男は背中で語る……らしい!
【外の世界】
ジンちゃんからそんな事を聞き、俺は少し考え、思う事があった。 魔法の原理が死んだ者達の魂。 それを使って、協力してもらい力になる。
その魂は――役目を果たすと消滅してしまう。
そんなそんな悲しい悲しい結末だった。
だから俺は誓うのだった。 ただひとつの約束。
――“全ての神を滅ぼしKXXL”して終わらせる。
「さて……そろそろ“遊びは終いだ”……」
「ん″……ッ?!」
俺が凄んだ声でそう言うと、リフちゃんは凄く驚いた声をあげた。 俺はジンちゃんに背を向け、“ある事”をしていた。
「――“リロード” “スモーク”」
「――ん″なっッ?!」
更に驚く声をあげるジンちゃん。 俺は瞳を閉じてそれらしい詠唱? 呪文? 魂消化? なんだかわからぬ事を呟いていた。
すると……
――ジュビビピィィーーーンッ!!
――ぼふッッ!!
「っ――ふぅ……“これ”だ、“これ”だ」
「き……君……?! どうして“魔法”を……?!」
「ふぅ……そんなの決まってる。 “幻想”だから」
ジンちゃんに背を向け、俺は“魔法”で出した煙草をくわえ、紫煙を揺らせていた。
「いやいや……“出し方とか教えて”ないよ?!」
それはそうだ、俺は教わってないし、まだ力を授かったかもわからない。 でもすぐに理解した。
――この“法則の使い道”を。
「クククッ……“そんなもの”は“いらねえ”のさ」
「ど……どうして? わからないよ……君は一体」
「いったろ? 俺は神を“KXXLするモノ”だと」
「あんた達が俺を拾ったように、魂もまた……」
そうだ、“神に怒りを覚える魂”だっている。
無念の思い、想いを残しくたばった同士達。
行き場の無いこの天国のような地獄を彷徨う魂達。 それらにお願いをしたんだ。 ただ一言。
「……」
急に無口になったジンちゃん。 それに追い討ちをかけるよう、俺は言った。
「これが“真実”さ」
やっと来たんだ、“一世一代の大勝負”が。 ノイズ混じりのきたねえ声のイカれた神は匂わしていた。 お前みたいなヤツはいっぱい見てきたと。
でも、すぐに……と。
――だが俺は知っている。 “俺以上”に神を憎んだ“人間”なんていなかったと。 だから、暗い暗い外の世界に飛び交う緑色の魂にお願いをしたんだ。
――“俺を助けてくれ”と。
無駄にはしない、“必ず神をヤり”に行くと。
「……何が“真実”? 自分で完結しないでよ?」
「クク……それでいい。 それでいいんだよ」
女の子には秘密があっても、野郎にもシークレットがある。 多くは語る必要はない――
ただ、俺ができる最高の格好のいい演出を……
ただ、その後ろで見ていてくれ――
「おい、“見て”んだろ? “クソ神”」
「――ちょッッ!? なに“宣戦布告”してるの!」
最高潮に驚いた張った声のジンちゃん。 そんなのをお構い無しに俺は、貰った漆黒のマントをバタつかせ、右手を横に伸ばして言った。
――バサッッ!!
――びしぃいッッ!!
漆黒のマントから硬く締まる良い音が鳴る。
「“キテやった”ぜ? “下界の地獄”からよ」
「てめえらをぶち◯し……“ALL KXXL” しによ」
「ふぅ……どうだい? “天国”を“汚され”て」
俺はわざとらしく、煙草の煙を闇の空へ飛ばす。
――これが狼煙扱いだった。
以前――お世話になった人がくたばった時、その人の吸っていた銘柄を買い、こうして大空へ煙草の煙を捧げた事がある。 これが焼香代りだと。
線香臭い煙より、こっちの方がいいだろうと。
今回は違う。 神に歯向かう“一人の元人間”――
“戦争”をしに来たんだ。 “全てを壊す”闘いに。
「てめえら……よく見とけ、“これから俺”は……」
「ごくっ……」
後ろからジンちゃんの息をのむ音が聴こえた。
恥ずかしくて、恐ろしい台詞……これから言うと思うと凄く凄く億劫になる。 でも俺は止まれなかった。 投げ飛ばした歯車はもうなにもハマるものが無く、延々と転がり続けるのだから。
「今日から俺はぁッ!! “破壊神”になるッ!」
「――あがッッっ?!」
そして、アゴが外れそうなような愕然とした声が漏れ出すジンちゃん……
「よーく“魅とけ”これからが“本番”だ」
「“クソな世界を創った”てめえら……」
「“全員”、“地獄に送る前に消して”ヤるッ!」
「あばばばばば……ッ?! き……君ッ?!」
「“もう遅い”……“もう遅い”んだよッ!!」
俺はジンちゃんの声を遮るように怒号を鳴らした。 ここまで来たらもう止まれねえんだと。
「何もかも、遅い。 こっからはもう……」
「“消す”か……“消される”かの、“灼熱ゲー”だ」
“燃えゲー”なんて霞む程の灼熱展開――
きっと……そんな展開になって行くことだろう。
「あ……“遊び”じゃないんだよ? なに言――」
「“遊び”? 遊びも“度”が過ぎれば“本気”だ」
ジンちゃんの言葉にカチンときた俺はまた言葉を途中で遮る。 こうなった俺は止まらない……
分かっている、分かっている事だって。 きっとこの後、本気で後悔して、死にたくなるんだと。
「屁理屈ばっかり……この“クズ”ッ!!」
「フッ……産まれてから今まで何度も聞いたぜ」
「今更、真面目ぶる事はねえさ……これが真実」
人に何を言われようと、神になんと言われようと、今あるこの姿が本物で、真実の俺なのだ。
この世に純粋な正義があるのなら、キッと俺は“純粋なる悪”なのだろう。 陰と陽があるように、太陽があり月がある。 対になる存在だ――
「……」
急に無言になるジンちゃん。 きっとこの馬鹿げた宣戦布告を聞いて、心底俺に愛想を尽かしたのだろう。 自分から白羽の矢をたてに行くようなもので、全ての神を敵にまわしたこの瞬間――
ジンという神も……そしてリフさんという神――
この二神を完全に巻き込んだ形になる。
もう少し、作戦を練って滅ぼしに行く筈だったのだろう。 もう少し賢く滅ぼす算段だったのだろう。 でも……俺がその計画を全てぶち壊した。
「お前らもツイてねえな……ククッ……ははッ!」
俺はオカシク嗤っていた。 ここ一番の狂気で。
「つ……“ツイ”てない?」
遂に口を開いたジンちゃん――
俺はそのまま――
「ククッ……だって“お前”……あははははッ!」
「何が……なにがおかしいのよッ!!」
少しヒステリックになったジンちゃん。 しかし俺はもう止まれなかった。 ここで最後の一撃をジンちゃんに繰り出す事にした。
「恐らく……“俺”は、“一番”ツイてねえ野郎だ」
「良いなと思えばすぐに悪い展開になる」
「こんだぁ、よくなると思えば悪くなる一方」
「待てど待てど、一向にツキは回らねぇ……」
「気がついたら、ツイてなさすぎてこんな始末」
「あはははッ!! おかしいだろ…… なぁッ!」
「……“変”だよそんなの――」
「だから、“ゴメン”。 ただ“魅て”いてくれ」
「“変な破壊神”の“結末”を……」
謝り、そして……“別れ”の合図のようなものを。
辺りの緑色の光は元気よく、気持ちよくゆらゆらと宙で踊る。 気がつけば俺の周りには無数の緑色の光が集まる。 その魂を身に纏い、俺の心は今よりずっとずっと、熱く、そして冷静だった。
しばらくの間、その魂達を眺め、愛でていると、急にジンちゃんが口を開いた。
「……“勝算”はあるの?」
たった一言それだけ。
「ふふっ……フハハハッ! “あるわけない”」
「“えぇ”~ッ? マヂぃ~ッ?!」
後ろから、ギャルかよって声が聴こえる……
あまりにも適当な返しに脳が溶けたのだろう。
「ふぅ……それが“俺の中でのファンタジー”だ」
「なんだよそれ……意味わからないよ……」
嘆くような声が聴こえる。
「意味なんて必要ねえんだ、そんなのいらない」
作られた、造られた、創られた物語。 それもいいだろう。 一向に構わない。 最高の展開、最高の興奮、最高のクライマックス――
どれをとっても最高で文句も出ないだろう。
だけど――物足りない。
「なぁ、お前さんも“神の類い”だろう?」
「は……はぁ、まあね? それがなに?」
「“創られたストーリー”に“何を感じる”?」
「うーん……“安心感”と、“安定感”かなぁ?」
「ふぅ……そうだろうな。 俺もそれがいい」
「だったら、なんなのよ……もうッ!」
「なぁ……“思わない”か? “飽きた”と」
そう――これが答えで真実。
「言いたい事は大体わかるし、わかった……」
「ククッ……俺に絡んだ時点でてめえも“終り”」
「あぁ……そうだろうね? “破壊神様”?」
嫌味たっぷりの言葉が後ろで聴こえてくる。
少しだけ胸が痛くなった。
「幻想……ファンタジー。 そんなものが“幻想”」
「なに“哲学”みたいな事いってんのよッ!!」
「わかっちゃいねえな、神の癖によ……」
「な、なに~ッ?! ば、バカにしないでよ!」
急に侮辱したら、物凄く反応された……
「幻想ってのは、“読めない”から幻想なんだ」
「……」
「展開が読めたらファンタジーじゃないんだよ」
「“表想”じゃねえか、んなもんお前……」
面に見えてりゃファンタジーですらない。 例えど偉い魔法が出てこようが、とんでもないハイファンタジーだとしてもだ。 それはもう幻想ではない。 “表に出て来た想像”でしかないのだ。
「ハイハイ……“戻ろうか”そろそろ……」
「おう、俺もそろそろ意味わからんなってる」
「うん……闇にやられちゃってるから今、君」
「おう……そんなわけだ。 “神”待っとけッ!」
――そんなわけで、神への宣戦布告が終わった。
「全く……どうしようもないおっさん拾ったな」
「ふふっ……“悪くない”だろう?」
これから神をKXXLしまくる野郎がイカれてない野郎だったら、こんなクソみたいな展開、始まったりしない。 だからこれでいいのだと自分で言い聞かせていた。
「分かってるわよ……もう“一蓮托生”だものね」
「あぁそうだ。 俺を“KXXL”した神の義務だ」
俺は一度、後ろにいる“神”に殺されここにいる。 そして、俺とこの神はきっとずっと一緒。
俺が死ねばきっと後ろにいる神も、家で寝ている神もシヌだろう。 だから俺は死ねない……
「頼むわよ……本当。 まだ死にたくないの」
「あぁ、分かってる。 死なせはしないさ」
「見てみろ……この“オーラ”を」
俺の周りで元気に漂う緑色の魂は、いつの間にか“燃える”ような灼熱の色をしていた。
そして――その中で青い、蒼い、焔が混ざり狂う。 紅と蒼――渦を巻き、俺に寄り添っていく。
「こ……これはッッっッ?!」
「そうさ……これが……負廉怒だ」
「ふ……フレンド?!」
「俺の“想い”に賛同した“魂の集結”だよ」
「名前はともかく……なんという力なの?!」
「ふぅ……よくわからねえけど、なんかなった」
「おい……煙草ふかしながら本音出てるよッ!」
「だってわからねえんだもん! 知らねえよ!」
本当は、なんで赤い魂も青い魂も集まってるのか理解できずに、適当に言ってみたのだ。 これが本当のファンタジー。 もちろん、“頭”が……
「ふぅ……やっぱ家に戻るのはやめだ――」
「は……?」
ジンちゃんはポカーンとした声をあげた。
「勢いのまま、“ジョウ”を“ヤり”にいくぞ」
「ちょ……ッ?! それは早すぎるよ?!」
「早い? なにいってんだおめえ……むしろ遅い」
「“戦”の“神”だよ……?! 戦力が……足りない」
「そんなもん知らねえよ、俺はヤるだけだ」
頭の中はただの死にたがりの戦闘狂状態だった。
でも、男にはやらなきゃならねえ時がある。
こんな夜、こんな展開、こんなクソみたいなストーリー。 だからこそ、はじめから“クライマックス”――
「お前さんはリフさんと“避難”してろ」
「はい……?」
「俺はこれから“一人”で“乗り込む”――」
「なにいって……」
「じゃあな――“一足先に逝ってくる”」
その言葉を残し――俺はスタスタ前へ進んでいった。
「ちょっと待ってよッ?!」
「待たない、少しの間……リフさんを頼む」
「な……なんなのよぉッ?! もう……」
俺は振り向かない。 きっと神の端くれ、てめえの命はてめえで護れる筈だ。 これっぽっちも不安は無かった。 いずれ、嫌でも護らなきゃならない場面はやってくる。 だけど今じゃないと、自分の中の第六感が告げていた。
「それじゃ……“よい夜”を」
ごにょごにょ………っぁ――
次第に小さくなるジンちゃんの声。
「ふぅ……はは……っ! 膝が嗤ってるよ……」
ジンちゃんから離れ、俺は一人暗闇の中。
恥ずかしさと緊張と、色んなものを背負って、結局一回も振り向く事は出来なかった。
「ははっ! 本当は家に戻って寝ようかと……」
でも、あんな宣戦布告、あんな発言したんだ。
もう、後には退けなかった。 だからこうして俺は一人……いや、沢山の魂と共にいる――
「さて……導いておくれ?」
「あの……“クソノイズ野郎の元”へ」
「ダンジョン――オンファイアッ!!」
“謎”の英語を繰り出す俺。 勿論意味なんて知らないし、知りたくもない。 英語は苦手でうまれてこの方、勉強した事がない。 全ては感じ。
全ては――フィーリングで生きていくスタイル。
「――うおッッっ?! ちょっ?! おまっ?!」
ボワッ――ッ!
じゅぴぃいいぃいぃいぃんッ!!
ブゥウゥンッ――
「――え″」
紅と蒼、その激しい魂が混ざり合い、紫色に似た強い輝きを出す火柱になった。 その火柱の中で俺は――
吸い込まれるように――飲み込まれていった。




