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“本物のファンタジー”を魅せていく。

【リフさんのお部屋前】


ここから始まるは“本物のファンタジー”だ。

人類が想像しているそこらへんのファンタジー創作物より、ずっとファンタジーであろう……

さあて……“開始”だ。 不安と不安と不安……


全てが不安だらけの開幕速攻クライマックス。


「ふぅ……しぁあねえ、行くか」


コンコンッ……


俺はまるでラスボス戦前のような緊張感のまま、リフさんのお部屋のドアをノックした。


「くっ……っふぅ……」


額から嫌な汗が吹き出る。 膝がわらい、全身が震えている。 “童貞”にとってはこれが“ファンタジー”だ。 皆が想像する夢と魔法と物理の世界のファンタジーではない。 現世も異世界も変わりゃしない。 ファンタジーよりファンタジーして本家本元を超えてしまうレベルの本格的な不安タジー。 それが童貞×美少神のお部屋。


「はい……うぅ~ん、なんなの? “ジン”なの?」


部屋の中から気だるそうで眠たそうな声が聴こえてくる。 きっとあんな事があってふて寝しようとしていたのだろう。 神の癖に寝るのもなんだって話に思えるが、それよりも……


「残念だな、“俺”だ」


「うえッ?! おっさん? な……なんで?!」


あれだけ眠たそうだった声は一瞬で普通に戻っていた。 よっぽど驚いたのだろう。 目の前にいなくてもそんな光景はすぐに見えてきた。


「なんでってお前……寝る場所がねえんだよ!」


(それ以外にないだろう……男子禁制だっての)


童貞がガールのお部屋にいる事が既に犯罪的行為なのだ。 なのに、まさか一緒に寝るはめになるとは思ってもみなかった。


「ちょっとまって! あぁ、ヤバ! すっぴん」


「おいおい、やめてくれよそんな人っぽい事」


「うっさいッ!! ちょっと待ってよ!」


「まあまて……リフさん素が綺麗だから大丈夫」


(神も化粧するとか聞いたことがねえよ……)


よくわからないが、大丈夫だと判断した俺はさっさと部屋に入れろと催促するように歯が浮くような言葉を投げた。


「う″っ……ええぃッ! 入れ! おっさんッ!」


「うっす……」


――ガチャッ!!


……グイッッ!!


バタンッッッ!!


ガチャンッ!!


「“これでもいい”……のか?」


「――おあッ…?! う″ッ?! お、お前……」


ドアが勢いよく開けられ、引っ張られて中に入れられて、物凄いスピードで鍵を掛けられる事は想定していた。 しかし……そんな事よりも……


「う″ぅ~!」


「ち……近い! おま……それは“反則”だぞ?」


気が付けば俺達は急接近、俺は崩れた体勢でリフさんの目の前でひざまづき、お顔とお顔が触れそうな勢いのまま、俺のあごをクイッとされていた。 本来野郎が逆にすべき行為を童貞の俺が真っ先にやられていた……


「なんだよ……“可愛くない”んだろ?」


「あ……いや、“色んな意味”で驚いている」


だってそれは……


「はぁ……ジンが羨ましいよアタシ……」


「バカ言ってんじゃねえよこのボンクラッ!」


「は……?」


「俺は色々と驚いているけど、問題ねえぞ!」


「だってさ……」


「だってもクソもねえんだよ! お前は可愛い」


「――んなッ?!」


とてもとても驚いた顔をしているリフさん。

口を大きく開いて大きな瞳がかっぴらいて……


「“どっちも悪くねえ”よほんと」


俺は正直な感想を告げていた。 それ以外のセリフなんてスターダスト同然だった。


「なんでだよ……“凄い中性的”な顔だろう?」


「バカ野郎……それがいいんだろ? ばーろう」


「そ……そうかな? 恥ずかしい顔じゃない?」


「ふざけたおせ……むしろ“格好いい”ぞ?」


甘くてキリッとした大きな眼、挑発的な赤い唇から今は自然なさくら色な綺麗な艶々唇。 なぜだか長くて腰まで掛かる美しい銀髪はショートボブになっていた。


「か……カッコイイ?! はじめて聞いたぞ……」


「あぁ、そうだろうな。 だって俺が初だし」


きっと、綺麗な面しか魅せていないから、自然な顔については誰にも聞かれていないのだろう。

完全に面食らった顔をしていた。


「俺はそっちのリフさんも“好き”だぜ……?」


「な、なななッ……ッ?! なにいってんだよ!」


「冗談で言わねえよ……んな恥ずかしい事……」


現世だったら事案。 速攻通報されて捕まる。

それくらいファンタジーな事が俺の口からベラベラ流れて漏れて、垂れ流しになっていた。


「ぁ″~ッ!? ぅ″~ッ! たはッ!?」


「……ふぅ」


そろそろ潮時だろう。 きっとこのまま恥ずかしいセリフを吐き続けていたらきっとリフさんは死んでしまうかもしれない。 味方の神をKXXLするわけにはいかなかった。


「ごほんッ! 離れようか……“触れたら大変”」


俺の鼻腔を甘くてとろけそうな吐息がかかって、こっちも死んでしまうかもしれない状況だった。

強引でもなんでもいい、この“キス”でも出来そうな距離から一刻も早く離脱しなくては身が持たないと身体が脳が強烈に警告していた。


「……くふふッ!? あはははひひゃははッ!」


「え……ッ?!」


一瞬の間があった。 ほんの一瞬。 その一瞬でリフさんは顔色がとても悪くなり、豹変したようにおかしな嗤い声をあげていた。


そして――また俺のあごをグイッとさせて――


「“しよっか”……“神様”であるアタシと“キス”」


「……まて、まて……どうした? 急に……おい?」


「うふふっ、ふふっ、“したくない”の?」


「ぐっ……それは」


「そ・れ・は?」


「ちょっとまってよ……早いよ? ね……?」


俺は嬉しいやら悲しいやらで泣きそうになっていた。 千載一遇のチャンス。 据え膳なんたらはなんたらでっうことわざ? があった。 それが今なのではないかという感情と、いや、まて、このまま流されて、してしまってもいいのか? という感情が今まさに、最後のラグナロク――


「なに? 好きなんでしょ? “逆展開”」


「ったりめえだボケッ! 肉食系が好きだ!」


その問い掛けに対し俺は光の速さでレスポンス。

ここは現実でもリアルでもない。 よくわからない異世界の中。 今、俺は主人公が主人公してる状態になっていた。


「だったら……“しよ”?」


「ぐぅう……ッ!!」


(どうすりゃいいんだ! いったいどうすりゃ)


あまりの童貞力の強さに次なる一手が打てない!

これが神の一撃――元人間にはぶっささった。


「んっ……ちゅるっ――んっ、ふふっ……しょっぱ」


「あふ……んッ!!」


身体が脳が震えた。 世界が震えた、俺が震えた。 視界がブラックアウトして、白い点滅が交互にいりまじって……


「れろれろっ、ちゅぷっ、んぁ~」


「お″ぉ″……おびょお″おぉッ!?」


今俺の身に起きている事はただひとつ。


――首筋をペロペロされて……レロレロされて――


「ふぅ~」


「あが、ッ?! や……いや、ぁ……あふんッ?」


耳許でふぅ~ふぅ~されて……ドス◯ベな格好をしたボーイッシュな小悪魔ちゃんに翻弄され……


「さぁ、アタシに“全て身を任せて”……?」


「こ、この……“悪魔”がッ!」


神なのか悪魔なのかわからない。 目の前には俺を誘惑し、童貞が消滅してしまうかも知れない緊急事態になっていて、脳が頭がくらくらする。


「うふふっ……“可愛い服”でしょ」


「ど……どこかだよ、てめぇ……」


あまり気にしないフリをしていた。 でももう限界だった。 気にすれば俺はずっと気になる。

だからずーっと気にしないフリをしていた……


「“漆黒のベビードール”だよ?」


「そ……そりゃ“悪魔の憑依物”の間違い……だろ」


見てはいけない世界が目の前に広がって行く。

漆黒というのは惜しい表現だ。 実際問題、漆黒ではなく、うっすらとピンク色の下着が見え隠れする。 まさに悪魔じみた神のアイテム。


「はむっ……れろれろっ~」


「――はうぁッ!?」


「うふふふっ、んっ、ちゅぷっ、んっ……ふぅ」


「はぁ、ハァ、はぁ、も……もう限界だッ!!」


今度は耳たぶをせめられ、耳のアスタリスクをピチャピチャした生暖かい舌で掻き回され、酷く酷く卑猥に聴こえる吐息が直接脳に侵入してくる。


「あはッ!? その気になったんだ? うふふ」


「“終わりだな”――“俺”も」


最後の最期の“聖戦”は呆気なく終わりを迎えていた。 圧倒的童貞の敗北で……


――ド◯ケベ褐色肌の神の手によって。


「それじゃ……“こっち”も――」


――ズダダダダダッ!!


――ガチャンッッ!!


――ガッッ!!


「やっぱり……リフちゃん……抜けがけ禁止だよ」


「……え? ジン?! どうしてアタシの部屋に」


「決まってるじゃん、たべようとしたからよ」


「ちょ……ぐっ――ハァ……降参降参負け負け……」


「……」


状況が飲み込めず、俺はただポカーンとしていた。 面食らうリフさんと、ポカーンとしている俺と、物凄い白い眼でリフさんを見据えるジンちゃん。


――まさに修羅場真っ最中だった。

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