明かされる神々と悪魔の歴史――
【転送後・“神々の世界”】
あれから一瞬で地獄から天国へ辿り着く俺達。
地獄から天国へ来たとしても景色は変わらない。 むしろ……こっちの方が……“何もない”。
「さぁ……“着いた”わッ!!」
女王は両手を広げて何もない地表で顔を上げる。
地獄に似た、禍禍しい空。 どんよりとして、不気味な夕焼けのようなゾクゾクする天空を。
俺達「……」
ビリビリと発せられる女王の絶叫に近い声――
ゾクソクして俺達は全員息をのんで見守る。
「“神”ッ!! よく“聞け”ッ!!」
荒れ狂う風すら時が止まる感覚。 ピタッと荒れ狂う砂嵐が止んだ。 そして静まりかえる空虚。
「“我々”は――“お前達”を――」
俺達「ごくッ……ッ!!」
俺達は酷く酷く低い声にまた息をのむ。 女王の側に立つおじ様執事であるワンさんだけは、ニコニコしながら女王と共に天をただ見詰めていた。
「“全て”――“抹殺”しに“キたァ”っッ!!」
大地が凍り付くような発狂――絶叫――その全て。
その一言だけで、理解できる単純性――
「ふふっ、ふふふッ!? これは“昔の復讐”だ」
不気味な女王の低い低い声。 その声にはとんでもない重さが含まれているような気がした。
「これはただの“復讐”――“簡単なお話”だ」
「“我々”は“宣戦布告”しに来た“モノなり”」
「さぁ……お前らの意思を見たい。 “魅せろ”」
女王のその言葉に反応するかのように、大地はまた荒れ出す。 強烈な暴風――強烈な砂嵐。
――そして……“神々の意思の塊”。
「――ぐぅあッっッ?! いてててッ?!」
(これはヤバい――真っ先に俺が死にそうだ!)
目もろくに開けられない程の数の暴力。 細かい砂が飛びまくり、俺達を襲ってくる。
「“デス”――“プロテクション”……」
ボワンッ――ブブッ――がぎゅんッ!!
俺が真っ先に死にかけていた瞬間――女王が何かを呟くと、荒れ狂う大地に翻弄される俺に謎のバリアのようなものが現れて――
「“見ろ”――その“目”に“焼きつけろ”」
「――んがッ?! なっ……なんだよ“これ”」
俺の目の前に見えた“景色”。 それは――
「これが“我々”を“創りし神”の“意思”らしい」
荒れ狂う大地に立ち尽くす俺をよそ目に、平然とただ荒れた天を見つめる女王と側近のワンの姿。
他の悪魔達は渋い表情をしながら身を護る。
「ふふっ……ッ!? アッハッハッハッハッ?!」
「くくっ!? そうか……“嬉しい”のだな?」
「――ッ?!」
女王の発狂声に俺は思わずへたりこむ。 足が腰がすくんで、ガタガタと歯を震わせただ――
「だからこんな……“啼いている”のだな」
「こ……怖いッ!! ひ……ひぃッ?! あぁ″……」
俺は怖くて怖くて仕方がなかった。 怖さを飛び越えて、それはもう“恐い”とも捉えられた。
「“血の雨”――か。 ヤル気満々ではないかッ!」
「くひひッ?! これでこそ……“強大なる神”だ」
女王がオカシクなる度、恐怖は増していく。
加速するように、跳躍するようにハネあがる。
「――“元人間”……“よく見ろ”ッ!!」
「これが――“我々を創った”“創造種”なのだ」
「ぐっ――ぁ″あ″ッ!?」
荒れ狂う大地に降りやまぬ血のような赤い雨。
バリアがなければきっと赤く染められていた。
厭な色だった。 見たくもない、“最悪の色”――
「これから厭でも見る事になる。 だから――」
「“その眼”に――“焼きつけて”おけ」
「ぐぅ……ッ?!」
「“幻想”でもなく、これが“本物の戦争”だ――」
「わ――わかった、うぷっ……はぁ、ハァ、ぶっ」
強烈な吐き気を抑え、強烈な光景を睨みながら、呪いながら俺は涙を浮かべ、それを黙って見る。
――綺麗さなんてひとつもない。 これがリアル。
生きるか殺されるか――ただひとつの“現実”。
「さて――見飽きた。 “消えろ”――」
「“エビル”――“リメイク”ッっッ!!」
睨む俺をよそ目に、女王はまた何かを放った。
その瞬間――荒れ狂う大地が悲鳴のような、なんとも言い難い音を発し、変わっていく――
ビジ――ヂッッッ!!
グォオオォオオォオォ――ッっッ!!
バリッッっッ!! ビヂヂッッ!!
――しゅるるるぅううぅッッっッ!!
「――ん″な″っッ?!」
荒れ狂う大地が悲鳴をあげ、ナニかが割れそうな音とともに、空間“そのもの”が“収縮”していく。 まるでブラックホールのように小さくなる。 轟音の中、遂に――俺達は。
「“虚無”さ。 分かりやすく“変えて”やった」
「ま……“真っ暗闇”ッ?!」
気がつけば荒れ狂う大地から、深淵なる闇の世界に様変わりしていた。 なにもない、なにも見えない。 本当の黒さ。 本当の――漆黒。
――本当の……“虚無”。
「“神”はな。 “虚無”なんだよ」
――暗闇に聴こえる女王の声。
「ナニもなく――そして“自身の事”も知らない」
「うひひっッ?! こんなヤツに“我々”は――」
「“勝手”に“創られた”んだ」
意味深な言葉が飛んでくる。 だけど……
「飽きたから、“遊び相手”が“欲しくて”な?」
衝撃の展開だった。 ほんまもんの……“子供”。
「創って、創って、“創り”まくり――そして」
「飽きて“見るのをやめた”のさ」
好きで好きで大切に扱っていたオモチャ。 それをいつの間にか忘れ、捨てる神――
そんな光景が俺の脳裏に浮かんでいた。
「“創っては壊してきた”癖になぁ? うふふっ」
「……」
俺は自分の唇を噛んで黙って聴いていた。
女王から出るであろう“最後の言葉”を聴く為。
「だから――“我々が終わらせる”のさ」
「ごくッ……っ!」
「“神々に操られ続けた哀れなワタシ達”で」
絶頂に似る、その禁断のパワーワード。
聴くもの全てを堕としていくパワーワード。
「今こそ力を集約し――“腐った神に一撃”を」
「“腐って壊れた神の脳天”に――」
「“我々”――“紛い物”が――」
「“正義の鉄槌”を“喰らわす”ッ!!」
馬鹿げたお話だと思うし、スケールが大きすぎて脳がもう考える事を諦めていた。 呆れるほどクソアツイ展開。 なのにもう心は冷たかった。
「女王――重い、重いよ……“沈み”そうだぜ」
「あらそう? でも……これが“本当の事”なの」
「そうだな……」
あまりにも重たい事実にテーマ。 これから俺達が背負って逝くものはひとつだけ。 俺達を“操り続け”見捨てた神に一撃を喰らわす事だけ。
「さぁ、“戻り”なさい。 “暗闇”」
ぼーっとしながら考えを巡らしていると、突然、小さな光が現れた。 その光は徐々に大きくなり。
「弾けろ――そのまま拡がって――“闇を喰らえ”」
グググッ――シュパッッっッ!!
「ぐぁっッ?! なんだこの強い光はッ!?」
小さかった一粒の光がやがて大きな光へと変わっていく。 そのまま俺達を飲み込むように――
――ひゅるるるるるぅっッッ!!
――ずぱぁあぁんっッ!!
「ぁ″――ァ″ッ――?!」
弾けとんだ――




