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始まりはいつだって――

――この世界は本当にクソったれな事ばかりだ。

どこをとっても何をしていても平等ではない。

どこが平等でどこが不平等なのだろうか……

何を信じて生きていけば良いのだろうか。

考えれば考えるほどに不平等に思えてならない。


「ふぅ……仕事だ、もういかねえとな」


――朝、誰もが眠さを抑え、無理矢理脳を叩き起こして出勤したり、あるいは子供を学校まで送り届ける。 辛い辛い地獄のようなシーン。

また、朝が来て、人々を今日も惑わせる。


「ダルすぎるだろ……いつまで続くんだ」


朝の仕度を急いでこなし、頭の中はずっとずっと同じ事を考えている。 この“地獄”はいつまで続いて、いつまで俺を苦しめるのかと。


「寒いな……今日もまた」


仕度を完璧に済ませ、自分の住んでいるボロアパートから逃げるように外に飛び出すと、今にも雪が降りそうな鉛色の空がお目見えしていた。 朝からテンションが下がり憂鬱になる。


「でも……稼がないとな」


寒空の中、心は前へ前へと進んでいる。

燻った感情を圧し殺し俺は自転車を前へ前へと進ませていく。 風を切り魂を散らして――


「ぐふぅッ!? はぅあッ!? う″ぅ……」


(なんて寒さだボケカス! 殺すきかよ?!)


気持ちは前に前に進んでも、人は信号の前には無力で、俺は寒すぎる世界に恨み言を。

いつかこんな生活、ぶっ壊せたらいいのに。

そんな気持ちを強く抱き俺は強く強く握り拳を作り、必死に必死に寒さに耐えていた――


【仕事先】


「おはようございます……」


「おはよう! なんだ? ダルそうだなお前」


いつものように顔見知りに声を掛け、いつものような返しが返ってくる。


「まぁ……はぃ。 でも頑張りますよ?」


「あたりめえだボケ! 働け働け!」


「はい……」


こんな“ループ”した現実がリアルで嫌になる。

朝、顔見知りかお偉いさんに挨拶をし、なるべくおとなしくして、波を立たせずに過ごす。

何がおかしくて、なにが面白いのだろう。


【夜】


「――クソッ!! どうして俺はいつも……」


“いつも”いつも……うまくいかないのだろう。

仕事が終わり、家に帰りネットで競馬をし、なけなしの金を溶かして嘆く日々――


「ふぅ……どうしてうまくいかないんだろうな」


煙草をふかし、頭を冷やすために外で毎回のように真っ黒な空を眺めて、嘆く日々――


「こんな筈じゃ無いんだよ……どうしてこんな」


生きるために稼いで死ぬのが嫌で、色々試して失敗して、うまくいくように成功するようになんだってやって来た。 それでも何一つとして芽が出る前に摘まれてデッドエンドの日々――


「いい加減にしろよ“神様”よ! マジでさ!」


成功するもの、失敗して地に落ちるもの。

それを代弁して俺は真っ黒な空に届けた。

いつまでおちょくるのだと。 本気で頑張っても本気で考えても、本気で願っても、本気で想っても叶わない事だらけのこのクソ世界。


「なにが平等だボケ……不条理で不平等だよ」


(結局、この世界は“運ゲー”だってか?)


「さっさと“殺せ”よ……“神様”」


――生きる価値もない、生きる意味すらない。

追っても追っても、うまく行かず空回りする人生に心底疲れていた。


「どれだけ頑張っても報われない……」


(だから……俺を“殺して救って”くれよ)


空いた時間は神社に行って、家族であったり、自分の成功やら、周りの幸せを願って拝んで、うまくいくように、平和でありますようにと願い続けてきた。 それでも状況は一向に好転せず、常に転がり続けていく。 そんな状況に心底疲れていた。


「ふぅ……何も出来ず……ふふっ……もうそろそろ」


(“三十路”になっちまうぜ? ったく……)


寒い寒い夜、俺は煙草をふかしながら今ある絶望的な状況に変な笑いがこみあげていた。

あまりにもクソ過ぎる状況に展開に、頑張れば頑張るほど足をすくわれるそんな現状。


――笑わないわけが無かった。


【翌朝】


――ピョロリロリィーンッ! ピョロリロリィ……


「――うるせえッ! もう少し寝かせてくれ……」


あれだけ“殺してくれ”と願っても朝はやってくる。 まるで踊らされている自分を嗤うように。

あれこれ考えて軽い頭痛までやって来て、頭の中は大パニック状態で――


「ったた……痛いなおい……勘弁してよもう」


(はぁ……勘弁してよもう。 もう嫌ぁ……ァ)


「クソが……“生まれ変わったら”覚悟しとけ」


弱音を吐きつつも、俺はたった一つの事だけを考え、今日もまた人の荒波の中へ進んでいく。

今は、今ある全てを懸けて生きて生きて――


「あーもうッ! 何で時間がねえんだよ!?」


とてつもないスピードで過ぎていく朝の時間に恐怖を覚えつつも、いつものように仕度をしていく。 ループした日常ほどつまらないものはない。 しかし、これがこのクソったれな世界のルールなのだという。


「はぁ、ハァ、はぁ、ぜぇ、ゼェ、げふっ!」


(どうして俺は毎日毎日こんなにも……)


朝という生き地獄が来る度、胸が苦しくなる。

息を切らしながらも、必死に仕事に遅れないように、全身全霊でしたくもない戦闘スタイルに切り替えていく。 人類ほぼ全員参加型の地獄の出来上がりであった。


【夜】


仕事が終わり、ギャンブルで人生を逆転させる無謀な試みをするはずだった。 筈だったのだが、あまりにも負けすぎて飯を食うだけの金しかなかった事に気がつき、俺は寒空の元、誰もいない公園でブランコに乗りながら菓子パンを噛っていた。 こんな事になるのなら、こんなクズみたいな日常を変え、毎日美味しいものを食べて幸せに過ごせばいいのになんて事を考えてみたりもした。 でも……そんな幸せ、今の俺には必要はなかった。 殺伐とした世界の中で俺は生きてきて、生きるか死ぬかの毎日をこなしてきた。 戦闘狂のように、無謀な試みばかりをしてきた。 結果……こうして惨めな思いをして――


「くそ……こんな筈じゃなかった」


失敗してきた人が言うセリフが自分の口から漏れていく。 それは白い雲になり暗い暗い空へ流れていく。 聖人なら様になるセリフだろう。

ただのおっさん間近のクズのセリフに身も心も氷ついてしまうのではないかという感情が自分を支配していくのが分かった。


「なにしてんだろうな俺は……」


どこで道を間違ったのだろうか? ガキの頃はもっと無邪気で今よりもずっと輝いていて、自信満々で、なんだって出来る気がした。 それこそ背中に羽がはえているように身体が軽かった。

それが今じゃ年々足取りは重く、心も真っ黒に染められて、この世界を恨むようになって――


「なぁ……“神様”俺を“拾って”くれよ――」


菓子パンを噛りながら俺は何度目なのか、見たことも実在するかもわからぬ神に呟いていた。

何も出来ず、何も貢献できない自分に心底苛立ち、嘆いているこの現状、俺の居場所はもう無いのだと分かっていたから。


「“クソったれな神”を“殺す神様”よ」


“哀れな俺を殺して”“救ってくれ”――

これが今の想いの全て――

純粋なる悪意のない願いであり気持ちだった。


「俺の“居場所”は“ここ”じゃねえんだよ」


(なーんて……伝わるわけもねえよな)


分かっていた。 こんな事を考えても伝えてもなに一つとして、好転なんてしない事を。


「ふぅ……つまらんな本当に」


煙草をふかし、真っ黒な空を睨み付ける俺。

さっさと持っていけよと、魂も俺の全てを捧げてやる。 だからお前が手を出せない事を俺が汲んで実行してやるよと。 馬鹿げた事だとしても俺はやめられなかった。 それが一番この世界にとっても人々にとっても一番だと思ったからだ。 破滅願望ではない、理不尽なルールを破壊し、再生する、浄化なのだと。


「ふぅ……なんだか……眠くなってきたな」


言いたい放題、思い放題したら急に落ち着いてきて、ブランコに揺られながら俺は首がコクンッと、落ちていた。


「あ……あれ? はは……なんだか眠気が……」


(なんだこれ? なんだか身体が重い?)


妙な感覚に襲われながらも、なぜだか心地の良い感覚が全身に駆け巡る。 寒い筈なのにどこか暖かいような、なんとも言えないそんな感覚。


「ふぅ……焼きが回っちまったのかな? ふふ」


まるで俺が思い浮かべていた光景の再現。

死ぬ間際、煙草をふかしながら絶命するというなんともワイルドなシーン。


「あぁ……俺、“死ぬんだ”な」


――身体が、頭が、全身が分かっていた。

やっと俺はこの世界からおさらばするのだと。

殺しても死なないような男だと思っていた。

でも、馬鹿げたタイミングで死が近づいている。 それだけはこの身を通じて感じていた。


「ごめん……みんな……ククッ……俺は……もう」


悲しさ、虚しさ、全ての想いが込み上げてくる。 それと同時にこんな馬鹿げた状態で死ぬ事と、やっと解放されるというホッとした気持ちが込み上げて――


「ククッ……はぁ、ハァ、アハハハハハッ!!」


「あ……あぁ……嗤えるぜ」


誰かがこの光景を見たら頭のイカれた野郎が嗤っていて怖いと思うのだろう。 でももう終わり。


「さぁ……持ってけッ! 俺の全てッ!!」


(くれてやるよ……拾ってくれる神に全て……)


グラッ……ガタンッ――ッ!!


「しめえよ――“さようなら”――“クソ世界”」


視界が歪み、苦し紛れの言葉を吐いて、俺の身体は真っ暗な地の底へ落ちていく――


楽しかった事、辛かった事、クソだった事、その全てが再生され――パラパラと砕け散って――


俺は――

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