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おまんたせ致しました。 ダンジョンッ!!

【???】


「おぼぁあぁあぁあぁあちゃぁーーーんッ!」


ピュウィーーーーーンッ!!


――

――ドゴッッッ?!


「あ″がっ――ッ?! ぃぎっッ?!」


とんでもないスピードで俺はどこかへ転送されていた。 そして、雑な登場シーン……


どこのどこかわからない地に思いっきり叩き落とされ悶絶――


「がっ――だはっッ?! はぁ、ぐっ――ぁ″」


(く、くそ……息が出来ねえッ?!)


「いってて……やりやがったな……“魂の野郎”」


文句しか出なかった。 気がつけばあれだけ激しく激しく俺に絡みついていた魂の渦は消え失せ、俺をどこかへ送り届けたのち、消え失せていた。


「いや、俺死んでない? ねぇ?」


誰もいないがらんどうな謎の場所で俺一人、喚き散らしていた。 死んでるのに死んでないとは何事かと。 物凄く寂しい思いをしていた。


「くそ……やられたぜおい――どうすんだよこれ」


この物語、雑すぎてファンタジー超えて廃ファンタジーになっている。 場所もどこだかわからない。 仲間達はとっくに使命を果たして消滅――


「――あ″ぁ″ッ!! やりにくいなこの世界!」


(こんなことなら、おとなしく現世で……)


現世でおとなしく、何も派手なことをせずに生きていれば良かった…… そんな事を一瞬だけ考えてしまっていた。 リアルも異世界も何も変わらなかった。 その事に物凄く憤りを感じていた。


――“魔法”があったって、ドデカイ怪物がこの先わんさか出てきたとしても、慣れてしまえば、それがリアルになってしまう。 つまりは、現実となんらかわらないリアルにすり変わっていく。


……つまりファンタジーなんてものは無かった。

幻想の中で生きている主人公はきっと、何も考えない方々なのだろう。 これがファンタジー。


「バッキャロウ……これが“本物の幻想”だ!」


リアルも異世界も変わらない。 結局何も変わらないっていう、この悲しさこそファンタジー。


「どうすんだよこれ……つかどこだよこれ……」


発狂を無理矢理押さえて俺は辺りを見渡した。

すると、どうやら本当に“牢獄”の中にいるようだった。


「バッキャロウ……ダンジョン言うたけど……」


(まさかほんとに“牢獄”に転送されるとはな……)


「勘弁してくれ……まだレベル1のヒヨコなの」


あの凄まじい魂はもうない。 そして、このダンジョンには呼んで来るとも思わなかった。

人に備わった能力のひとつに、第六感というものがある。 あー駄目だなこれと思えば大体駄目だったりする。 いけるなと思えばなんだか知らない間になんとかなったりする。 そんな危機能力が、この場では呼べないなと告げていた。


「はぁ……とりあえず、進んでみるか……」


ひとつだけ言えることはこれだけ。 レンガだかなんかで造られた壁に、ポツンポツンと配置されるたいまつ、ボロボロで錆び錆びの牢屋――


「おいおい、“幽霊”でもでねえだろうな?」


幽霊より怖いのはおめぇだよと言える話だが、やっぱり幽霊とかになると怖くなっていた。


そんな時だった――


コツン……コツン……コツン……


「ひぃ、っッ?! ちょちょちょッ?!」


(まずいまずい、やばいやばい、バイヤー!)


迫り来る“何者”かの足音に完全にびびる俺。

歩き方からして、野郎ではなく女性のようにも感じられた。 しかし……異様な空気がそれを拒絶させていた。 まともな相手ではなさそうだと。


「どうすりゃいいんだ?! 畜生ッ!!」


(考えろ考えろ、一秒で考えろ? まじで!)


頭の中は大パニック、無謀にも敵陣の中に入ってしまった餌に過ぎない自分。 そして迫り来る何か。 そして、考えついた答えはこれだった。


「……よし、“やろう”」


(大丈夫……大丈夫、いける、いける……)


俺は――


かちゃん……コッ――


スゥ……ぺたっ――スススッ――


「ふぅ……後は演じるんだ……“出来る”」


奇跡なのかなんなのかは知らない。 漆黒のマントの裏に隠れていた? 魂ひとつが勝手に俺の手のひらの中に入り込み、牢屋の鍵を作ってくれた。 なんて作られた展開、なんて強運……


――今ばかりは、ファンタジーに感謝するしかなかった。 きっとリアルならとっくに死んでる。


「隅っこでおとなしく、この“骨”と静かに……」


俺は荒れた牢屋の中に入り、端っこにおとなしく座っていた。 オマケ白骨化したミイラのような皮つきのアンデッド一体。 これが元女性なのか元男性なのかは正直わからなかった。 ひとつだけ言えるのは、何年も前からここにあったのかなんなのか、不思議と変な臭いはしなかった。


――コツンッ……コツンッ…コツンッ――


徐々に着実に近付いて来る謎の足音。 身体はがくがくと震える。 漆黒のマントが情けなくバサバサと揺れ動く。 形から入っちゃった駄目な噛ませ勇者が一匹作られていた……


そして――


コツ――


足音は唐突に止まる。


「あら……珍しい。 “男”がここにいるなんて」


その足音の主はそんな事を言った。


「……」


俺は黙っていた。 美しいその声、トーンも控えめでよろしい。 しかし……“ヤンデレ”なのではないかと思えるほどの“ナニ”かを感じる不気味な声にも感じていた。 下手な事を喋れば殺されるのだろうと。 黙って俯いているのが賢明だと。


「ふっ……“あの人”、そんな“趣味”あったんだ」


「……」


俺は“我慢”していた。 “両刀”とか勘弁してくれよと。 いやいや、ねえよって言いたかった。

でも、今はその時ではない。 きっとここで判断を間違えば、俺は確実に“殺され”る――


「ねぇ……ほら“ご飯”よ~? 食べないの?」


「……」


天国まで来て、そんなリアルじみた光景がまた拝めるとは思ってもみなかった。 リフさんがトイレに駆け込み、なんておかしな光景だよと。

まさか――ここまできて、まだそんな効率の悪い物のお世話にならなきゃならねえのかよと。


「“入る”わね……?」


「――ひっッ!?」


「うふっ? どうしたの? “恐い”の?」


「あ″……いや……さっき“腰を打って”しまって」


「あらあら……大変ね? うふふっ、まってて」


「あ……いや……あの?」


本当は、リアルな本物の話をして、話をそらして食欲ねえんだよで、さっさと散って貰う筈だった。 下手に作り話を作るよりは、実際に起きた事を転用する方がずっとリアルに見えるから。


「ほら……んっ――」


「あ――」


顔を伏せる俺は危険な女性の冷たい両手に顔を掴まれ、上にあげさせられていた。


「んぅ~ん? ふふっ……顔色はそこまでね?」


「あ″――ッっ?! そ、そそそうすか?!」


顔色は正直あまり変わっていないのだろう。

でも、色々緊張していて、冷や汗をかいていた。 それよりも、“目の前”の“女性”が――


「うっふふっ……でも“汗が酷い”のね?」


「……う″ぁ」


「ん″っ――ちゅるっ、んっ、ふふっ、れろっ」


「――ん″ぁッ?! や――やめ……ッ!?」


「ちゅ……ん″っ――はぁ、んっ、ごちそうさま」


「あ″ぁ……」


「お次は……“腰”ね? 擦ってあげる」


――スリスリっ、くにゅくにゅ~


「おごっ……おふッ!?」


そのまま俺は謎の危険な女性に翻弄され続ける。


「ふぅ~っ。 んっ……“リスタート”」


――ぽわぁ~ん!


ズビビビィイィッ!!


――スッ。


「え″……?!」


「ふふっ……もう少し休んでいきなさい?」


「これからが……“長い”のだからね?」


「……」


「それじゃ……“食事置いとく”わね?」


「……」


「じゃあね……? うふふっ」


「……」


俺は途中から無言だった。 言いたい事は山ほどあるし、海より広くなる自信があった。 でも端的に考えるとこうなった。 まず、危険な香りのする謎の人物は、とんでもなく美しく、とんでもなくいやらしい雰囲気を漂わせるお姉様だった。


肩まで掛かる黒髪で、毛先が内側にクルッと巻かれている上品な髪型。 キリッとした瞳は少し、リフさんに似ている気がしていた。 目元には泣きボクロがひとつあって、妙な妖艶さを纏っていた。


そんなことよりも……俺の顔にふきだした大量の汗をあろうことか、ペロペロ舐めて啜って、わざとらしくごっくんしていた。 そのまま、腰をスリスリして、くにゅくにゅして……耳元では謎の魔法を使って俺の身体を治癒してくれた。


「ふ……ふぅ――これが“童貞”を殺す“行為”か」


(生きた心地はしなかった。 そして今も……)


とんでもなく美しいお姉様にされた行為で、俺は治療してぴんぴんした腰がなぜか抜けてしまっていた。 力が入らず、崩れるように骨にダイブする。


――ガヂャンッッ!!


――カラカランッッ!!


「やっべッ!? “ぶっ壊して”しまった……」


ミイラのようなスケルトンのような白骨は、俺の崩れた体によって、バラバラになってしまった。

破壊神を謳い、そして速攻破壊してしまう。


「展開がもう……ゴッドスピードだよ……」


「許せよ……骨。 “骨は拾って”やった」


普通は骨を拾うだが、既にくたばってる者の骨だ。 だから俺は小さな骨を一つだけ拾うと、ズボンのポケットにしまっていた。


「さてと……どうしましょうかね?」


――ガチャガチャッ!!


――カツンッ!! ガッガッッ!!


「おいおい、マジで? “完全に開かねえ”」


(ふふっ……“逃がす”つもりはねえってか?)


「やりやがったな……あのアマ……」


いつの間にか牢屋の鍵は使えなくなっていた。

“魔法”かなんかを使用したのだろう。

何度カチャカチャしても一向に開きそうにない。


「リロー……いや、さっきの煙草でいいや」


一旦落ち着きたくて煙草を探すも、魔法は現在試用不可能。 ならばとジンちゃんから貰った煙草に火を灯した。


「ふぅ……どうすっかね……マジで」


「ははっ……本当に少し横になっかな……」


「眠くなってきたぜ……ふぅ……」


――グリグリッ!


「ふぁ……あ″ぁ……ねみ、ねよ」


俺は煙草を揉み消し、骨と共に寝る事にした。


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