やっぱり“異世界”だった。
【地獄・外の世界】
あれから……俺は街のど真ん中にある広場のベンチに座って、行き交う“人に似た魔物”を眺めていた。 様々な色をした“魔物人”が目に入る。
「はぁ……どこで“煙草”を落としたんだろうか」
俺は何度も何度も、自分の黒いズボンのポッケを漁っていた。 しかし、触れるものは、ミイラのようなガイコツの骨だけ。 煙草もライターも無くて、絶望しながら、ボーッとそれらを見る。
「しっかし……今改めて見ると、ファンタジー」
レンガで出来たおしゃれな地面に、西洋風な建物が並び、カラフルに見えて、海外旅行にきたかのような気分になった。 忙しなく行き交うソレ。
「しかも……“可愛い子”多すぎだろおい」
人とは違うその存在。 横に伸びた長い耳、人とは違う様々な色の髪。 肌の色も様々――
「“緑”とか“水色”とかもあるんだな……」
でも、別に不思議と変な違和感はわかなかった。
“この世界”では当たり前の光景なのだろう。
そう思ってしまえば、現実と差ほど変わらない。
「ふふっ……ったく俺はひねくれてるな」
普通のヤツならば、なんだこれスゲーと騒ぎ立てる事だろう。 でも、俺にはそんな感情は無かった。 現実世界で揉まれ過ぎて、本気で感動したり、驚いたりする事が無くなってしまった。
――いつの間にか感情に“天井”がついたんだ。
「勘弁してくれよ……ここにキテまで疲れてる」
気分は現実世界と同じでヘトヘトだった。 もっと、謎の力で疲労とか無いものだと思っていた。
でも――これが現実だった。
「普通に疲れるし、普通に痛いし……なんだよ」
ここでもまた、現実を思い出させるのであった。
「はぁ……だりいなもう。 なにが“物見遊山”だ」
――声が聴こえる。 “LOVE”の波動が伝わる――
「チッ……んなもん、室内でやれやボケカス……」
ファンタジーな異世界でも、結局なにも変わらない。 街中でイチャイチャラブラブしてるクソカッポォ…… 俺の中のMPがゴリゴリ減ってもう――
{ねえねえ、なにあれ~? “人間”?!}
{うわッ?! はじめてみた……なんでいる?}
{ねえねえ、なにあの格好? ださくな~い?}
{ギャハハハッ! そうだな、マジダセェな!}
「……」
(聴こえてるよ? ねえッ? 君たちぃ?!)
――死にたくなった。 それと同時に、なにもそこまで言わなくてもと思わなくも無かった。
一番ムカつくのは、“モノホン”な美男美女の組み合わせの魔物人にコソコソ話をされた事。 怒りたくても、怒りたくても怒れないッッ!?
――これがパワー“イケハラ”なのかと。
「あーくそ、“メイド”とヤるかもう……クソ」
俺は最低の事を考えていた。 全て嫌になって、もう折れてしまえと。 そうすれば楽しい楽しい生活が待つんだと。 さっさと“童の帝”を卒業して、本物のキングになってやろうかと。
「――“分かるよ”」
スッ――
ポンッ――
「へ……?」
それは俺が最悪ルートに入ろうかとしていたタイミングで起きた。 突然後ろから肩を叩かれた。
「わかる、わかる――だけど“ダメ”だ」
「ちょ……?! な、な、なななんすか?!」
気配を完全に消し、突然現れた“何者か”の声。
当然――俺はビビりにビビっていた。
「ふふっ……わかるけど、“駄目”なんだよ」
「……っせえッ!? 勝手に思考を読むなボケ!」
俺は我慢出来なかった。 後で俺の肩に手を置く何者かに向かって激怒していた。
「まぁ、落ち着きなよ。 なぁなぁなぁ……」
「イライラするな……“格好いい声”しやがって」
よくあるパターンの、男キャラを女性声優が演じてる時のような格好いい声が妙に鼻についた。
「シッ……“静かに”」
「――ッ?!」
その囁くような声に俺は震えていた。 まるで後で銃口を頭につけられ、身動きがとれないような錯覚。 実際、そんな場面は見たことはないし、実際起きたこともない。 でも……確かにそんなような感覚が俺の脳内で流れていた。
「そう……それでいい。 さあ、“行こう”か」
「ど……どこにだよ?」
謎のイケボに俺はガクブルしていた。
――一体、これから俺の身にナニが起こるのですと。 “色々な意味”でもちろん怖かった。