絶望は続いていく――
【天国・砂漠】
砂嵐が凄い――今度は本当にノーガードだった。
――女王はもう“居ない”。 格好いい魔法は解けて俺は、俺自身の足で何処かへと向かっていた。
「くぅ……っッ!? なんて風なの?!」
「ヨ……“ヨク”――耐えろ。 “護るんだ”」
「う……うんッ! ぐっ――」
ノーガードな俺を囲み、必死に俺を護ってくれる悪魔兄妹―― 何もできない自分が嫌だった。
「クソッ――どうすりゃいい……どうすりゃ――」
あの時みた宙に漂う魂は今は全く見えない。
魂を消費して魔法に出来るこの世界――
「このまま――じゃ……“全滅”だ」
“最悪なシナリオ”が頭の中によぎる。
「クソッ――どうすりゃいいんだ、畜生ッ!?」
「う″ぁ――ッ!? きゃあッ?! グッ――ッ」
「ぐおぉおおおぉおぉうッ!? ぐがぁッ!?」
そして――俺を必死に必死に護りながら歩く悪魔兄妹達が――悲鳴をあげる。
「くっそおおぉおおぉッ!? “終わって”……」
「たまっか――よぉお″おお″おぉ″ッっッ!?」
(こんなところで無様になんて死ねねえ……)
考えろ、考えろ、ねえ頭を振り絞ってッ!!
「がはっ――ッ!?」
「お、おい……ッ?! よ――ヨクぅう″ぅッ!!」
力尽き、砂漠に伏すヨクの姿――
倒れるヨクに覆い被さるように護る兄貴――
「くっそおおぉおぉッ!? やりやがったな!」
(神――てめえは俺を怒らせた)
ガバッ――
「ぐぅ――いててッ!? げほっ、げぼっ、ん″」
荒れ狂う砂嵐を目一杯受け、兄貴も……俺も――
――可愛い可愛いヨクを護る。
「い、息が――ぁ″ッ?!」
猛烈な砂が口にも鼻にも全身に襲いかかり、息が出来なくなる。
「“死ぬな”ッっッ!!」
――バシンッっッ!!
「――ぐぁッ!?」
息ができず死にかけていた俺の背に激が飛ぶ。
腰が砕けるのではないか。 そう思える程の力でおもいっきり叩かれていた。
「“ヤるんだろう”が……“神”を」
「ハッ――ッっ?!」
その言葉を聴いた俺は思った。
――魂が無いなら……“呼んでしまえ”と。
「ぅ″はッッ!! ぜぇ、ぜぇ――“頼み”がある」
「な――なんだ?」
意識が朦朧して何を呟くかわからない。 でも、俺は力を振り絞って暴に伝えた。
「数十秒――いや、“数秒”でいい……“俺を護れ”」
「はっ――冗談が……ぐぅッ!? キツイぜ――」
暴の口から呆れた声が聴こえる。 なぜなら、暴だけで俺と崩れたヨクを護らなければならない。
「うるせぇ……“やるんだ”よッ!!」
「――ぐっッ!?」
今だけはどんなクズになったっていい。
――全員死ぬよりはましなんだ。
「やらなきゃ……俺達は“ここ”で死ぬだけだ」
「わ、分かった――」
無理矢理理解させた俺はカウントを始める。
「んじゃ――逝くぜ? “兄弟”――ッっッ!!」
――スリー。
――ツー。
――“ワン”。
そのまま――
「やれぇええええぇえぇえぇぁあ″ぁあぁッ!」
魂を込めた俺の絶叫――
そして――
「――あ″ァ″ぁ″がぁあぁあぁあぁぁッッ!!」
俺達――ブラザーの絶叫コラボレーション。
「魂いいぃい″ぃッ!! “聴け”えぇぇッ!!」
「俺達を――“護り”ヤがレェえぇぇえぇッっ!」
「“ゴッズ”――プロテクショオオォオンッ!!」
その数秒――俺はありったけのそれっぽい言葉を呟いていた。
そして――
――ヒュルルルルルゥウウゥウゥッッ!!
――シュパァーーーンッッっッ!!!!
「――う″おぉッ!?」
俺達を襲う砂嵐が一瞬で吹き飛ぶ良い音がする。
「こ……これはッっ?!」
砂嵐から俺達を護るソレは、金色に輝く巨大なつむじ風のような風の防御陣になっていた。
「金色……と? や――“闇”」
――ビヂヂッッ!!
――ビビビッッ!! ズバァーーンッ!!
「あぁ……暴――“闇の閃光”が――疾ってる」
巨大なつむじ風の中で黒い黒い漆黒の闇の稲妻が無数に走っていた。 金色と――闇の色――
それはどんな光景よりも美しく見えた。
「う″ッ――どうして……“悪魔の魔法”が……?」
フラフラとした足取りで、立ち上がるヨク。
白いキャミソールはすすけて汚れ、細かなキズが見えてくる。 ボロボロになった姿でそんな驚いた声をあげて。
「わからん……知らねえよこんなもん、お前……」
なぜ悪魔の魔法とやらが使えたのかは分からない。 でもそれは――神々の魔法、そして悪魔の魔法が混ざりあったような光景だった。
「知らねえけど……向かおう、このまま」
「向かうってどこに?」
「そんなもん知ってるだろ。 “神の住む家”だ」
「あ……ッ?!」
「そうだ――俺を“先に殺した神の元”さ」
「そりゃいい……疲れちまったぜオレは」
「分かってる――よくやった暴」
「少し、ゆっくり休ませてやるさ――」
(なんだか、身体が――沈んでいく?)
焼きが回ったのだろうか? 物凄い疲労が――
――バタッ。
「お……おいッ?! どうしたんだッ?!」
「な、なんで……?!」
――遠くから驚いた声が聴こえる。
きっと――悪魔兄妹の声なんだろう。
そんな声も――次第に――どんどん遠ざかり――




