ、ああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


「矢は通じない!近接戦に変更だ!!!」

そんな声に合わせて、幾人かの槍や剣を構えた男たちがこちらにむかって走ってくる。



「…邪…魔…を…するなぁぁぁ!!!!!!」


何が何だかわからない。けれども耐え難い破壊衝動が私を襲う。それに呼応するように、身体にまとわりつく泥のようなものが津波のように流れだし、兵士たちを飲み込んでいく。


それが何とも心地よくて、満足感で満たされていくのだった。


『フハハハハハ!!!そうだ!!!それでいい!!!!その力は貴様の思いに呼応する!それこそが我が貴様の肉体に与えた力!!』

「黙…れ!!!!!!!!!!!!!!」


『くくく…ならば良い。存分に力を使うがいい。そして更に魂を喰らえ。そして我が器に相応しい姿になった時、我は再び貴様の前に現れよう。

 それもまた、一興よ!!!フハハハハハ!!!』


高笑いを残して声は二度と聞こえてくることはなかった。



だが、そんなことはどうでもよかった。



今はただ、この溢れる破壊衝動を、ただ、満たしたかった。




泥は姿を変える。牙だ。もっと鋭く、もっと残酷に…そう思う心が姿を変えた。泥はまるで狼の牙のように姿を変え、兵士たちを咬み殺してゆく。


飛び散る鮮血を吸い取り、散らばる肉片を貪り喰う。



なんだっていい。もう自分の事など忘れてしまったのだ。


今はただ、この欲求に従い、他者の命を踏み躙りたい。



けれども、けれども…満たされれば満たされるほど、どうして!




どうして涙が止まらないのだろうか!!!




こんなに高ぶる気持ちを、押し殺すように悲しみが溢れてくる!!!!


何故だ!!何故何故何故何故何故何故何故何故!!!!!!!!!!!


『それはね。ジャン、貴方が人だからよ』


ジャン?それは私の名前なのか?


『えぇ。ジャン=レガート・ヴァンファイラ。貴方は人。貴族。エルドに仕えた公爵家の次男』



ジャン…レガート…ヴァンファイラ…

その名前を聞いた時、頭の中に何が思い出される。人の姿だ。人の姿が見える。それに合わせて身体の形が人のモノに変わっていく。



声は優しく私に語り掛ける。

『疲れたのね。無理させちゃったもんね。仕方ない、なんて言葉では済まされないけれど…』


まだ…足りない。もっと血を、命を、破壊の限りを尽くさなければならない。


『まだアイツの意志が強く残ってるのね。でも大丈夫。貴方の記憶は守られている。現に今、貴方は昔の姿に戻れた。貴方の心は死んでいない』


何を言っているのかはわからない。けれどもその声は心の奥に深く突き刺さる。


『だからね。ジャン。これだけは覚えておいて。全部忘れちゃったとしても、貴方の魂には刻まれている。それを思い出した時、貴方は貴方のやるべきことを行いなさい。それまでは私も目を瞑っておきます』


その声はとても悲しげなものだった。


『だって、私は…私たちは…貴方に無理をさせ過ぎちゃったみたいだから。本来貴方一人に抱え込ませていいような問題ではなかったのに、ね?』


声はだんだん遠くなっていく。



『だからジャン、どうか再び思い出すその日まで…どうか貴方は貴方で居て…』



そう言い残して、声は二度と聞こえてこなかった。誰の声も聞こえてこなかった。



「待って…くれ!!私を…一人に…しないで…くれ!!!!!」


自然と言葉が漏れた。もっと声を聴いていたかった。けれども、声は返ってこない。



咽び泣きながらひたすらに歩く。ただ歩いた。



△▽△△▽△△▽△△▽△


「というわけでね。私はこんな身体になってしまったわけなのだよ」



少し長くなった思い出話をメイアに聞かせる。メイアは驚いたり怒ったり泣いたり、なんだか忙しかった。



「…その、なんて呼んだら良いのかしら…ジョン?ジェームズ?…それとも、ジャン?」

「そうだね。今の私はジョンだね」

そう言って首にかけている銅製の札をチラつかせる。



「…やっぱりジャン、って呼ばせて。それが貴方の本名であって、忘れちゃダメな名前なんだから」

「なんだか照れくさいな。特に君に呼ばれるのは」



少しだけ、なんというか、ちょっとグイグイ来る感じが似ているんだろうな。あのお姫様と彼女は。


「それで?何か言いかけただろう」

「そうだった。その…吸血鬼って…吸血鬼に噛まれて成るモノだと思っていたんだけれど、貴方は違うのね」


そう。吸血鬼とは吸血鬼が生み出すモノでもある。その血を分け与え、力を我が物にできた者だけがなれる…高貴な存在だ。



「その通り。私は吸血鬼だが、他とは違う、とメイアは感じていたね。その通りなんだよ。そもそもね。吸血鬼という種自体、本来存在しない種族なんだ」



少なくとも、そんな種族は私が生まれ育っていた頃にはいなかった。私が色々な国を旅していた頃もいなかった。



では、いつ彼らが生まれたのか?




答えは簡単だ。


「私が生み出さなければ、存在しなかった種族なんだよ」







「それって…つまり…貴方が真祖…?」


メイアは少し身震いをする。当然だ。真祖の吸血鬼、強大な力を持つ吸血鬼の頂点…それが目の前にいるのだから。


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