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下の国のアリス  作者: 皐月やえす
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メアリ・アン

青虫からキノコのかけらを貰い、ようやく大きくなることができたアリス。

とはいえ、せっかくなので元の大きさよりも少し高くしてもいいよねってことで、今のアリスの身長は155㎝であった。

おまけに大きくなるのは身長だけでは無いらしい。

顔の皮膚が厚くなり、大人っぽくなった。胸も尻もふっくらして手足がすらっと伸びた。見た目18歳というところか。

「まあびっくり!」

水面に写った自分の姿を見て、アリスは思わず声を上げた。

「姉さんにそっくりじゃないの!こう眉間にシワを寄せるとほんと似ているわ!」

足が伸びたので歩幅も大きくなった。そのおかげで森から簡単に抜け出せた。

森を抜けてしばらく歩くと、家があった。アリスの家よりも小さいが、なかなか立派だ。プレートを見ると、

「WhiteRabbit」

と書かれていた。

白ウサギさんの家かしら?アリスの胸が期待に弾む。

すると、家の中から誰かが出て来た。白ウサギだ。

「うう…まいったなぁ。手袋はどこにいったんだろう?もう時間が無いのに!」

頭の後ろを落ち着きなくかいている。ふと、門のところに立っているアリスに気が付いた。

「白ウサギさん!」

アリスが嬉しそうに手を振った。

白ウサギは驚愕の色を浮かべ、固まった。まるでアリスがそこに居ることがありえないというくらい。

そして、一言叫んだ。

「め…メアリ・アン?!」

めありあん?あたしのこと?考えこんでいるアリスのもとに白ウサギが走り寄る。

「まさか…そんなわけが無い!そんな…!」

とかぶつぶつ言いながらアリスの肩を掴み、顔を覗き込む。(白ウサギは155㎝のアリスより少しだけ背が高い)

アリスは目の前に白ウサギの顔があることに照れた。

とはいえ、メアリ・アンに間違われたままではいけないと思い、恐る恐る口を開いた。

「あのぅ…あたし、メアリ・アンさんじゃなくって、アリスって言います。」

「えっ、アリス?」

白ウサギがキョトンとした。


気まずい沈黙が流れた。


アリスが気まずさを紛らわすように言った。

「えーと、あたし今変身しているので、こんな姿なんです。」

そして小さくなるキノコを少しかじり、ゴクンと飲み込んだ。

シュルシュルと空気が抜けるようにあっという間に背が縮み、元の七歳の姿に戻った。

白ウサギはとても驚いた。

「君は…UnderLandの入り口で会った子?!どうしてここに…。」

「ドアさんが通してくれたの。」

脅したんじゃ無いよ!と慌てて付け足すアリス。

「何をやっているんです、あの人は!あれほど通すなって言ったのに…。」

白ウサギは独り言を言っていたが、アリスが見つめていたので口をつぐんだ。

「と、とにかく、あなたはここに居てはなりません!私が案内するので早く帰りましょう!」

「白ウサギさん時間大丈夫?」アリスは慌てて話を変えた。「急いでいるんでしょう?」

白ウサギはハッとして金時計を見た。そして

「うわっ!まずい!」

と飛び上がった。アリスはすかさず、

「手袋必要でしょう?あたしが探して持って行ってあげましょうか?」

と言った。

白ウサギはアリスが心配で堪らないといった顔をしていたが、時間が無い。背に腹は変えられぬと、

「じゃあ手袋を持ってイカレ帽子屋のところへ行ってて下さい。私も後で向かいますから!」

と言い、急いでえんび服の上を着ると、すさまじい速さで走り出した。

「やっぱりウサギだから足が速いのかな・・・。」

アリスはそう呟き、白ウサギの家に入った。


長いこと探してやっと白ウサギの手袋を見つけたアリスは、イカレ帽子屋の元へ行こうと玄関を出た。

すると、扉の横から、

「やあ、これはたまげた!メアリ・アンが小さくなって化けて出たと思ったよ!」

というキイキイ声がした。 見ると、そこには16歳ぐらいのお兄さんが、ギョロリとした大きな眼をさらに大きくしてアリスを見ていた。

「だ・・・誰?」

アリスはびっくりして聞いた。お兄さんは少し笑って、

「俺はトカゲのビル。白ウサギの旦那に雇われている庭師さ。」

と名乗った。

トカゲ・・・確かにそれっぽく見える。ギョロリとした黄色い眼、大きい口から生えている八重歯、緑色の髪がとさかみたいにつんつん立っているのも、鱗みたいな生地でできたパーカーも、すべてトカゲみたいだ。

「君は誰?こんなとこで何してんの?」

ビルが興味深げにアリスを見つめる。アリスは、ビルは悪い人だと思わなかったので、

「あたしはアリス。白ウサギさんに頼まれて手袋を持って行ってあげるの。」

と答えた。

「へぇ、そうなんだ!おつかいかい?」

とビルが言った。

「なんなら俺が持って行ってやろうか?」

「いいえ!大丈夫です!あたしが行きます!」

とんでもないといった様子で首をブンブン横に振るアリス。ビルが怪訝な顔でアリスを見つめる。せっかく白ウサギと会う口実ができたのだ。このチャンスを手放したくなかった。

「平気ならいいけど、」

ビルが改めてまたアリスを見る。

「やっぱりメアリ・アンに似ているなぁ。あんたの兄弟にそんな名前居ないかい?」

「いいえ、居ないわ。」

アリスには姉さんのエルザと妹のマリーがいたが、メアリ・アンなんて名前は聞いたことがなかった。

アリスはビルに思い切って聞いてみた。

「あのぅ、メアリ・アンさんって、どんな人?」

「知りたいの?」

ビルが聞くと、アリスは黙って頷いた。

「んーと、悲しい話だが、大丈夫か?」

ビルが心配そうに見るが、

「大丈夫よ。」

アリスはそう頷いただけだ。

ビルも頷いた。

「じゃ、話すよ。」


旦那は城で働いているんだ。この国の権力者、ハートの女王に仕えている。

メアリ・アンはある日突然この世界にやって来た人間らしい。白ウサギの旦那の後を追いかけて迷い込んだ。

なんだか訳ありのようで、白ウサギの旦那に「家に帰れない。帰りたくない。」と言っていたらしい。しばらくの間白ウサギの家のお手伝いさんとして、住み込みで働かせてもらっていた。

メアリ・アンはとても働き者だった。優しいしっかり者の娘だ。みんなメアリ・アンが大好きになった。

ある日、メアリ・アンは旦那に想いを打ち明けた。自分はあなたに惚れて後を追いかけた。あなたのことが、本当に大好きなんだと。

白ウサギの旦那はそりゃ悩んだ。相手は二十歳前後の若い娘。自分は五十代のオヤジなんだから。

だけどメアリ・アンにとっちゃそんなことは関係ない。諦めずに想い続けた。

そのまっすぐな気持ちが旦那に伝わりはじめたのか、旦那もメアリ・アンに惹かれていった。

俺達はみんなメアリ・アンの恋を応援していた。始めはそりゃ驚いたさ。だがあの娘はとてもいい娘だったし、旦那にも幸せになってほしかったんだ。

少しずつ、少しずつ、確実に二人は近づいた。ようやく結ばれるところだった。


でも、悲しいことが、起きちまった。

メアリ・アンはいきなり連行されて、女王の命令で処刑されてしまった。


理由?そんなもんあるわけ無いさ。何てったってあのハートの女王だからな。あのお方は人の幸せを欲しがり、潰し、奪い取るんだから。

旦那がどんなに許しをこうても、俺達が必死に彼女を庇っても無駄だった。

あのお方はあっさりと彼女の命を奪った。

女王が何が欲しかったのか、誰も知らない。

ただ確実に旦那から、俺達から幸せを奪った。


旦那は今もずっとあのお方に仕えている。よくやるよと俺は感心するよ。本当はすぐにでも殺したいだろうに。


ビルが話し終えた後、しばらく沈黙が続いた。

アリスがやけに静かなのでどうしたんだろう?と、ビルが顔を覗き込む。

アリスは大粒の涙をボロボロと流していた。

「えっ、おい!大丈夫か?!」

ビルは慌てふためく。

「っう・・・あたし・・・そんな悲しいことが、っひぃ・・・あったなんて、知らなかっ・・・ふぇ、」

アリスは激しくしゃくり上げていた。

アリスだって、白ウサギにも愛する恋人が居るかもしれないとは考えた。悲しい話とは聞いたが、「結局結ばれずに終わった」とか、「お互いの幸せのために別れた」とか、そういう切ない話だと思っていた。だが、この話はアリスにとってとても辛く悲しいものだった。

他者によって幸せを引きちぎられた白ウサギとメアリ・アン。人を愛した代償が「死」であるなんて、あまりにもひどい。

メアリ・アンさんは何故殺されたの?

なにも悪いことしていないのに。

白ウサギさんを愛したのがいけなかったの?

愛することは素晴らしいことのはずよ。

そう教わってきたのに、いいことではなかったの?

わからなくなってきた。

「ごめんな。」

アリスの頭を温かな大きい手が優しくなだめるように撫でた。ビルが申し訳なさそうにアリスを見ている。

「君にはまだ早かったな。辛かったな。ごめんな。」

アリスはしゃくりあげながら大丈夫、と呟く。

この話を聞いて涙を流してくれるなんて、優しい子だなあ、とビルは微笑んだ。


「おいら、仕事に戻らなくっちゃ。変な話しかしてないね!また会えたらもっと楽しい話してあげるよ。」

ニカッとビルが笑い、気をつけて手袋届けてやれよ、と言い残し、走り去った。

アリスはしばらくビルが去って行った道のところで立ちすくんでいた。



アリスはさっきの話のことについて考えていた。

あたしが白ウサギさんの前に現れたことによって、メアリ・アンさんのこと思い出したらどうしよう。

メアリ・アンと白ウサギのことを同情するが、同時にメアリ・アンに赤い炎のようなものが上がり、妙にイライラする。どうしてなのかアリスにはわからない。(それが「嫉妬」だとアリスは後で気が付いた。)

アリスは道を歩き出した。白ウサギの手袋を届けに。


そういえば、さっき変身したとき、アリスは姉さんそっくりだと思ったが、メアリ・アンにも似ているらしい。

じゃあメアリ・アンと姉さんは似ているのかしら?アリスはまた少し混乱した。

「そういえば、」

歩き始めて10分たったところでアリスが足を止めた。

「あたし、イカレ帽子屋さんのいるところなんて知らないわ!」

左右に別れた道。


どうしよう?

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