死んでからが本番だろうがッ!!
【?】
――おーいッ! 起きろーッ!! おっさーん!
「むむ……むぅ……?」
どこからともなく自分を呼ぶ声が……?
キンキン響くクソガキのような声で脳が少しずつ覚醒していく。
「おい、起きろよコラ“おっさん”」
「……誰がおっさんだごるぅあっッ!?」
「ひゃうッ!? ははっ…! びっくりしたぁ~」
「ほぅ……? ふむ……うーん……」
三十路に近いが、俺はまだ“お兄さん”の領域にいると思いっきり伝えると、天使のようなロリロリな色白な女の子? が自分の頭を抱えて怯えていた。
「おいッ!? おっさんッ! 脅かすなよ!!」
「あ……うん、すんません……はい」
「はいじゃねえんだよッ!! はいじゃ!!」
今度は近くにロリの癖に胸が大きくて、褐色肌な小悪魔のような女の子から叱られた。
キッ――と、睨み付けるように俺を見据え、色白な天使ちゃんを護るように抱き着いて……
「はぁ、とりあえずここは? どこなの?」
「はぁ? ここって? なに言ってるのよ」
「……ふぅ、煙草が吸いたい」
小悪魔ちゃんは思いっきり驚いた顔をしていたので、俺は自分で状況判断を下すことにした。
「うーむ……どこの“異世界”だよここはおい」
俺は諦め、自分で辺りを見渡す事にした。
今の状況を判断するに、辺りは女の子の部屋っぽい場所で、キャワワなぬいぐるみやら、オモチャやらがごちゃごちゃしていて、ピンク色の寝具やらピンク色のカーテンで目が痛くなりそうな場所だった。
「はぁ……なんで“おっさん”なんだよ~もう!」
状況がいまだ飲み込めず、ピンク色のベッドに座り頭を抱えていると、小悪魔ちゃんが唐突に悪口を言ってきた。
「っせえッ!? 俺だってなりたくな――」
「はーいッ!! そこまでだッ! 二人とも!」
二人「……」
辺りは静まり返った。 キンキンよく響くエンジェルヴォイスの一撃で俺達は黙らされていた。
奇妙なシチュエーション、おっさん×美少女二人。 これはもう……あれがあれで、あーなって、あーな――と、駄目な展開を思い浮かべてしまう。 しかし、そんな事は起きないだろう。
ここはリアルで、現実世界の出来事なのだ。
「で……つまりどゆことです?」
真っ先に痺れを切らし、真っ先に沈黙を破ったのは紛れもなく自分だった。 長くなりそうな展開にイライラする前にスマートに決めようぜと。
「“お前”だろ? 願って願って祈ってたバカは」
「ほへっ……? ちょっとまて、“なんの事”?」
全く思い当たる節は見当たらなかった。 おっさんと、美少女二人の接点も、女の子の部屋にナゼいるのかも全く検討が付かなかった。 ポカーンとしながら長考していると……
「ぐぬぬぬぅっッ!! あ″ぁッ!!」
「――んなっッ!?」
いきなりの事だった、銀色の長い長い髪の毛を振り乱し、小悪魔ちゃんは発狂していた。
「――ちょッ!? “リフ”ちゃん?!」
「……“リフ”ちゃん?」
発狂して今にも俺を殺しに来そうな雰囲気を漂わせる小悪魔ちゃんこと、リフちゃん? を驚いた顔をしながら、なだめようとする天使ちゃん。
そんな馬鹿げた光景を見ながら俺は思う事が一つだけ出来ていた。 まさか“次”は“あれ”じゃないだろうなと。
「うるさいうるさいうるさいッ! “ジン”!」
「……うわ、“出た”……そう言うことか、ふぅ……」
発狂して爆発しそうなリフちゃんの口から出てきた言葉から、俺は全てを理解する事が出来た。
「“クソ展開”には“クソ展開”かよ……」
(まだ終わっていなかったのかよ……)
自分の周りに離れずくっついて来るクソ展開の数々。 そして“これからも”続く予感――
“死んで”“拾われた”先が恐らく――この二人。
「そうさッ!! あひゃはははははッ!!」
「ちょっと、落ち着いて! リフちゃんッ!」
必死に必死にジンちゃんはリフちゃんをなだめる。 しかし、そんなのお構いなしにリフちゃんは……
「あーあ、なんでおっさんなんだよマジで!」
「なんか若くて超イケメンとかいないの?」
「あーあ、マジだるいって、ねえ? ジン?」
「フツメンだし、やぼったいし、おっさんだし」
「もう少ししたら加齢臭とかも来そうだし~」
「あーマジだるいよ~! チェンジだよ!!」
――等と。
「え~? “ジンちゃん”は別にアリかな?」
自分で自分の事をちゃん付けする子が居まして。
「はぁ……親も上司も“神”も選べないのか俺は」
どんどんカオスになっていくこの現状に俺は現実逃避をしたくなっていた。
「なんか……もっと? 厳格で神聖で……うん?」
あまりのギャップに俺は自問自答、頭がパニックで、正直もうどうでもよくなってくる。
「バーカッ! ねえよッ! おっさんッ!!」
「おう、oh.おぅ……吠えるね君ぃ……」
まさかここに来て本気で“神様”にバカにされるなんて思ってもみなかった。 でもこれで分かった。 神なんてものは“そんなもん”なのだと。
「ぜぇ、ゼェ、はぁ、ハァ、んっ……ふっ、ん」
「……」
――妙に艶かしい吐息を聴いて、俺は黙った。
こんな事になれば怒るに怒れなくなるのが男。
悲しい性 というものだろうこれが。
クソガキとクソビ◯チな神様に翻弄されていくのだろう、きっとこの先ずっーと、永遠に。
「うん、なんかゴメン……マジでごめん」
とりあえず謝る事にした。 大人ってのは、誰が悪いわけでもないのに、自ら折れて謝るものだ。
それが手っ取り早く物事を解決する秘訣だ。
泣き寝入りではない、後先を考えた立派な作戦であり、戦略なのだから。
「……はぁ、まあいいわ。 で? “後は”?」
「は……?」
突飛な切り返し方をされ俺は固まっていた。
あまりにも突飛で唐突すぎるこの切り返し。
誰だって一度は止まってしまうことだろう。
「うーん……? 間違ってたらすまんだよ?」
とりあえず、思い当たる節を伝える事にした。
頭で考えるのではなく、こんなものは直感が全てだと知っているからだ。
「うん、言ってみ? “おっさん”」
かなりキツイ言い方をされて一瞬怯んでしまった。 しかし、ここでブルって言わないのはご法度だ。 俺は勇気を振り絞り伝える事に――
「まず一つ。 おっさんで悪かったな」
「ふーんそれで? いいよ怒らないから」
「そうですか……」
(さっきまで発狂してた癖にとは言えん……)
そして、言えるのは今しか無いだろう。 この場を逃せばきっと俺はこの先言えなくなる事は分かっていた。 クソ生意気なクソガキにこんな事を言うのは癪だが仕方がない。 言わなければ一生この場からはなにも生まれないだろう。
「“神様”俺を“拾ってくれてありがとう”」
照れながら? も、真面目に感謝の言葉を告げていた。 大人になってから誰かに本気で感謝をしたのはあまりなかったからだ。 自分の為、他のために願うことはあっても、感謝をする場面はあまりなかった。 願ってばかりの人生だった。
「……おう? そうだぞ、感謝しろよおっさん」
「……ぐっッ! ふっ、ふぅ……ありがとうっす」
(今すぐにぶちのめしたい、でも出来ないッ!)
「あともう一つは? あるでしょ? おっさん」
「……」
(おっさんおっさんって……クソッ!!)
感謝しても、やはりムカつくものはムカつく。
でも、必死に堪えて抑えて俺は最終フェーズへ向かう。 これが最後の一撃になるだろう。
「わかってる、“俺”は“お前たちのモノ”だ」
「よろしいッ! まぁ、おっさんだけどいいや」
「……」
恥ずかしくて恥ずかしくて消え失せたい言葉を言い放ち、片方の神様は満足? してくれた。
「あー、ジンちゃんは大丈夫だよ? ふふっ!」
「そうですか……そりゃよかった」
「なんかね? おじさんは好きなのワタシ!」
「……」
異世界? にたどり着き、俺は不安だらけだった。 うるさい褐色肌の小悪魔と色白なビ◯チな天使姿の神様二人? また俺はここでも翻弄されていくのだろうと思うと、頭が重く感じてもう。
「さて……“ヤル”んだろ? “神”を」
少しの沈黙の後、リフはそんな事を。
「ふふっ、そうだよ、“ヤる”んだよこれから」
そしてジンも――
「あぁ……そうだよ、だから力を貸せよ神様」
「よかろう、貸してやるとも。 “全て”な?」
「だから――“全ての神”を“KXXL”してね?」
続けざまに伝えられた言葉の意味と、重さ。 身体が震えてくる。 脳が揺れていく、視界がグラグラして回る。 全身という全身から血の気が引いてくる。 事の重大さを今更になって重い知らされていた。
「……わ、分かった、任せろ! ヤるぞッ!!」
動揺しながら意気込む俺を背に、二人の神はクスクス嗤う。 まるで新しいオモチャが手に入った時のような面白おかしくも、悪い悪い感情も流れて伝わってくる。 ああ、これから始まるのだろうなと。 悪夢の日々がまた、地獄は終らず、全てを壊してKXXLするまで終わらないのだと。
神×2「始めよう、ワタシ達と一緒に」
「あぁ……」
そして――