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リアル(現実)は幻想(ファンタジー)を超える。

【牢獄・長い廊下】


「変な汗かいてきた……畜生が……チッ――」


長い長い廊下をひたすら歩き、優しい橙色のたいまつがゆらゆら揺らめく。 生暖かい空気がジワジワと体力を奪っていく様だった。


「ちょっくら失礼……」


……ボワッッ!! ジジジッ――


「ふぅ……落ち着け俺。 ゆっくりでいい」


廊下を照らすたいまつから焔を拝借し、煙草に魂を宿す俺。 ほろ苦くて甘い薫りが一気に広がり、俺の身体の周りでゆらゆら煙が踊る。


「っ……ふぅ~」


ファンタジー要素なんてないリアルを生きてきた。 好きでもねえやつに作法を教え、一緒に働き、ヘトヘトになりながら、お互いボロボロになりながら、ヒーヒーいいながら家に帰る毎日。

リアルってのは、本当にクソゲーで、怒るに怒れない制約がある。 うまく仕事を動かす為には我慢して、お互いの成長を見守るしかない。


――“禍根”を残してもなにも良い事は無かった。

そんなものを残すくらいなら、いっその事自分が折れて、根気よく付き合ってやる。 それがどれだけ自分に負担をかけていた事なのか。 本当は自由に表現して生きていきたい。 本当はもっと自分を高めて生きていきたい。


――それでも……俺はお人好しだった。


困ってる奴が俺に助けを求めるのならば、自分のやっている事を中断したって俺は向かう。 本当は行きたくなくても、足が勝手に向かっていく。


「ははっ……全くよ――それがもうファンタジー」


自分の意思とは関係無く進んでしまう展開。

家に帰って絶望した時なんて腐るほどある。

どうしてわからねえんだと。 わからねえ事がわからなくて、俺自身もわからなくなる――


「ふふっ……そして俺はこんな所にいるってか」


煙草を片手に、黒いズボンのポケットに手を突っ込み、だるそうに俺は徐々に見えてくるゴールに向かって歩いていく。 禍禍しいオーラを放つ赤黒い謎の模様入りの扉。 まるで地獄の門にも見えてくる。 現実の事を思いだし、なんだか恐怖や緊張なんてもんは薄れていった。


「馬鹿野郎……こちとら毎日が地獄だったんだ」


肩を揺らし、完全に不良おっさん化してしまった俺は、禍禍しい赤黒い扉を見据えながら、思う。


「最近……楽しかった事なんてひとつもねえ」


毎日毎日、人人人……人でごった返す電車に乗り、揺られ運ばれ、まるで全員参加の護送車。

職場という牢獄へ半場強制的に送られる――


「全員生きてんだか死んでんだか分からねえ」


そんな顔した半分死んだ顔した人人人――


「電車の広告を見りゃおめえ……」


葬儀の情報やら、墓のピックアップ――


「ったく……殺しにきてんのかって話だよ」


清清しい朝なんてもんはねえ、ほとんどの人がキツそうな顔して忙しそうに駆けていく光景――


「ふざけんなっての……“ループ世界”かよ」


そんなループする世界。 生きている人はいますか? そう訪ねたくなる程、忙しなく動く世界。


「“現実”が一番“ファンタジー”だろうがボケ」


したくもない仕事をして、払いたくもない金を払い、生きるために金を稼ぐ毎日。 余裕なんてひとつもなくて、余裕があるヤツはただひとつ。


――とんでもなく“神”という存在に好かれてる。


「この世は実力じゃねえよ、ただの運ゲー」


どうしてあんな奴が上にいるんだ。 そんな事を言う優秀なヤツは腐るほどいる。 能力があったって埋めてしまうこんな世界。 それもこれも。


「てめえらクソみてえな“神”のせいだ」


「かってにこんな文明を創りやがってボケ」


文明が発達すればするほど、文明は崩壊へと向かっていく。 便利になりすぎた影響は人を駄目にしていく。 どうすれば楽ができる、どうすればうまくいく? そんな事を頭で考えるようになる。 結果……自らの意思で行動出来なくなる。


「しめえだよ……こんな馬鹿げた世界」


「まずはてめえらを全て地獄にぶちこむ」


「元人間ナメんなよ? 想いだけは負けねえ」


……誰にも負けやしねえ。 翻弄され続けた、騙され続けた、夢を見せられた。 そして気が付いた。 どんどん駄目になっていくではないかと。


「さて……待たせたなぁ……“クソ神”」


そして、遂に禍禍しい赤黒い扉の前へ辿り着く。

グネグネしたような、卑猥にも見える触手なのかただのツルなのかはわからない。 でも、見ていて気分のいいものではなかった。


「ふぅ……正直戦い方も知らねえよ」


「ふぅ……なにも持ってねえよ」


「スゥ~ッ! はぁ……だけど、ここに立ってる」


「これだけでも上等だ。 お前とお前は……」


目と鼻の先――


扉を開けたらどんな世界が待つかは知らない。

でも、きっと予測できていた。 最低な世界と。


ヌヂャ……ヌルッ……ツルんッ!!


「気持ち悪いなこの扉は……ヌルヌルする……」


扉をあけようとすると、ヌメヌメして、ネチョネチョした謎の粘液のようなモノが手に絡みつく。


「スンスン……う”ッ――っ?! なんだこりゃ……」


手に絡み付いた謎の粘液を恐る恐る嗅いでみると、今まで嗅いだ事が無いような匂いがした。

頭がクラクラするような謎の感覚と、心拍数がドンドン高鳴る妙な感覚。 まるで興奮している時のような、悪い悪い気分になっていく。


「はぁ、ハァ、はぁ……なんだこれ?」


あまりの衝撃に、俺は扉の前にひざまづく。

情けなく、地に膝をつけ、俯き目を伏せる。


「やりやがったな……“畜生”――」


「目の前がグラグラ揺れて……目の前が暗い」


「これは……“媚薬”? それも……“超強力”?」


野郎にも効く媚薬があるのかどうかは知らない。

そもそも、そんなモノを買って試した事もない。 童貞力が強すぎて試す相手もいない……


「っ……心臓がうるせえっ……ッ!! たはっ――」


俺はもう立ち上がれなくなっていた。 現実的な事を考え、ファンタジーな展開の事は全く考えずに、勇ましく進んで…… 気がつけば情けなく膝をつき、呻いているだけのモノに成り下がって。


ギギギッ――


「ん″な――っ?!」


――そんな時だった。 開きそうもない禍禍しい赤黒い扉が軋むような音を鳴らすようになった。


「おいおい……こんな情けない登場シーンかよ」


ギギギぃ……ガガッ!! キィイィイィ――


物凄くヘヴィーな音が聴こえてくる。


「ぐっ――ッ?!」


(な……なんだこの厭な空気と“色”は――)


ガパッ―― ガンッッ!!


そして……


「ぐっ――ッ?!」


扉は“完全”に開いていた。


まばゆい光を想像した。 でも、現実は――


「よう……? “元人間”。 “逢いたかった”ぜぇ」


「――チッ……」


俺は舌打ちしていた。


「カッカッカァーッ?! なんだそのヘタレは」


完全に馬鹿にするような声が聴こえてくる。

悪意……いや、純粋なる愉快そうな声――


「うるせえ……“カラス”は山に帰ってろ……ッ!」


「なんだよ、つれねえなぁ~? “元人間”~」


「……」


「とびっきりの女神がくると思ったらこれだ」


「クケケケケッ!? 蓋を空けりゃてめえだ」


「どうしてくれんだよ……俺様の“エレクト”は」


「知らねえよ……勝手に鎮めてろや――」


「ククッ……そうだなぁ――それもいいなぁ……」


「あぁ、俺のあれはヴァージンだから駄目だぞ」


「ククッ……いらねえよんな野郎のなんて」


「そりゃよかった。 あぶねえ、あぶねえ……」


一瞬でB◯18禁になりそうな雰囲気になっていた。 そんなものはごめんだとお互い分かっていて良かったと思う気持ちと、ホッとした気持ち。


「で……? “俺様をヤり”に来たんだろう?」


「あぁ、そうだよ」


「そりゃ楽しみだなぁ……クケケケケッ!?」


「ヤッたらてめえのケツ穴にクロスをだなぁ」


「クケケケケッ!? “墓標”にするってか?」


「そうだ、喜べ。 てめえの“最期”がそれよ」


「そりゃいい……俺様もヴァージンなんでねぇ」


「いらねえよ、んなクソ情報は」


ガタッ――


そして俺は――


「――んっしょ、んじゃ……“ヤろう”か?」


「“ジョウ”ちゃんよぉ?」


俺はゆっくりと立ち上がる。 そして――


野郎の神に俺はまるで“お嬢ちゃん”という時のような言葉で言ってやった。 ひねくれものはなんだって、面白くおかしくさせるのだ。


「そうだなぁ……“元人間のオッサン”ッ!!」


――ブワッッ!! ブン、ぶん、ぶん、ブン……ッ!


暗い暗い部屋がジョウの怒号で一瞬で明るくなる。 橙色のたいまつが一斉に踊り出す。


「ぐぇ……マジかよ……」


そして見えてくるこの部屋の真実と――


「クククッ……ようこそ、“ジョウのお部屋”へ」


「……こう考えてみると“趣味悪い”なお前――」


「そうかぁ……? お前も一度は“考えた”ろう?」


「……そんなもんは“ゲームの中”だけでいい――」


俺の目の前に見える光景。 それは、ジョウとかいう神が普通にイケメンでイライラする事と、酒池肉林というに相応しい荒れた光景――


とびっきりの美女達がはだけた姿で地に伏せて、ジョウの周りに囲む美女達――


「嘘つけ……“素直”じゃねえなぁ~てめえは」


「っせえッ!! 俺だってハーレムしたいよ!」


その言葉に俺は超絶反応をしていた。


「クケケケケッ!? やっぱりそうじゃねえか」


「だが……それこそ、“幻想の中”でいい……」


そんなものは、ゲームでやるから美しく見える。

――そんなものをリアルでやればくすんで見える。 大体、そう相場は決まっているものだ。


誰かが飼ってる動物は愛らしい。 でも、実際動物を飼ってみるとそうでもない。 時に喧しく、朱鷺に激しく、時に人間らしい態度を取ってきたりする。 たまに凄くムカつく時が出てくる。


――そんな感じと同じだろう。


隣の芝はなんたらとよく言ったものだ。


「ふん……戯れ言を」


「知ったことか。 俺はそんなヤツなんでね」


世界の誰よりも、どこのどいつよりもひねくれて、歯止めがきかないのが俺なのだ。 何を言われたって、ノーダメージだった。


「そんじゃ……“ヤろうか”」


「あぁ……臨む所だボケ」


イケメンでモテモテ神vsただのオッサン――


――“最高”に“ファンタジー”してる“ファンタジー”が始まる。


すなわちそれは――“ファンタジーの頂点”――


「クケケケケ……すぐに“死ぬな”よ?」


狂った笑い声と、物凄く低い声。 まるで、期待はずれにはさせないでくれと言わんばかり。


「あぁ……“死なねえ”よ」


「ククッ……そうかそうか」


愉快そうに笑い、口元を歪める神――


「そうさ……“てめえら全員”KXXLしてやるから」


「クケッ――?! そりゃいい……やってみろよ」


ジョウの黒い目が(くれない)に染まっていく。


「ヤッてやるッ!! てめえから始めるッ!!」


超絶ガクブル展開に打ち勝つ方法。 それは開き直る事、自分で自分を高めること。


――だから俺は吼えた。 大きな声で宣言して。


「こいよ……“元人間”。 “神を見せて”やる」


「なら俺は――“元人間”を――“魅せて”ヤる」


――お互い睨み合う。 圧倒的敗北気配のまま、俺は誰よりも強気だった。


「元人間――“最期に言い残す事”は?」


そんな言葉に対して俺は。


「ねえな、“殺すまで遺さない”から」


「ククッ……殺すには“惜しい存在”だな」


「そりゃどうも……だけど、そろそろしめえよ」


「おっと――ククッ……そうだったな」


そして――

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