鼻歌まじりがマジになったら……
【神の待つおうち】
「ふぅ……風呂はいいねぇ……ッ!」
俺はテンプレートな展開を越え、風呂に入っていた。 案の定汚れた服装で戻ると、リフさんが驚いた表情で出迎えてきた。
《あんたなにその格好? きったなッ?!》
《煙草が吸いたいって言ってたからさ……》
《外の景色みてブルーになってこいって……》
《はぁ、クズだなお前》
「はぁッ?! 意味がわからないのだけれど」
《ま、そうね……あんたそこら辺強そうだし》
《そんじょそこらじゃ反省もしないか》
「するわけないでしょう? だってクズだもん」
《はぁ……大丈夫かなこの計画――》
「計画なんてなにもねえさ、“ヤル”だけだ」
《はいはい、いいから風呂に入ってこい!》
「と、こんな事がありましたとさ……」
自分で自分のダイジェストをお送りするこのスタイル……嫌いじゃない。 むしろ好きだし愛してるレベルだ。 俺は俺自身が大好きなんだなと。
「ふんふぅ~ん、ズジャジャジャジャーン!」
薄っぺらい壁のボロアパートじゃクソみたいな鼻歌もろくに歌えない。 クタクタになって死んだように眠りこけるか、おとなしく湯船につかっておとなしくボーッとする事しか出来なかった。
「だがしかし、たかし……」
今の俺は無敵になった気分だった。 よくわからない神のゲスボイスを聴いてイライラしたけれど、そんなもん今はどうでもいい……
「おまちかねの“お風呂回”……」
(だがしかし、そんなものは無いッ!! )
断言できた、今あるこの空間は野郎による、野郎のリラックスステーションなのだから。 ムフフな展開を期待しても起きやしない。 これがリアルの絶対領域ッ!! 当然女子禁制なのだ。
「やっちめえよ? 軽快なリズムでビートを!」
そして始まる、野郎による野郎の祭典――
「 タイトル・人生はクソゲー Withおっさん
作詞・作曲 おっさん
歌詞
aAa ! HA ! 眠いぜダルいぜ毎日毎日
頭ん中ゴチャゴチャで毎日毎日パラダイス
元気 元気 元気 ? 問い掛けても空元気 !
Hy ! yo ! 朝からダルいぜ毎日毎日
朝目が覚め 朝の陽射しに絶望し 眠気眼で
急いで支度して 仕事にGO GO ! レツゴー !
チャリの硬いサドルにおしりはヒーヒー
駅のホームについてみんなと一緒に大名行列
どこを見てもどこを眺めてもみんな疲れてる
疲れて憑かれて 毎日グルグル回るや廻る
永遠 こんなループの毎日 ここから抜け出し
はかって見てもまた振り出し 出戻り 逆効果
クソみたいな日常 延々クソループ ライフ
LIFE 俺のLIFEもお前のライフも空っきし
すぐに空を切るぜ熱い感情 熱い情熱 熱い情動
職場についたらすぐに戦場で全員合唱 合掌 !
LIFE稼ぐ為 ライフ削って 魂飛ばして
命削って 毎日毎日 ループ ループ 延々ループ
全くいやんなっちゃうよ どうだいそうだろう?
だから俺が代弁するぜ 特をしないビートに乗せ
乗れない ガタガタ リズムに乗せて 飛ばすぜ
天高く拳を突き上げ 願うのは皆の安寧安定
されど今だ訪れないハッピーエンドに俺イライラ
俺がイライラならお前らもイライラで延々ループ
最近ツイてないって? 安心しな俺はずっと
ツイていない ツイてなさすぎて不平不満
フラストレーション溜まりまくり 滞り !
だけどそろそろ仕舞いよ 俺が変えるぜ世界を
腐ったクソッた世界をぶち壊し再生 構築 創世
終わらぬ負の連鎖 不の連鎖 ここで絶ちきり
皆幸せ ハッピーエンドまで 持ってくぜ !
ALL GOD KXXL KXXL KXXL それがループ
つまらねえ展開も 報われない展開も 全て
ぶち壊して 作り替える 誰のため? 俺のため
勢いに乗り 波に乗れ 風を切り 大地を裂き
クソ神に天誅を喰らわせる Waaaaaaa ッ!!
ALL GOD KXXL ALL GOD KXXL Hy ! Go !
デンッ――.」
――ズダダダダダダッ!!
「ふぅ……破滅のソングだ……いい」
とんでもないクソ曲を即興で作って歌ってマジになってしまっていた。 そして、階段をくだる破滅の音が聴こえてきた。
「あ……うるさかったかな?」
絶叫に近いクソラップを歌っていた。 きっと褐色肌の方が鬼のような表情でこちらに向かってくるだろう。 これが逆ならキャーーーーとかいって黄色い声が聴こえてきた事だろう。
だがしかし――野郎のお風呂シーンだ。 なんの価値もない。 むしろ怒られるのはこっちだった。
――ガチャッ!!
――ガギッッ!!
お風呂場のドアが開いた瞬間、お風呂場へのゲートである曇りガラスの薄っぺらい扉が開いた音が聴こえた。 破滅への一歩がすぐ側まで迫っていた。
「ぁ″あ″ァ″ッ!! うっさいわよおっさん!」
「お、おう……! って! お、おいッ?!」
そして脊髄反射の応答からすぐに――
「おま……なんて格好を?!」
「あぁ……これ? 少し脅かしてやろうかと」
妙にモジモジした素振りを見せる褐色肌の神。
驚くにはわけがある。 でっかいバスタオルを巻いただけの姿で俺をお迎えしてきたのだから。
「うっ――それは反則だろお前……不意討ちすぎ」
健康そうな小麦色な肌、ピチピチして艶々しているみずみずしい素肌。 大きな胸が二つの山と谷を作っている。 腰までのびた銀髪がフリフリと揺れ動き、とてもとても官能的なシーンを演出していた。
「はぁ……興醒め。 だるいわおっさん」
「わ、悪かったね……」
「そんなわけで、アタシの身体洗いなさいよ」
「ほへっ? いやいや、まてまて、おかしい」
(色々とぶっ飛ばしすぎておかしい……)
どうしてこうなるのかの説明がついていない。
だけど……
「はい! ぶらっくほぉーる~!」
――ジュピンッ!!
――はらっ……ポトッ――
「んな、ッ!? 目がッ?! 眼がぁッ?!」
「アギャーースッ?! 暗すぎてなにも……」
突如俺を襲う暗闇。 一瞬にして謎のヘニョヘニョな呪文? によって俺の視界は完全に奪われた。 本当に真っ暗闇に突き落とされ、小さな光すら見えなくなっていた。
「ざんねぇ~ん! 見たかったでしょう?」
「うふふっ! アタシの柔肌とかぁ~」
「ぐぬぬッ! 某WEBサイトだったらぁッ!!」
自分の中の邪な感情は物凄く抑えられていた。
「さて、これで安心できる。 さあ洗って?」
「……マヂスカ?」
それでも俺には刺激が強すぎていた。 うまれてこの方、女の子とろくに手を繋いだ事がない!
あったとすれば小坊の頃、リクリエーション?
だかなんだかで皆で輪になった時くらいだろう。
そう――大体これがリアル(現実)
「残念ね? 変な気持ちは起こさないでね?」
「わかっとるわッ!! 出来るかボケッ!!」
(美少女ゲームの主人公じゃねえんだよボケ)
こちとらただのおっさん。 “無能力者”!
なんの能力もない能力者だ。 それが能力。
「ほら、“ヌルヌルした液体”だよぉ~?」
「俺は突っ込まんぞ? いいなッ!!」
(絶対にだッ!!)
「はいはい、さっさとヤれッ! おっさん!」
「ぐぬぬぅ……こっちまできて小娘に……」
変な話だった。 異世界に来てもなにも変わっていない。 結局、こきつかわれる運命だった。
「へいへい、わかりましたよ“お嬢ちゃん”」
「いやいや、あんたより“年上”だし?」
「いや、まあそうなんすけど、、はい」
わかってはいた、相手は神。 合法ロリってジャンルなのだろう。 知っていた、そして驚愕していた。 やっぱ神ってつえーわと。 勝てる気しねえんですけどと。
「なにとまってんのよっッ! こんのッ――」
――キンッ! キンキンキンッ!!
「――あびょぉッ!? い″ッ!? ァ″~ッ!!」
「やっと動き出したわ。 変な感じ……」
「お前……“大事な二つのソウル”をなんだと……」
「まあいいじゃん? 減るもんじゃないし」
「いや、減ったよ! スゲー減ったからッ!」
「性教育の授業受けてきた方がいいよ君!」
「はいはい、ゴメンゴメン……それじゃ……」
そして――クソつまらん展開のままお風呂回は唐突に終わった。




