やんぞッ! 野郎と美少女とガールズトークを!
【キャワワなお部屋】
――さあ始まる。 禁断のお話が。
「……おじさん? しよっか?」
「お……おう?」
ここだけ抜けば雑な官◯小説のワンシーンに見えなくもない。 しかし……全く違うのであった。
「なにから話そうかね……ふむ」
(ガールじゃねえから喋る言葉がねえんだが)
死んだからと言って悩み事が解決するわけでもない。 こうしてまた、無理難題が俺自身を襲う。
「なんでもいいよ? 下界の話でもなんでも」
「そっか、なら飽きるほど嫌になるほど語る」
「うん! よろしくぅ!」
――ビシィッ!!
「やめいッ!! 恥ずかしいだろうが!」
ウインクしながら指差してきめてくるジンちゃんを見て、何故か俺が恥ずかしくなっていた……
「まずそうだな、下界がクソだって事をだな」
「うんうんッ! 続けて続けて?」
「……黙って聴きなさいよ君は」
いつの間にか俺の右腕に抱き着いていたジンちゃん。 プニプニとコンパクトサイズの胸が当たって妙な気分になっていく。 しかし、反応せず俺は語っていった。
【一定時間後】
「ははっ……そりゃだるいねぇ」
「……だろう? 生きてるだけで地獄なんだよ」
「特に毎日、顔会わせたら挨拶は……あはは……」
ジンちゃんは引きつった笑みを浮かべながら失笑していた。 よくある奴隷と権力者の構図だ。
朝からみんなお疲れさんなのに、元気よくおはようござまぁ~すぅッ! あっすッ! うっす!
もうなんなの? 勘弁してよ……って話がどうやらジンちゃんの心に刺さったようだった。
「あと、“時間で縛られる”のはちょっとね……」
げっそりした表情でお手上げだよとジンちゃんはおどけてみせた。 抱き着かれていた腕がフッ……と軽くなると、柔らかな心地いい気持ちも薄れ、少しだけ、ちょっぴりだけ寂しくなってしまう。
あまり、進んで人とは絡んでこなかったから、人の温もり? にはかなり弱いのだ。
「ふぅ……そうね、“人間を縛るのは時間”だ」
人を縛り、人を苦しめるのはいつだって時間。
時間がもう少し融通の利くモノだったらきっともっとうまい展開もうまれた事だろう。
「“時が止まればいいのに”って思うでしょ?」
「そうね……うん。 朝と寝る前が特にだな」
(ってなんのトークだよッ?! なにこれ?!)
飲み屋でグダグダくっちゃべるジジイのような、ディープなのにくっそ軽い会話に俺は重い目眩がしていた。
「あと、変なの……“人間”って」
「あぁ……そうだ。 人間ってヤツは変なんだよ」
普通の一般人には決して伝わらないだろう。
考えれば考えるほど人間ってヤツはバカで変なんだよと。 反論されて論破されたとしても、この持論だけは曲げたくはなかった。 日常に蔓延るクソ展開と、クソみたいなループした毎日。
論破出来るなら、してみろよと言ってやりたいレベルだった……
「みんなマスクして、顔色悪くてだな……」
それから俺はよくある日常生活のワンシーンについて熱く熱く語っていた。 例えば、電車に乗る奴等を見てみりゃ、大体お疲れモードでげっそりしながらウトウトしてるヤツ、本気で崩れて寝てしまったサラリーマン、キョロキョロしながら仁王立ちするババァ、直立不動なジジイ、スマホをピコピコしているクソガキ、綺麗な目で車内の外を見つめるおば様に、くっちゃべるクソガキ学生集団、なにしゃべってるかわからない外国の方々……
もう……これだけのワードでクソラップが刻めてしまうレベルで、人間って生き物はオカシイのだ。
「ぜぇ、ぜぇ、ハァ、はぁ、まだまだいくぜ」
「次はなにかななにかなぁ~?」
「聴いて驚愕しろ――ッ!!」
「これがいかに人間がつまらんのかの“証明”」
「あ、貶してるわけじゃないのよ? “真実”ね」
「あ……うん」
「な、なにその反応? やる気あるの? 君!」
神ってヤツは情緒不安定なのだろうか? 思いっきりテンションが上がったと思ったら、一気に落としてくる。 まるで絶叫マシーンのようだ。
「人間ってのは、どうでもいいことでだな……」
「ワクワク!」
それから、本気の本気の真実へと話を進めた。
まず、簡単な事なのにスゲー文句を言うヤツの存在。 どうでもいいレベルの事を大きくさせるヤツ。 お前になんの接点もねえのに突っ込むバカ共の存在。 芸能人が不倫したとかで叩く奴等のなんと虚しい性質。 お前になんの接点があるんだよと。 極論から言えばどうでもいい問題だろうと。 当事者間で完結しとけよと。 どうせすぐに鎮火して忘れるレベルの事なのだからと。
「が――はっッ?! ぜぇ、ぜぇ、ゼェ!!」
「ちょ――だ、大丈夫?!」
「心配すんな……俺はもう“死んでる”」
心配して覗きこむジンちゃんにカッコよく返していく俺。
「あー、でも“消滅”するよ?」
「聞かなきゃ良かった……」
「それは人間も神も一緒だから気をつけて?」
「……」
(基本システム変わらないのかよッ?!)
だが、ここで折れる俺ではなかった。 全速力で悪口に近いリアルの声をきかせて、息が切れて心配された俺だが、最後の最後はカッコよく決めて終わる。 それが使命だと教わったのだ。
「安心しろ、“神を全てKXXL”するまで――」
「“俺は死なない”」
――ドゥウゥウウウゥーーンッ!!
脳内で謎の決め効果音が鳴り響いていた。
「“強い”よ……“神”は」
「あぁ……知ってる」
「“出来る”……の?」
「あぁ、出来る」
「そっか……」
「あぁ……」
そして俺達は無言になっていた――




