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その吸血鬼は優雅であるのか  作者: 珈琲豆
優雅な吸血鬼は冒険者になる
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閑話:正義執行

雷が、轟音を奏でて大地に落ちる。


落ちた場所は黒焦げ、近くの草木は炭と化している。そんな場所に男は立っていた。


蒼いコートを羽織った、短髪の男だ。背中には長剣(ロングブレード)を担ぎ、左右の腰にも2本の鞘を携えている。


男は辺りを見渡し、呟く。

「ここが俺の正義を貫く最初の場所か」


豪雨の中、男はコートの襟を立てて歩き出す。すると、直ぐに1匹の魔物が近づいていた。蛙のような顔をした飛竜である。口元から毒性の涎を垂らしている。獲物を探しているのであろう。


飛竜は男を見つけると、金切り声を上げて走ってくる。男は動じない。ただ、歩みを進めるだけだった。


大きな口を開け、今呑み込もうと飛び掛かる飛竜。

しかし次の瞬間、飛竜の首が宙を舞う。同時に、キンッという剣が仕舞われる音だけが響く。


何事も無かったかのように男は進む。


△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


娘の名前はシャルリと言った。紫色の髪をいつも人差し指で弄る幼い娘ではあるが、その中身は悪魔である。

シャルリは悪魔王なる者の命令で四国連合大陸を手中に収めかけていた。収めかけていた、というのは、最後の王国カー・ガールワが中々屈服しないからだ。カー・ガールワは国の規模は小さい分防御設備が充実しているのだ。国全体を高い城壁で覆っており、張られている結界魔法もかなり丈夫だ。

その為、シャルリが使役する魔獣でも中々攻略できずにいた。


「ま、時間の問題だろうけど。人間がどんなに耐え忍んでも…魔獣には勝てないんだから!」


シャルリは魔界から12の魔獣をこの世界に持ち込んでいた。残虐性の強い魔獣ばかりを。魔獣たちは四国連合大陸全土を闊歩し、蹂躙し、虐殺の限りを尽くした。魔獣の圧倒的力に恐怖し慄く人間たちに、シャルリは無邪気に問いかける。

「私の下僕となれば、魔獣から守ってあげる」


2つ返事で3つの国が下僕となった。それを見たシャルリは「あぁ、なんて簡単なんだろう」と声を零したものだった。




しかし、1日経ち、2日経ち、3日経っても変化は訪れない。しばらくカー・ガールワから離れたエルヒーマに身を置いていたシャルリは不思議に思い、カー・ガールワに赴く。

「もしかして…降伏する前に全員死んじゃった…?」

高速移動のできる魔獣に乗って、移動する。



すると、驚くべき光景が広がっていた。


「…どういうこと?」


国は未だ健在で、城壁に傷こそあれど、崩れたところは無い。寧ろより強固な城壁が築かれている。

そして、あろうことか城壁の周囲には死体の山が積まれているではないか。



連れてきた魔獣の死体が。



死体の山に駆け寄るシャルリ。

「ウソ!ウソ!!なんで!?」

死体はどれも、首を撥ねられている。他に外傷はない。一太刀で首を撥ね飛ばされたと考えるのが自然だろう。


わなわなと震えるシャルリ。そして、大声で叫ぶ。


「総員!!!集合!!!!!!!全力でこの国を、この国を滅ぼしなさい!!!人間一人、残さずに!!!!」


空中に8つの魔法陣が浮かび上がり、そこから8体の魔獣が姿を見せる。強制転移魔法である。


シャルリは各国に3体ずつ魔獣を派遣していた。それだけで十分だと思っていたし、事実十分だった。

だからこそ、苛立った。なんで今回に限って上手く行かないのか、と。

同時に、()()3体もの魔獣を葬ったのかを知りたくなっていた。


国の中が騒ぎ出す。


「アハハハハ!!そうよ!!それでいいの!!もっと怯えなさい!震えなさい!!まぁ、降伏したって許さないんだけど!」


魔獣たちは一斉に城壁に向かって走り出す。空を飛べるものは上空から侵入を試みる。



その時だった。


突然、雨が降り始めピカリと眩い光が広がる。それから間髪入れずにピシャァン!と雷の音が鳴り響き、空を飛んでいた魔獣が黒焦げになって地に落ちる。


「え?」

シャルリが一瞬そちらに目線を向け、黒焦げになった魔獣を見る。すると直ぐに、ボトボト、と重たい何かが地に落ちる音が聞こえてくる。


見て見れば、それは、城壁に真っ先に駆けて行った魔獣2体の首だった。




城壁から、一人の男が歩いてくる。長剣(ロングブレード)を背中に背負い、2本の刀を手に持つ男だ。男は雨で濡れた短い髪を手で後ろに流しながら近づいてくる。


2体、3体と魔獣たちが男に立ち向かう。しかし悉く、首を撥ねられ地に伏せる。


「お前か?この地を騒がす「悪」は」

刀身についた血を振り払いながら近づいてくる男。

「お前か!!私の邪魔をする奴は!!!!」


感情を露にするシャルリを男は冷たい目で眺める。

「はぁ…魔界のモンをこっちに連れてくるったぁ随分なことしてくれたじゃねぇか」


剣を構える男。それを見て残りの3体の魔獣が襲い掛かる。

「…遅い」


魔獣たちには捉えきれなかったようだが、シャルリの目には辛うじて捉えることが出来た。


剣技としても超一流だが、同時に刀身が何かを纏っている。


魔法付与(エンチャント)の一種…?」

声を漏らすシャルリ。空を舞う魔獣の首。


「ほぉ…良い目をしてるじゃねぇか」

フッと刀を振るう男。シャルリは急いで回避行動に移る。しかし


「…!!!?」

「あぁあぁ、素直に首を撥ねられた方が楽だったぜ?」


ポトリ、と少女の左腕が地面に落ちる。それを見て、シャルリはワナワナと震えだす。


「ふざけやがって…私の邪魔をして…傷を負わせて…ただで済むとは思うなよぉぉ!!!!!!」

シャルリは表情を歪ませ髪の毛が逆立てる。それらは髪から蠢く触手へと変貌する。切られた傷口からも、無数の触手が噴き出し、もはや少女の面影はない。異形の怪物である。


「随分たくましい姿じゃねぇか」

男が襲い掛かる触手に刀を振るう。数本の触手が千切れ、地に落ちる。しかし、触手は瞬時に再生される。

「アハハハハ!!!」

シャルリは己の触手を縦横無尽に振るう。地を削り、空を割く触手。それを1本1本切り落として男は近づく。


「無駄よ無駄!!手数の差は埋められないんだから!!」


刀は2本。それに対して触手は何十本もある。2本の剣では四方八方から迫りくる触手は切り落とせない。

2発、3発と次第に触手が男の胴体を殴打していく。前進していた男は徐々に後退していく。



「なるほど…それがお前の考えか…」

「さぁ!死になさい!!!」


シャルリは幾つかの触手を絡ませ、一つの大きな触手を生み出す。男を踏み潰すには十分な大きさだ。


「ならば…裁くに値する!!執行権限、解放!!」

男は持っていた2本の剣を仕舞うと、瞬時に背中に背負っていた長剣(ロングブレード)を抜く。



その剣は、剣身が無かった。ただ、柄があるだけだった。

男はその柄だけの剣を天高く掲げる。同時に、眩い光が天を割き、雷が男の元へと降り注ぐ。


「な…!!まさか…!!!お前は…!!!!」


降り注ぎし雷は、剣身へと変貌を遂げる。

「神罰執行!塵と化せ!!!!!」


雷の刃が振り下ろされる。その剣身は、迫りくる触手を焼き払い、地を焦がしながらシャルリの元へと伸びて行く。


「お前は…神だというのかぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」




その断末魔は誰の耳にも届かなかったことだろう。雷の轟音が全てをかき消してしまったのだから。

後に残ったは、焼け焦げた地面の跡だけだった。


戦いが終わると、雨が止む。雲の切れ間からは太陽の光が降り注ぐ。城壁の奥からは歓声が沸き上がる。


しかし、男はそれには目もくれずに歩きだしていた。


「次だ。次の正義を貫きに…俺は進まなければならない」

柄だけになった剣を鞘にしまい、ただ、前に進む。

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