極楽浄土な世界――
【???】
“夢”を見ていた――
――“誰か”に“お前は死ぬぞ”と言われて――
――“俺”が全ての神を殺すまで死ねないと伝え。
{おい……いつまで寝てんだ“元人間”}
“似たような声”が聴こえてくる。
その声に反応するかのように俺は――
「――ハッッ??」
「おいおい……いつまで寝てる……“元人間”」
「じ……“ジジイ”?」
一気に目覚めた俺の目の前には、とびっきりの美少女ではなく……その辺にいそうなジジイ。
「はぁ……もう一度寝たら、変わるかな……」
「んぅ……すぅ、すぅ、すぅ……」
「――おいぃッ?!」
「――んがッ?! うるせえなぁッ?! もう!」
もう一度寝て、現実逃避をはかろうとするも、未遂で終わってしまった。 耳をツンザクようなジジイ特有のハイパーヴォイスの勢いは凄まじい。
「うるさいじゃない、お前さんずっと寝てた」
「そうか……よーし寝るッ!!」
「――“女王様”が“お呼び”だ」
「――はい?」
目覚めて起きたらジジイがいて、次は女王様がお呼びだとの事。 いまだに状況が掴めず、あの、どなたですか? とも言えない状況になっていた。
「いいから来なさい。 “君の恩人”だぞ?」
「……そっか」
――知ってる。 どんな状況なのかなんてものは。
あの時――クソムカツク神にヤられて俺は……
「遠い目をしてる場合ではない。 来なさい」
「お……おうよ! ジジイ!」
「ジジイではない、“ワン”だ」
「そうかい……“ワンさん”」
なんだかわからないが、この執事っぽいジジイはワンというらしい。 やっぱりこの世界の登場人物の名前は狂っている。 センとジョウ――
それに、リフと……ジン。
「こっちだ」
「ああ……」
俺は言われるがまま、ワンさんについていく。
途中、とんでもない“豪邸”? にいる事に気がついたが、どうでもよくて仕方がなかった。
高そうな絵画に、高そうなツボ、高そうな大理石の床、真っ白い壁に真っ白い照明――
もはやここが天国なのではないかと思えるほど。
馬鹿らしくなるほど、高級すぎて思考停止してしまっていた。
「女王様――お連れしました。 “元人間”です」
「おお……ッ?! 息をふきかえしたのか?!」
「はい……たった今、こやつは復活しました」
「ふむ……」
たかそうな金色いろに輝くドデカイ王座の椅子?
そこにちょこんと座り、足を組んで澄ました表情で俺を見る……“ロリババア”? がいた。
「ふぅ……よかったよかった」
「本当ですよ……“大変”だったんですから……」
「フフッ……そうだな。 よくやった!」
「はい……」
なんの事を話しているのかはわからなかった。
でも、なんとなく雰囲気でわかった。 今の俺の身体は、あの“二人の神のモノ”だ。
――だから身体の性質が違うのだろう――
「それで……あなた方はドナタデス?」
ここで俺は思いきって聞くことにした。
そろそろ、答えが知りたいから。
「そうだねぇ……“我々は悪魔”さ」
「――んがッッ?!」
「んっ? どうしたそんなに驚いた顔して」
「い……いや、ちょっとね」
そんな展開がありそうな事も読めた。 でも、まさか“第三の勢力”が現れるなんて思っても見なかった。 神と――悪魔。 やはりこれはセットかと思える展開だった。
「あぁ……“大丈夫”だよ、“危害”は加えない」
「……は、はぁ」
そうは言われても、神と悪魔は基本、合わないだろうと思う気持ちが先行して信用出来ない。
「フフッ……ヤるんだろ? “神を全て”」
「……」
ニヒルな笑みを浮かべる女王様の姿――
幼い身体に赤いドレスを着こなし、綺麗で美しい透き通るような白い足を王座の椅子にのせ、膝に手をあて、顔を寄せながらそんな事をいう。
「あぁ……そうだ。 その為に俺は“死んだ”」
本当の事を言っていた。 先伸ばしは良くない。
「で……ヘッポコ神に拾われてこのザマかい?」
「……なにも言えない。 俺は開幕速攻負けた」
――プレイボールッ!! アウトッ!!
簡単にいうとストライクも無しでアウト。
これが真実だったのだ。 勝負になってない。
勢いだけは誰にも負けてはいなかった――
ただ、相手が神という事を忘れていたのだ。
「可哀想にな……“我々”に“拾われて”れば……」
「悪いな……それが“人間”ってものだよ」
都合が悪いときには神頼みをする。 頭が神って存在のデカさにイカれて、悪魔に頼るなんて考えには至らなかった。 一番そっちの方が倒せそうな熱い熱い灼熱な展開なのにだ――
「そうだな……全くもって神ってのはクソだ」
「“悪魔”より――“神は人を殺してる”しね?」
「なにも言えない……その通りだからな」
「フフッ……どっちが“悪”なんだろうな?」
「……」
女王様のその言葉に返す言葉が無かった。
――善と悪――本当にそんな事が言えるのかと。
「さ、つまらんお話は終わりにしよう」
「お……おう?」
唐突に暗い暗い会話はどうやら終わるらしい。
低い低いトーンが少しだけ高くなっていた。
「ああ、そうだ。 あの“神は殺した”から」
「くひひッ!! それに戦利品も手に入れたぞ」
「……“神”を――“殺した”?」
「あぁ、一瞬で葬ってやったさ――“隣”が」
「と……隣って――ジジ――ワンさんが?!」
戦利品云々の話はどうでもよかった。 それよりも、神を殺した? そちらの方が大きかった。
「はい、この老いぼれ……神を屠りました」
「――やられた。 美味しいところを取られた」
最悪な展開だった。 まさか倒すべき相手が、他のヤツにヤられていたとは――
「フフッ……だって“悪魔”ですもの」
「えぇ……女王様」
悪魔達は愉快そうに嗤った。 それが普通と言わんばかりに、堂々としていた。
「そっか……残念だ」
俺は肩をガックリ落とした。 自分が弱いせいで招いた事態だと。 自分の弱さを恨んでいた。
「そうガッカリするなよ。 “戦利品”があるぞ」
「な……なんだよ」
どうせろくでもないモノだろうと予想はしている。 きっとそうに違いなかった。
「来い――“お前達”」
――ザザッッ!!
「え――」
女王様がそういうと、ドデカイ王座の椅子の後ろから、ゾロゾロと――
「フフッ……仕方がないから“飼って”やった」
「まじかよ……“メイド”?」
そこにいたのは十名くらいの女神達だった。
スタンダードなメイド姿で、何故か全員黒い目隠しをしていた。 なんとも言えない異様な光景の数々―― 俺は愕然としていた。
「好きだろう? 元人間。 フフッ……」
「あ、いや――あの?」
「フフッ……好きに使うといい。 特に“夜”」
「……いや――アイツの“お下がり”はなぁ……」
「お下がりって……最低だな元人間――」
「だっておめえ……なんか“嫌”じゃん?」
自分でもなに馬鹿な事をいっているかは知っていた。 知っていたが、許せないのだ。 今までアイツとイチャイチャしていた女神を使え?
――冗談じゃない。 女性経験がない俺だが、ちっぽけなプライドがある。 女くらい選ばせてくれよと。 どの面で言ってんだという話だが――
「まぁ……そうだな。 ふふっ……まあいい」
「さて……“外”に“出よう”か?」
「はい?」
「フフッ……なに、“物見遊山”さ――」
「……」
(多分……“地獄見物”の間違いだよな?)
そう思わざるをえなかった。
【地獄の外】
「おい……なんだよ? この“近代化された世界”」
外の世界はとても現実に近い風景だった。 天国の方がむしろ……地獄なのではと思えるほど、ちゃんと作り込まれた世界――
「“驚いた”ろう……? これが“地獄の中”さ」
「なんか……こっちの方が“楽しそう”じゃん……」
「そうだろう? フフッ……頑張ったからなぁ~」
見る限り、相当作り込まれた世界だった。
――一歩間違えれば現実にも見えてくる。
「女王様? そろそろ……」
「あぁ、そうだな。 悪い、散歩してきてくれ」
ワンさんが女王様に用があるようだった。
俺は遂に地獄で放たれる事になってしまった。
「不安しかねえ……」
「大丈夫、問題はないよ。 きっとね……?」
「信じるぞ! 絶対だぞッ!? おいッ!?」
「ククッ……ああ、“絶対”だ」
「わかった――」
俺はその言葉を信じて一人、物見遊山に向かった。