戦闘シーンで“魅せる”んじゃない。
【ジョウの部屋】
なんだよなんだよ――どいつもコイツも……
「“弱すぎる”……ダッハッハッハッ!!」
俺様は無様に地に伏せるオッサンを見て嗤う。
血だまりに“地に黙る”無様なオッサンの姿。
「あんだけキメて来た筈なのに期待外れだな」
「うっふふ……“続き”しましょっか?」
側で身を守っていた女神が俺様に近寄る。
無様なオッサンの目の前で“ヤって”やろう。
「ぐへへへへッ!! そうだなそうだな!!」
俺様はすぐにいい気分になっていた。
――ザザッッ!!
「な……なんだッ?!」
そんな気分のよくなった瞬間の事だった。
――不快な奇妙な音が聴こえてくる。
「おいおい……こんだなんだぁ? ハァ……クソ」
今日はトコトンツイていない。 今晩、とびっきりの女神が来る予定だったのに、代わりに来たのはオッサンただ一人。 そして、また邪魔モノの気配がする。 トコトンツイていない日だった。
――グググゥ……グニャアァ~ッ!!
「――ッ?!」
そしてすぐに俺様は分かった。 “仇なす”ナニモノかの正体の気配に。 空間が歪み、亀裂が走っていく。 黒い黒い、そこでくたばってる、オッサンが着ている高そうなマントに似た禍禍しさ。
そして――
――グググゥッ!! パリィーーンッ!!
空間が歪み……最後にはパラパラと“一部分”だけ崩れ、弾き飛ぶ。 ヒュンッッ! ヒュンッッ!
と、透明な刃が俺様に向かって来た。
「――ちぃいッ!? “ナニモン”ダァ? てめぇ」
カチンッ!! カチンッ!! と、透明な刃を弾き飛ばし、壊された空間に“佇む存在”に目を向ける。 肌がビリビリと焼けるように痛く感じる。 空気が一気に重くなり、そして凍りつく。
「ウッフフッ……あら、“お邪魔”したみたい?」
「な……なんだよ“ババァ”……その通りだよ!」
二つの影が次第に目に見えてくる。 一つの影は真っ赤なドレスを羽織るババア。
「貴様……“女王様”に向かってなにを言うか!」
「んぁ? なんだよ“クソジジィ”ッ!?」
もう一方はジジイな執事。 王族気取りかよと。
「……ババア? 貴方……“死にたい”の?」
「クケケケケ……“ヤれる”もんならな?」
ババアは挑発的な事をいう。 確かに強そうな気配は漂う。 しかし、俺様は戦いのカミィッ!!
――倒されないだけの自信があった。
「ウフッ……ウフフッ?! あっはっはっは!」
「ですって……“ワン”」
「……ッ?!」
「あっはっはっは! そうですね、女王様」
「わ……“ワン”?!」
確かに女王様とかいうババアはそういった。
“聞き覚え”があるフレーズ。 それは遠い遠い昔……“一組の魔族”がいた。 “名はワン”――
「おめぇ……まさか、もう“一方の片割れ”か?」
そう――片方がワン。 もう片方もワン。
合わせて……“ワンワン”。
「はははッ!! そうですとも……“生き残り”さ」
「通りで……その“狂犬”ぶりだ――」
執事の姿をした初老のオッサンのような風体。
――なのに、どこか強そうな雰囲気が漂う。
「さてと……さっさと“殺し”ましょう?」
パンッ――ッ!!
ババアが手を叩いていた。 この空間全てに響き渡るいい音だった。
「“ワン”……? この腐った神を“喰い殺せ”」
女王様とかいうババアがワンに命令している。
ニヤニヤした表情で、指を噛みながら俺様を見つめ、ギラギラした瞳から黒い衝動が見える。
「あ″ぁ″あ″ッ!? なんなんだよ今日はッ!」
踏んだり蹴ったりの一日だった。 本日最後のお相手は、オッサンでもなく女神でもない……
“正真正銘”――“地獄からの来訪者”。
「ヤってやる……“殺って”やる……ヤッてやる!」
頭に血がのぼっていて、一瞬だけ我を忘れた。
だが、俺様はすぐに冷静さを取り戻す。
――ここで“殺”らねば喰い殺される。
今日を越える為には、この一戦――取らねばならない。 神といえど、くたばるにはくたばる。
それは、“人間”とて、“神”とて変わらない。
「こいよ……“ワンころ”。 “殺す”んだろう?」
俺様は女神達を後ろへ下げさせ、ジジイに挑発していた。 ビリビリ伝わるジジイの覚悟と気迫。
今日――“どちらかが死ぬ”。 無様に崩れたオッサンのように血ヘドを吐いて崩れるか、それとも、それよりも恐ろしい事になるか……
まったく予想がつかなかった。
何故ならば――これは“神”と“魔族”との戦い。
「それじゃ――“いこう”か」
ジジイが白い手袋を握り締め、ファイティングポーズをとる。 左手は握り拳を。 右手は手を真っ直ぐに伸ばし、まるで弓を射る時のような姿。
「こいよ……“ジジィ”ッ!!」
――ブワッッッ!!
俺様の声に反応したジジイは凄まじい速度で俺様に向かってくる。 風を切り裂く程の風圧。 めがけ冴えるくらいの狂気じみた殺意の波――
――完全に俺様を殺しにきていた。
「だが……おせえッ!! くひゃひゃひゃッ!!」
(スローモーションに見える、遅すぎる……ッ!)
“普通”ならその“表現”で正しい。 だが俺様は戦いの神、ジョウ様だ。 相手の攻撃なんざ止まって見えてしまうほど、センスも才能も違う。
――たかだか魔族ワンセット如きに負けない。
「フッ……」
「……ん″ッ?!」
ジジイが一瞬、鼻で笑っていた。 “厭な嗤い”。
それだけが少しだけ心に疑問を残していく。
「ジジィ……おめぇも送ってやるよぉッ!!」
「“片方”の“ワン”の元によぉッ!!」
冥土でも冥界でもどこでもいい、ジジイ、テメエは必ず俺様が殺してやる。 そう決めた俺様は、最高のキメ台詞を吐いてやった。
――ズパッッ!!
「え″――」
――ジュブッ……ずぶぅばぁあぁんッ!
「がッ――な″……な″ん″――で?」
“一瞬”だった。 俺様の身体に“穴”が開く。
「ァ″……ァ″あ″――ぐッ!? げぼっ……ッ?!」
ピチャピチャと……漏れ出す赤い鮮血――
胸辺りに突き刺さるジジイの細い腕――
口から溢れ出る――厭な味の血ヘド――
「“ヘルズ”――“キッチン”」
そして、ジジイの謎の言葉が聴こえ……
「カチッ……」
――ぐしゃあぁッ!!
俺様の背後から物凄く厭な音が聴こえた。
「終わり……“貴方”の“命”はこ・こ・でね?」
「ァ″――ッ?!」
「“バン”ッ!!」
ババアの声で……“銃声”が“聴こえた”――
――ばぢゅんっッ!!
額に感じる熱い熱い“ナニ”か。
そのまま――俺様は――
ガタッ――バサッ……ッ!!
【女王サイド】
「フフッ……まず“一匹殺した”わ」
「そうですね……女王様。 あぁ……“汚い”……」
「フフッ……さっさと捨てなさい“ソレ”」
ワンの右手に握られる“神の臓”。 ソレを見てワタシはワンに捨てるよう命令した。
「はい……」
ズルッ――
――ビヂャンッ!!
“元”……“神”の身体から引き抜かれるワンの右腕。 そして、厭そうな顔して投げ捨てるワン。
見ていて、命令していて気持ちのいいものではなかった。 でも……これが“戦争”。
――“ワタシ達”はただ、“ヤられたモノ”をヤり返すだけの“存在”なのだ。 忘れられない記憶を塗り替える為に、こうして重い腰をあげた。
「さて……“坊や”はどうしましょうか?」
「ふむ……まだ“生きている”が――しかし……」
汚れた手でワンは坊やを観察していた。
壊された壁に崩れ去る一人の“元人間”――
久し振りに人間が神を殺しにやって来たと聴いたものだから、こうして見に来てみれば……
「恐らく……“一番最弱で駄目な人間”ねこれは」
「確かに……普通の人間ならもう少しは……」
ワンが哀れむ顔で元人間を見ている。
「ふむ……」
神に歯向かった過去の人間。 噂に聴くところでは、ある程度善戦して、色々な知恵を使い、神を楽しませたとか。 でも……結局敵わず無惨な死を迎えておしまい。 でも、この異界の中でもなかなか面白い話だとして一時期盛り上がった。
「女王様……このままでは“死んで”しまいます」
「ふむ……そうねぇ……どうしようか?」
「なら……“賭け”をさせましょう」
「賭けって? フフッ……面白そうじゃない」
ワタシはワンの提案に興味がわいた。
「この元人間が言葉をはっすれば“助ける”」
「言葉が出て来なければこの場で……“殺す”」
「ど……どうでしょうか? 女王様」
「フフッ……面白い。 乗ったわ、その賭け」
元人間に、魔物である我々がチャンスを与える。
――我々、“悪魔”と呼ばれるモノはそこまで薄情ではない。 少しばかりの希望は与えるモノだ。
「さて……おい“元人間”、そのままじゃ死ぬぞ」
「……」
返事がない……本当に虫の息だった。
正直……一匹の人間が死んだところで、我々になんの影響もない。 無数に存在する一つが消えるだけ。 しかし……こうして出逢ってしまえば話は別になる。 これも何かの縁。 胸糞悪い展開だけは見たくは無かった。
「おい元人間、“神を殺す”んだろう?」
「オマエは――“なんの為”に“死に”……」
「なんの“為”に今、ここで“生きている”」
ワタシは続けて言ってやった。 これが最後のチャンス。 デッドオアアライブ。 生きるか死ぬかの最終審判。 これを逃せば全て終わる。
「……ぁ″」
そして――
「お……女王様ッ?! こ……“声”がッ!?」
「――まだだッ!!」
ワンの喜ぶような声を殺すほど、ワタシは拒絶する。 これは声ではない。 ただの“息”だ。
――ちゃんとした“意思”を聴くまでは。
“許されない”――
それが“賭け”と言うものだから。
「……こ――“殺す”――し……“死ねない”」
「こ……これでッ?!」
「――待てッ!!」
ワンの喜びをまた止める。
まだ足りない……“全然響かない”――
「す……“全て”……“殺す”ま……で――」
「……」
ワンは黙っていた。 元人間の声を聞き取って。
「お……俺は――し……“しねな――い”ッ――」
酷い顔をして、酷い汗をかき、力がない握りこぶしをつくる元人間の姿――
「もういい……充分だ」
「じょ……女王様ッ?!」
「ワン……“送って”やれ。 “地獄”へ」
「は……はいッ!! よし――飛ぶぞ! 人間!」
そのまま、元人間を抱え、空間を切り裂き、連れていくワンの姿――
――コトンッ!! カタタッ!!
「ん……?」
――その“途中”だった。 元人間の衣服から滑り落ちるモノ。 それを拾うワタシ。
「煙草か……フフッ――」
――ジュボッ……ジジジッ――
「ふぅ……これで“恩”は“チャラ”だ」
落ちた煙草を拾い、ワタシは紫煙をくゆらせる。
ほろ苦い薫りがカオスな室内に広がっていく。
「さて……まだ“終わり”じゃないよ?」
「わかってるだろう? “女神”ども――」
「ふぅ……ここで“死ぬ”か、“生きる”か……」
ワタシは無様に転がる元神を蹴り飛ばし、固まって怯えている女神どもにまたチャンスをくれてやる。
「フフッ……まあ、どちらも“地獄”だがね?」
ピンッ――
煙草を元神の身体へと飛ばす。
「フフッ……燃えろぉッ!! アハハハッ!!」
ボワッ――じゅびびびびぃいぃっッ!!
――ゴォオオォオオォオオオォオォッ!!
女神共「ひ……ひぃッ?!」
「ククッ……どうだい? “火柱”は」
「ウフフッ……!? 美しいモノだろう?」
女神共「う……う″ぅ″ッ?!」
「さあ“選べ”――“今すぐ”にッ!!」
ワタシは声を張り上げる。 さっさと終わらせる為に、ワタシは“演じ続ける”。 “最悪”を――
そして――




