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そして本物のファンタジー。

【キャワワなお部屋】


――あれからどうなったかって?


「ふぅ~すぅ~すぅ……」


――隣で……可愛らしい吐息が聴こえる。

すぐ側では……


「ふぅ……やっと“寝た”か」


「あぁ……そうだな」


たった今、俺は神と神と何故か同じベッドで寝ていた。 なんちゃってハーレム状態になっているのは凄く嬉しかった。 でも……凄く怖かった。


「これでいい……“君”を壊される前に“摘んだ”」


「あぁ……」


隣でボソッと意味深な言葉が聴こえてきた。

きっと、悪い芽は早急に摘み取る的な意味合いの事を指しているのだろう。 ただ、壊されるとはなんなのかについては、今はわからない。

きっと、どっかのタイミングで明らかになることだろう。 今はただ、このカオスな状況から一刻も早く抜け出し、逃げ出したかった……


「“驚かせちゃった”かな? ふふっ……」


「あぁ……物凄く驚いたさ」


「でもいいの、これで……きっとね?」


「……」


意味深な呟きがまた飛び出した。 考えてもわからない事は一旦置いといて、俺は先程起きた事について少しだけ考えていた。


あれから……


悪事がバレた悪党のように降参してお手上げ状態になったリフさん。 おっかない顔で暫く項垂れるリフさんを見詰めたジンちゃんの姿――

少し経って、ジンちゃんが一緒に寝ようかと意味のわからん事を話して、コクン……と頭で返事をしたリフさん。 そのまま無言のまま、キャワワなジンちゃんのお部屋に向かって、俺をベッドのど真ん中に配置させ、遂に始まるガールズの醜い口論合戦……


俺というおっさんをめぐる酷い酷い言い争い。

とった、取らない、誘った、喰おうとした。

実にどうでもいい事の連続で俺は一瞬だけ悟りを開きそうになって、無心になりかけ、まるで騒々しい観光バスの中で一人、眠りこける時のような錯覚に陥っていた。 お前ら、なんなの? 俺の事が好きなの? って思うくらいの言い争い。

仲裁しないところがもうへたれでクズだった。


「ねぇ、リフちゃん寝たし、外で話そっか?」


「こ、今度は外かよ……」


「ふふっ、そう。 外に出よう? ふふっ……」


「そうだな、“外の世界”をもう少し知りたい」


あのクソムカつくノイズまじりのクソ神の事を思いだし、少しだけ軽い頭痛がした。 あんなイカれた野郎がわんさかいると思うと、意識がぶっとびそうになった。 それを必死に抑え、俺達は一軒家から飛び出すことに。


【外の世界】


「ふぅ……まっじいなこの煙草……なんだよこれ」


外に出て俺はまず一服を。 チェーンスモーカーなら普通の行動だ。 外に出りゃ、外の空気を吸いながら、毒煙を体内にとりあえずぶちこむ。

そして、その煙を大空に向けて飛ばしていく。


これが“ヤニカスの証明”――


「あぁ、リフちゃん“変な物”渡したんだ?」


「そうよ……参っちゃうわよもう……」


何故かおかまちゃん口調になってしまった俺。

特に意味は持たない。 たまにでる発作だ。


「あっちの煙草が欲しかったんだ俺は」


――もちろん、ジャポーネ産の煙草ではない。

男は黙って洋モクと言う鉄の掟がある。

天国だか地獄だかわからぬ異世界産? の煙草など元人間の口にはあわない。 紛い物としか言えないのだ。 煙が入ればいいと思っていた。

だけど違ったようだ。 まずいものはまずい。


「はいはい……“クリエーション”――」


ブゥンッ――


ちゅぴぃいぃいいぃいぃいぃーんッ!!


――ふぁさっ……


「――おあッ!? こ……これはッ!?」


一瞬、ダサい英語のようなものが聴こえたと思ったら、ジンちゃんの手のひらに緑色の神々しい光が集まり、そのまま謎の効果音が鳴り響き、俺の手の中に吸いたかった銘柄が突如として現れた。


「なんだよこれ……まるで“魔法”じゃないか?」


「まぁ……“似たようなモノ”かな?」


物凄く低いトーンでそんな事を教えてくれたジンちゃん。 いつの間にか白いマントを羽織いながら、真っ暗な外の世界に飛び交う無数な“蛍”のようなモノを眺めていた。


「はいこれ、君も着なよ。 “プレゼント”」


「あ……はぁ」


いつの間にかジンちゃんの手には“漆黒”のマントが握られていた。 それを俺は丁寧に受けとる。 なんでこんな格好いいマントをくれたのかはわからない。 しかし人から貰ったものは謙遜せず、ありがたく受けとるスタイルの俺は、なにも考えずにその漆黒マントを羽織っていた。


「ふふっ、似合うね? ちょっと厨二臭いが」


「……そりゃどうも」


ダークヒーローっぽくて俺には丁度いい品物だった。 確かにこれを着てリアル(現実)で外に出る勇気はない。 だけど、こんな世界だ。 なにかひとつでもそれらしいモノは欲しかった。


「これで煙草がうまければな……ふぅ~」


俺は新しく手にいれた漆黒のマントを羽織りながら、リフさんから最初に貰った煙草を吸っていた。 ほろ苦い薫りが俺達を優しく包み、無数の緑色の光の集団がゆらゆらと宙に舞う――


「さっさと消して新しいの吸えばいいのに」


「フフッ……いいんだよこれで」


すぐに揉み消すのが勿体無いのではない。

今の気分はまずい煙草を吸っている自分が様になっているからこそ、俺はそのまま吸っていた。


「そうだね……これからすぐに“始まる”からね」


「わかってるよ。 “その為”に俺はきたんだ」


嫌でもこれからクソマズイ展開が続いていく。

こんなに浮わついてイチャイチャしたこの幻想。 こんなファンタジーはすぐに消え失せる。

その前に、クソマズイ展開を味わうだけだと。


「んじゃ……説明しよっか。 この“光”について」


「ふぅ~、あぁ……頼むぜリフちゃん」


俺は煙草の影響で物凄く落ち着いていた。

この気だるい感覚と眠たいようななんとも言えない感覚。 強制賢者タイムで話を聞くことに。


「そうだな、この緑の光は“死んだ人の魂”」


無数に飛び交い、宙に漂う光をただただ見詰めながら、ボソッとリフちゃんは呟いた。


「まぁ、知ってた。 そんなところだろうって」


「ふふっ、察しがいいんだね?」


「あぁ、大体、王道ならそこを突くだろうと」


「それに、その方が綺麗でいいんだよ」


儚く散った人の命、魂、そのすべてが細かな粒子に代わり、こうして宙をさまよっている。

悲しさなんて微塵も出なかった。 ただ、美しくて綺麗な光だなと。 これが儚いんだとも。


「“魔法の原理”ってね? 実は“これ”なの」


無数の光に向かってリフちゃんは指を指す。

少しだけ悲しそうな表情をして、でもタンタンと語っていく。 開き直っているのかなんなのか。

今の俺にはわからない事だった――


「つまりは、“魂を協力”させて“使う”のか」


俺は体のいい言葉を使っていた。 本当はもっと酷いことなんだろうけど、考えたくなかった。


「まぁ、そうだね。 その“煙草”もそうなの」


「……ほぅ?」


どんな原理なのか少しだけ気になった。


「君の中にある理想を元に探すのこの子達が」


「俺の“理想”から“これら”が“探す”?」


その言葉を聞いて俺はすぐにテンションが下がっていくのがわかった。 なぜならば……


「つまりはこれらにも“役割分担”があると?」


「ふふっ……そうだよ? “わかる”よね?」


「あ……あぁ」


言いたい事は理解した。 つまりはこういう事。

この魂にも“意思は存在”する。 計算が得意な奴、物理が得意な奴、なんでも得意な奴……


そして、これらは死んでからも役目を果たす。

死んだのにまだ働かされるという理不尽――

どうやって煙草を“創造”したかは分からない。

でも、きっとこの異世界にある物質から適当に生成でもしたのだろう。 こんなポンコツな世界だ。 きっとなんでもありなのだろう。


――まるで人から働きアリに行き着いたようにも思えて、少しだけ悲しくなってしまった。


「“大体のベース”がわかれば簡単なのよ」


「ったく、便利な世界だなここは」


「そうだよ~ここは便利な世界なんだよ」


「ふぅ……みたいだな」


俺は煙草を揉み消し、素っ気ない態度をとった。

だけど、こんなに荒れてるのはなにかあると。


「それと、この子達は“役目を果たす”と……」


「“果たす”と……?」


「跡形もなく……“消えてしまう”の」


「あぁ……それはつまり? “完全に消える”?」


「そう……意思も知恵も全て使って“消滅”だよ」


「……そうか」


きっと“転生”もなにも無いのだろう。

本当の意味での“無”になるって事だろう。

輪廻転生は起こらず、そのまま消え失せる……


そんな悲しい悲しいお話だった。

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