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その吸血鬼は優雅であるのか  作者: 珈琲豆
優雅な吸血鬼は冒険者になる
28/67

その街は冒されているのか

トクロジムアの中心都市にたどり着いたのは日がかなり昇った頃だ。


街は結界で覆われ、出るものを拒んでいた。

「なんだこの結界!!なんでこんなもんがあるんだよ!!」


結界に道を遮られ、慌てふためく商人らしき人物がいる。後ろでは、同じように逃げようとして馬車を走らせていた人たちが罵声をあげていた。


「おい!!!あんた!!!結界の外から何とかできないか!?」

結界の外側にいる私を見て、商人は声をあげる。


「外から出るのは無理だろうね。できても人が1人出れるくらいしか穴は開けられない。入るのは問題ないんだが」


そう言って、結界の中に足を入れる。結界はすんなりを私を通す。大した自信だよ。人はいくらでも入れて、外には出さない、だなんて。

外から誰が来ようと負けない自信があるんだろうさ。この結界の主は。


「おい何やってんだよ!助けろ!!お前冒険者だろう!!」

「あぁ~、依頼なら組合を通したまえ。もちろん、私は君のような者の依頼は()()()()()()()()受けないがね」


喚く者共を無視し、ひとまず組合所に向かった。


街の中はかなり騒然としていた。火を放たれたのか、あちこちで消火活動が行われているが、問題は他にもあるようだった。

組合所の中もかなりごった返している。ひとまず、あたふたしているラークの元に行き、尋ねる。


「おい、何が起きたのか簡潔に説明してくれ」

「え?ジョンさん!?…いや、街の中でゾンビが出たり、地脈が使えなくなったり、外が結界で覆われたりして大変なんですよ!しかもゾンビに襲われた人もゾンビに成っちゃって…ゾンビが感染するって本当だったんだ!!!あ、いやそれよりもジョンさんもとにかく働いてください!!もう既に多くの冒険者が鎮圧に向かってるんで!今度こそ冒険者らしいことしてもらいますよ!」


かなり投げやりな話である。しかし、感染するゾンビか。


「わかった。できることはしておくとしよう。それよりあの結界については?」

「あれですか?あれもゾンビ騒動と同時に出てきて…外に出れないから苦情…依頼が沢山来てるんですよね…」


ゾンビ騒動に合わせて展開された結界…この街の住民を逃さないって訳か。

「それなら依頼者全員に連絡しておいてくれ。報酬金額を10倍にするなら、優雅な魔術師が受けてやるって」

そう言って、速足で組合を出た。


「わかりました…ってあれ?なんか声がはっきりしてる?」



△▽△▽△▽△▽△▽


やることは山積みだ。結界をなんとかして、ゾンビとやらもなんとかしなくちゃいけない。ついでにこの事件の黒幕もなんとかしなくちゃいけない。あとは優雅にお茶をしたい。


太陽の日差しをなるべく避ける為、日陰から結界を眺める。ローブのお陰である程度は耐えられるが、当たって良いことはない。特に、今みたいな日がかなり昇った時間帯は。


日差しを避けるように結界に近づく。術式自体はシンプルなものだ。外から来た者に対しては効果を発揮せず、外に出ようとする者に対しては魔術障壁として発揮する。闘技場の類に使われる結界だ。

この大地の下の地脈から魔力を吸い取り、結界を維持しているのだろう。街中の魔工具やら明りやらが使えなくなるわけだ。


幸いにも今回の結界は対処がしやすい。術者と魔術が完全に切り離されているからだ。これならば、わざわざ術者を探さずとも消すことができる。地脈からの魔力供給さえ絶てばおしまいだからだ。


ではどうやって地脈からの供給を絶つかだが、こればかりは力技しかないだろう。おそらく結界を張った術者も、公共使用の地脈を無理矢理掴んで利用しているはず。その歪みを見つけて、切り離すしかあるまい。


歪みを探すべく辺りを見渡すと、あちらこちらで戦いが行われている。よろよろと虚ろな瞳で歩く人々、それから逃れようと走る人々…横たわる死体の数々。


お、よく見ると見覚えのあるトサカ頭の男も戦っているではないか。

「クソ!!なんだってジャックが!!!」


剣を振るえば始末できる距離だが、始末できずにいるトサカ頭の男…確かダニエル君か。

「大丈夫かね?」

話しかけると、驚いたようにこちらを見るダニエル。


「あ、アンタは!!…なんか雰囲気変わった?」

「まぁ、色々あってね。具体的には筋肉が付いたと言ったところかな」

「そうか!鍛錬の賜物だな!…って今はそれどころじゃないんだよ!!」

ダニエルは迫ってくる男のゾンビを盾で押しのけて距離を取る、といった動作を繰り返している。


「知り合いかね?」

「あぁ。こいつはジャックだ。昨日一緒に依頼を熟した相手でな。今朝…宿に言ったらこうなってて…」


なるほど。突然のゾンビ化か…

「ダニエル…いやダニー君。まだ君の仲間は掬えるかもしれない」

「本当か!?できるなら頼む…コイツは…女癖は悪いが、腕は確かで良い奴なんだ…!!」


その言葉を聞いて、近づいて来るゾンビの膝関節に蹴りを入れる。ボキリ、と鈍い音が響き、ゾンビはその場で転倒する。足は本来の稼働領域を大きく離れた方向を向いている。




「なななななにやってんのぉぉぉぉ!!????」

「膝の骨を砕いてやった。こうすれば行動不能に近い。ゾンビと言えども、身体の構成は人間と変わらないからね。痛覚が無いにしろ、膝が動かなければ歩けない。いや、そもそもこれはゾンビでは無いんだがね」

「え?」

「ん、いやゾンビではあるがゾンビではない、と言ったところかな。これは呪いだよ」


そもそも、ゾンビというモノはとある民族が発明した呪いだ。相手を拘束し、意識を奪って自由に動かす呪いが発祥だ。それが世界中に広まり、死体に悪霊が入り込んだ状態が似たように見えたためにそれもゾンビと呼ぶようになった。


今、目の前で地面をのたうち回っているのは、前者と言える。何せ、彼はまだ生きているのだ。生きている者に悪霊は入りづらい。


「呪い…?じゃぁ誰が呪いをかけたんだ?」

「それはこちらで答えを出すとも。それよりも、君は早く街中に伝えろ。ゾンビは殺さず、行動不能にしろってな」

「行動不能にしろって言ったって…」

「両足の骨でも折ってしまえ。骨を折るだけで命が助かるなら安いもんだろう」

「そ、そうだな!!行ってくる!!!」


ダニエルは素直に走り出す。


しかし…昨日までの隣人が突然襲い掛かってくる、わけか。この呪いの術者は良い趣味してるじゃないか。

これは結界よりも、呪いをなんとかする方が優先するべきだろう。


呪いとは誰かを思う力。逆に言えば、相手の事を知っていないと呪いは掛けられない。つまり呪いがかかっているという事は呪いをかけた人物と何かしらの接点があるのだ。

倒れてもがくダニエルの友人を元に、呪いを掛けた人物を探す…が。


「これは…驚いたな…」



辿ろうと試みるも、これは凄い。幾つも中継点を置いている。何が何でもこちらを近づかせないようとする気負いが見える。こうなってくると、少しばかり時間がかかりそうだ。



呪いの発信源を辿ることに苦戦していると、後ろから気配を感じる。振り向けば、先ほどまで横たわっていた死体が動き出しているではないか。

おそらく、ゾンビとなったと勘違いした者を防衛のために殺してしまいできた死体だろう。流石に死体となってしまったものはこの呪いでは動かせない。にもかかわらず動いているという事は…正真正銘、皆の知っているゾンビという事だ。


「邪魔はしないでくれたまえ!!」


即座に炎系魔法で全身を焼き尽くす。入り込む死体が無くなれば、悪霊も出て行く。


そんな攻防を繰り返しながら、呪いの発信源に辿っていく。



そして、遂に辿り着く。


呪いの元凶を。


「なるほど?予想通りと言えば予想通りだな」


△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


「あちゃー、戻ってきちゃったか…。色々な悪魔を投入してみたけど、みんな使えなかったね」

「それは違うぞい。奴は恐ろしく強い。並大抵の悪魔でなんとかなる相手じゃないのはお主が一番よく知っていただろうに」

「ふふふふふふ…そう言われると何も返せないね」


女は窓越しに外の景色を眺めながら言う。

部屋は薄暗く、蝋燭の炎が幾つか灯っているだけだ。


突如、炎がグワンと揺れる。部屋のドアが開いたのだ。




「結構早かったね。もうちょっとかかると思っていたんだけど…」


女は、来訪者に語り掛ける。


「私を甘く見ないで欲しいものですなぁ。呪術に関しては特に。貴方も知っているでしょう?私は呪いに詳しいんだから」


「そうだったね。いや、待っていたよ。ジョン・デューク君」

「それはどうも。組合長殿」

地脈:地下を流れる魔力の流れ。星が持つ魔術回路と考えられている。大気中の魔瘴気や魔素が循環の過程で沈殿し地下水やマグマのように流れを生んでいる。現代では街の街頭や建物の明りなどに利用される。

「公共の地脈を勝手に利用するのは駄目だとも。私もやったことあるんだ。…すごく怒られたよ」


中継点:呪いを行う際に、呪いの発信源をわかりづらくするために用意するもの。具体的には、最初に目標とは別の人間を呪って呪った人間に別の人間を呪わせて…といった方法がある。他にも、触媒と呼ばれる呪具を用いたり、別の動物を用いたりと様々。

「私のカラスかい?あれも中継点にはなるが、したら凄くくちばしでつつかれたからもうしないよ。」

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