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下の国のアリス  作者: 皐月やえす
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帰り道

朝の光がアリスを照らした。温かい。柔らかい。心地いい。ここはどこ?ゆっくり目を開ける。

アリスは柔らかなベッドの中にいた。なーんだ。あたし夢を見ていただけだったんだ。そろそろメイドさんが来るかも。

アリスはたたき起こされる前に起きることにした。



ここ、どこ?



見慣れない部屋にアリスはかなり困惑した。きちんと整頓された部屋で、ベッドの脇に大きな仕事机が置かれていた。机の上には書類、分厚い本、大量の羊皮紙、羽ペン、眼鏡、手袋・・・。

手袋?あれは白ウサギさんのだ!じゃあ、ここは白兎さんの家かしら?アリスはひとまず、白ウサギを捜すために部屋を出た。

部屋を出て、階段を恐る恐る下りた。下りてすぐドアがある。アリスは少し迷って、そっとドアを開けた。

そこは居間だった。広い部屋に暖炉、大きな時計、テーブル、ソファー、本棚などがあり、とても過ごしやすく落ち着いた雰囲気の部屋だ。

ソファーの上に、誰かが毛布をかぶりながら寝ている。白い耳がぴくりと動く。

白ウサギだ。

アリスはドキドキしながら近づいた。白ウサギは気付かずに静かな寝息を立てて寝ている。

とても疲れているようだ。ぐっすり眠っている。時折耳がぴくりと動く。昨日はピシッと整えてあった髪が、クシャクシャになっている。そんな無防備極まりない姿に、アリスはますますドキドキした。

アリスにベッドを貸して、自分はソファーで寝たようだ。アリスはなんだか悪いことをしたなと思った。

白ウサギはまだ眠っている。アリスはしばらく黙って白ウサギを見ていたが、不意にいろいろな気持ちがあふれてきて、白ウサギに、

「好き。」

と呟くように言った。

寝息が絶え間なく続いた。そりゃあそうか。白ウサギはまだ眠っているから。アリスは急に恥ずかしくなって、白ウサギが眠っていてよかったと思った。

と、耳がぴくりと止まり、白ウサギの頬が赤くなった。そして、まるで誤魔化すかのように「う~ん、」と唸りながら、寝返りを打った。

アリスも頭のてっぺんから足の先まで赤くなった。白ウサギさん、起きていたんだ。さっきのこと聞いちゃったんだ!気まずい沈黙が長く続く。

白ウサギは寝たふりしているが、耳が動かなくなっていたし、寝息がわざとらしい。

アリスはとうとう耐え切れず、

「好きです!トーストが!」

と叫んだ。

白ウサギが寝たふりも忘れてびっくりしたように飛び起きた。

「白ウサギさんは何がいい?あたしが作るわ!」



二人は朝ごはんを食べることにした。

白ウサギがそれとなくアリスを手伝いながら、アリスが朝食を作った。ベーコンエッグ、ほうれん草のソテー、ソーセージ、野菜のスープ。こんがり焼けたトーストにバターを塗って、白ウサギが紅茶を入れる。

「アリスさんは料理がお上手ですね。」

白ウサギが微笑みながら言った。アリスははにかみ、勢いよく紅茶を飲んだ。煎れたてだったので危うく口をやけどするところだった。

「あの、あたし昨日どうしたんですか?」

アリスがちょっともじもじしながら聞いた。

「ああ、あなたは帽子屋のところで眠ってしまったので、私の家に泊めることにしたんです。」

と、ここで白ウサギが思い出したという顔をした。

「今日こそは元の世界に」

「白ウサギさんはあたしを寝かせた後何していたんですか?」

アリスが慌てて話を変えた。昨日?と白ウサギが首を傾げた。

「昨日はまだ仕事があったのでそれをやっていました。」

「白ウサギさんのお仕事ってどんなことするの?」

アリスはほっとして聞いた。

「私は城で執事として働いてるんです。」

「まあ、凄い!」

アリスがびっくりして声を上げた。城で働いているとは聞いたが、執事とは知らなかった。じゃあ、嫌でもハートの女王と一緒じゃなきゃだめじゃない。

「ハートの女王に仕えているの?」

アリスがそう言うと、白ウサギは驚いたような顔をした。

「ハートの女王を知ってるのですか?」

アリスはとりあえず、

「帽子屋さんたちから話を聞いたの。」

と言った。白ウサギは納得したようだ。

「ええ、そうです。だからなおさらあなたは帰らなければならない。」

「どぉしてぇ?」

アリスはまた話が戻ってしまったのでぐったりした。

「関係ないじゃない!」

白ウサギがため息を漏らす。

「おおいにあるんです。あなたが私のところに居ることが女王にばれてしまったようなのです。」

「それで?」

「すぐにでも私の元に来て、あなたを連行するでしょう。女王はあなたを殺すつもりですからね。」

「なんであたしを?」

アリスが驚いて聞いた。

「あたし何も悪いことしてないわ!」

「関係ありませんよ。あなたが何をしようが、女王は気にしない。ただあなたを殺せるかしか気にしない。女王の目的はわかりませんが。」

白ウサギがナプキンで口を拭った。

「ぐずぐずしていられない。すぐに行きましょう。」

「でも…。」

アリスは躊躇した。なんですか、と白ウサギが聞く。

「あたし、元の世界に戻ったら、二度とこの世界に来ることが出来なくなる気がするの。」



白ウサギがギクリとする。その様子を見て、アリスは確信した。

「あたしは戻りたくないの。この世界で知り合えた人達に、」

アリスが俯いた。

「白ウサギさんに、もう会えなくなるなんて・・・。」

白ウサギが悲しそうな顔をした。

「しかたないのです。もともと、子供は来てはならない国だったんですから。」

「でも・・・!」

「だめです!」

白ウサギが思わず大声で言ってしまった。アリスが固まった。

「このままここに居ると女王に見つかって、あなたは死んでしまう。生きていればまた来れるかもしれませんが、本当に会えなくなるでしょう?!」

白ウサギが悲痛な顔で、アリスを見た。



アリスは悲しくて仕方ない。白ウサギに会えない、そんな日々を耐えるなんて、アリスにはできない。

でも、白ウサギの気持ちもわかる。アリスを死なせたくはない。アリスのために言っているのだ。それに、生きていれば、またここに来れるかもしれない。

死んでしまってはすべて終わりだ。



「あたし、…帰ります。」

アリスが涙を浮かべながら、でもしっかりと言った。白ウサギが頷き、アリスの手を取った。

家を出れば、空は雲1つ無く爽やかに晴れ渡っていた。そのまま、まっすぐな道を二人は歩いて行く。白ウサギがはぐれないように、しっかりとアリスの手を握り、案内した。

アリスは手を引かれるままに歩く。手から伝わってくる白ウサギの温かさを感じながら、

アリスの目から悲しい気持ちが溢れた。

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