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その吸血鬼は優雅であるのか  作者: 珈琲豆
優雅な吸血鬼は冒険者になる
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原初の魔術とは何なのか

「ふふ…面白かった」

女は薄暗い部屋で不敵な笑みを浮かべる。


「しかし、どうするんじゃ?手駒を2体も一日で失うなんて…さっき報告会を終えたばかりじゃろう?」

女に対して、影の中にひっそりと佇む老人が訴える。

「どうってことないよ。どうせみんな好き勝手やるだけ。悪魔なんてそんな生き物だもの。報告会だってあくまで形だけ。本当に意味なんて無いんだから。

 それより、また新しい悪魔を雇用しなきゃね!今度はもう少し働ける奴が良いなぁ…」

「そうか。まったくどこまでも恐ろしい奴よな」


女は笑みを浮かべる。先ほどよりも遥かに歪んだ笑みを。

女は思いを馳せる。次はどんなことをしてこの世界で遊ぶかを。

「早く…実現しなきゃね。死する者だけの楽園(アフター・ヘブン)を」



▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


「原初の魔術!?」

『あぁ、仮にも魔術に触れたことがある奴ならわかるだろう!それより今は…時間が惜しい!!!』


原初の魔術とは、言葉の通り、最初に行使された「魔術」だ。かの伝説の魔王アルスディアスが最初に生み出した魔術…それが原初の魔術。しかし、それはかなりの欠陥品だった。何故なら…


『まさか魂を燃やしてくるとはな!!!!!!』


原初の魔術。それは生きる者の生命エネルギーを魔力に変換すること。即ち魂だ。

今、目の前の()()()()()()()()は、己が魂を全て魔力変換し、それを全て爆発魔法に次ぎこんでいる。恐らく本人の意思ではないだろう。身体を乗っ取っていた何者かがそう働きかけたに違いない。



「原初の魔術って…人間の魂ならともかく、ただでさえ魔力量も寿命も多い悪魔だったらヤバいじゃない!?」

『あぁヤバい!!そんな量の魔力を全て魔法に使われれば、この森どころか近くの街まで全部吹っ飛ぶぞ!』



魂を魔力に変えた場合の魔力の量は、その魂の質に作用される。長寿の種族であればあるほど、その生み出す魔力量は多い。つまりは生きている内に生み出すであろうエネルギー、それを全て魔力に変えるのだから当然だ。


「逃げるしかないじゃない!」

『今から逃げて助かる距離じゃない』

「この間のあの、吹っ飛ぶ奴、あれで…」

『あれは座標指定あってのだ。座標計算の時間はこの私でも無いのだよ!』

「だったら…どうするの?」


本当に気に入らない。他人の手のひらで踊るなど。明らかにこれは何者かが仕向けている。優雅な吸血鬼たる私がすることではないんだがね…!!



『今できることをする。これだけだ!!』


発動する術式は、魔力強奪(マジク・ドルレイン)。対象はそこで寝転がる悪魔。悪魔の首筋に己が手刀を突き刺し、全てを吸い上げる。命を燃やす相手にはそれ相応の力が必要だ。


莫大な魔力量が身体に流れ込んでくるのが感じられる。この場合の魔力は、生物が死んだ際に放たれる魂の残り香のようなものだろう。人間の間で「経験値」なんて呼ばれているものに近い。


肉体という枠から飛び出た魂は完全に全て肉体を出れるわけではない。魂とは非常に軟なものだ。肉体から出る過程で必ずしや欠ける。そういった欠片は、何故かはわからないが、生きる者の中に入り込もうとする。


そして、生きる者は他者の魂をそのまま受け入れようとはしない。自動的に魔力に変換して吸収する。



『メイア!もう針は抜いて結構だ。早めに抜いておけ!!』

いそいそと針を抜くメイア。針が抜けると再び生命活動が再開し、悪魔の首筋からどす黒い血が噴き出る。しかし、悪魔が何かを思う暇はない。

既に体内にあった魔力を根こそぎ奪い、魔力枯渇で意識はないだろう。おかげで原初の魔術には及ばないが、それなりには補えた。


魔力強奪でバラフの魔力を吸い上げることも考えたが、かなりの量がもう魔術へ利用されている今…下手に叩けばどうなるかわからん。


あとは、可能な限りの手を尽くすのみ。


『多重防御結界展開。及び指定座標内の大気の錬金を開始。指定範囲内、酸素を全て(アル:)二酸化炭素へ(ケミス)!』

バラフの周囲に防御結界を展開し、その内部の酸素を全て二酸化炭素に変換する。魔術による爆発と言えども、結局のところ燃焼エネルギーの急激な増加だ。燃焼する材料が少なければそれだけ威力は減る。

…と言っても、あの魔力量なら酸素を削っただけでは威力はあまり落ちないだろうが。


「私にできることは!?」

メイアが私が戦闘時に張った防御結界内で叫ぶ。

『その場で衝撃に備える!以上!!』

了解、と叫んで身を屈めて頭を守るメイア。


私はと言えば、最後の作業防取り掛かる。バラフを包む防御結界に、追加魔法付与(エンチャント)で耐衝撃及び耐熱を施し、衝撃をなるべく結界内で抑え込む。


魔力量は足りた。残った魔力も全て防御結界に回す。



「ちょっと!!貴方も早く身を守りなさいよ!!」


メイアが叫ぶが先か後か、バラフの魔力量が臨界点に達した。

眩い光と共に耳をつんざく轟音が鳴り響く。これが命の燃える姿だ。それは莫大過ぎるエネルギーだ。


何せ、ここで魔力に変わった魂は、二度とこの世に現れることが無いのだから。過去も未来も、輪廻転生の枠から外れ、ただの魔力になるのだ。魔術として使われた後の魔力は、微細ながら魔瘴気となり大気に混ざる。自然の一部になる。


それが、原初の魔術だ。


かの魔王アルスディアスは、その事を憂い、魔力を供給する別の手段を探したという。魂を燃やさずとも、この世から消滅しなくても発動できる魔法を探し、そして今の魔法発動要因の1つと言われる「魔力回路」を生み出したという。



そんなことに思いを更けながら、私は抑えきれなかった爆風と共に宙に舞っていた。流石に…あの衝撃は耐えきれなか…


▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△


『いや、悔しい』

「ホント…疲れた…」


メイアと私は、ただボロボロになりながら川沿いを下流へと進んでいた。先ほどの爆発で、多くの木々が倒れ、地面はえぐれている。酷い有様だ。


『ところでメイア、お腹は空いたかな?』

「空いてる。でも、今は…」


既に日は沈みかけている。西日が我々を照らす。


「シャワー浴びて寝たい」

『同感だ』


それから私達は無言で歩いた。そして、日が完全に沈む頃ようやくトクロジムアの街にたどり着いた。

『メイアは先に宿に戻ってくれ。私は組合に報告をしてくるしよう』

「あら、初めての依頼なのに随分冒険者らしいこと言うじゃない?」

『私は冒険者だとも。あ、それと。戸締りはしっかりな。昨日みたいに、暗殺者が来るかもしれないからね。そういえば…1人は君に化けていたが、胸の大きさは君より大きかったよ』

「何その報告、心の底からいらないんだけど!?」


「女は胸じゃない!」と叫ぶメイアを後に、組合所のドアを開ける。中はちょうど依頼を終えた者や、素材の鑑定を受ける者、晩飯や晩酌を嗜むもので溢れかえっていた。


受付を見ると、ラークが座っていた。

『やぁラーク君。依頼の達成報告をしに来たんだが…』



受付に行くと、ラークは怪訝な目でこちらを見る。

「お疲れ様…です。1人ですか?」


『彼女はかなり疲弊していてね。先に帰ってしまったよ』

「そうですか。しかし、早いですね。1日で済ませてしまうとは」

ラークは書類の束から私が受けた依頼を出し、ペンを走らせる。



『いや、思った程事態が単純でね。初めてにしてはかなり刺激的だったが、面白いものだったよ』

「そうですか。では…報告をお願いします。討伐証明部位なんかはありますか?初めての事なので一応忠告をしますが、虚偽報告は処罰対象ですからね?」



組合での依頼というのはそこが面倒な所ではある。報告を組合が確認し、報酬という一連の流れが必ずある。採取の依頼等であれば採取した物を組合に持って行くだけで良いが、討伐依頼となるとこうして、討伐証明を示す「討伐証明部位」を提示しないといけない。


それができない場合は、組合が派遣した調査員が現地に赴いて確認し、依頼主に報告、依頼主が承諾してようやく報酬が支払われる。


その為、世の中には無所属(フリー)の冒険者なんてのもいる。そういう輩はどちらかと言えば「なんでも屋」と言われる無法者(アウトロー)の仕事を引き受ける者ばかりなのだが。


『ふははは、虚偽報告か。もしかしたらそう思われるかもしれないね』

「というと?」

『今回の依頼でそもそも私はゾンビにはあっていないんだ』

「えぇ!?それで報告に来たって言うんですか?」

『まぁ落ち着いて最後まで話を聞きたまえ。人の話を優雅に聞けない者には女性は振り向かないぞ?』


目を見開き、口を開けて動きを止めるラーク。勿論、私は魔法なんて使っていないぞ。


『事の発端は、ゾンビの発生原因だ。討伐と言ってもそれを解決しない限り意味はないだろう?』

無言で首を縦に振るラーク。何をそんな驚いているのか。

『そこで、原因を探していたんだがね。これは初心者特有の幸運(ビギナーズラック)と言ったところだろう。その根源が現れたのだよ。なんだと思う?』

首をかしげるラーク。


ここで私は耳元で囁くようにラークの耳元に近づき呟く(勿論、念話なので対象をラークだけにすれば問題ないのだが)

『悪魔だよ』

「はぁ!?」

『そう声を荒げるな。信じられないなら、組合員を派遣してくれ。そうだな、ヤナセ川の下流の方から来たから、ヨキセの町辺りの共同墓地辺りを調べると良い。どこかしらに墓を荒らされた痕跡があるはずだ。悪魔は死体を何故か、アルズマ川とヤナセ川の分岐点辺りで死体を置き、ゾンビを作ろうとしていた』


ラークは急いでペンを走らせながら叫ぶ。

「待ってください。情報量が多過ぎる!」


『そうか?あ、追加だ。悪魔の契約者は探そうと試みたが駄目だった。なにせ悪魔が強くてね。幸いにもこちらには銀級冒険者が居たから私は助かったよ。悪魔は彼女が始末してくれた』


「あぁぁ…もうなんて上に報告すれば良いんだこれ…」

『簡単さ。ゾンビは墓荒らしが運んだ死体が原因、墓荒らしには逃げられる。そう報告するだけで良い』

「それこそ、虚偽報告じゃないですかね?」

『良いんだよ。だいたい、普通は信じないぜ?悪魔が原因なんて。下手なこと言って私の冒険者人生が終わりを迎えても困るからね』

「…まぁ、最近は調子のいい新人を潰したがる輩も多いですからね…。でも、それならなんで僕には?」



ラークは今までペンを走らせた用紙を破り捨て、別の用紙を用意してペンを走らせる。

『ふぅむ…なんでだろうか?1人くらい知っている人が居た方が面白そうだったからかな?

 …君は私の話を信じるのかね?』

「んまぁ。だいたいこんな突拍子もない嘘を思いつきもしませんからね」


ラークから、墓荒らしの調査がわかり次第報酬を支払うと言われた。ただ、墓荒らしを捕まえられていない為報酬は少なくなる、と忠告を受けて。


魔力回路:魔法を使う為に必要な要素の一つ。身体中に魔力を流す機関。機関といっても臓器の様なものではなく、血管と共有して存在している。魔力回路を有する生物は、身体中の細胞が生み出した魔力を血管を通じて魔力を身体中に流している。魔法を使うには、まずこの魔力の流れる感触を理解する必要がある。

「魔力回路が無いと魔法は使いづらいよ。骨しかない奴が魔法をつける理由?今の私は骨の中にも魔力回路があるのだよ」


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