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下の国のアリス  作者: 皐月やえす
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落ちて縮む


だめだ。後悔してももう遅い。アリスが落ちたという事実はどうあっても変えられない。



視界がグルグル回って上も下も横もわからなくなっていく恐怖は、今まで一度も味わったことはなかった。この時アリスは、自分の迂闊さに腹を立て、間抜けさを呪った。


悲しいけどもうおしまいだわ。さようなら、父様、母様、姉さん、そしてダイナ。


これが最後だと思うと、自然と涙が溢れてきた。まだまだ人生始まったばかりなのに、やりたいことたくさんあったのに。

しかし、おかしなことに、いつまでたっても地面に激突することは無かった。アリスが浮いているのか、穴がとても深いのか?

体制も整い、足から落ちていく姿勢になってようやく穴の中の様子がわかった。穴は暗いが、落ちていく時にチラリと、壁にかかってるプレートが蝋燭の光に照らされているのを見ることができた。


「Welcome to Under Land!」


「アンダーランド?」

アリスは舞い上がってくるスカートの裾を、両手で押さえながら、首を傾げた。

「下に落ちているからかしら?」

下を見下ろしたが、まだまだ続きそうだ。

「落ちて行けば、アンダーランドに着くかしら?」

だが、全く到着する気配はない。どんどん奥に奥にと落ちて行く。

アリスはだんだん退屈に、そして不安になってきた。このまま地に足が着かなかったらどうしよう。おかしな話だが、アリスは早く地面に落ちたかった。



ところが次の瞬間、アリスは何か柔らかいものの上に落ちた。

「ぐへぁ!」

柔らかいものが、潰れた蛙のような悲鳴をあげたので、アリスが驚いて見ると、追いかけていたウサギが、アリスの下敷きになっていた。

どうやらウサギも穴から落ちてひっくり返っていたところらしい。いくら七歳の軽い体でも、いきなりお腹の上に落ちて来られたら、さすがにダメージは激しい。

「ごめんなさい!あの、」

アリスは慌てて謝ろうとしたが、ふと、相手と目が合った。

初めて見た時は、血のような真っ赤な目だと思ったが、よく見るとぱっちりして、少しピンクがかった優しい目をしていた。困ったような、人の良さそうな顔をしていた。銀色のような白髪。おじさんなのに、なぜかウサギを連想させるかわいらしさがあった。ウサギ耳のせいかもしれないけど、そのウサギの耳も驚くほどしっくりくる。

「えっと・・・」

アリスは赤くなってもじもじしていた。また心臓が跳ね上がって、頬が熱い。 と、アリスはいきなりウサギに脇に手を入れられ、抱き上げられた。

「ひゃっ・・・!」

アリスはびっくりするやら恥ずかしいやらで、こんな情けない声を上げてしまった。

だが、そのまま横にストンとアリスを置き、

「遅れちゃうので失礼します!」

と、すさまじい速さで走り出した。

アリスは慌てて叫ぶ。

「待って、あなたの名前は?」

ウサギは走り去りながら答える。

「白ウサギです!」

そしてあっという間に見えなくなってしまった。

白ウサギ・・・そのまんまだったわね・・・。アリスはぼうっと白ウサギが消えた方向を見ていたが、はっとして急いで後を追いかけた。


白ウサギが走って行った先に、小さなドアがあった。

それはアリスの靴ぐらいの大きさだ。子ウサギが通れるくらいだろう。どう頑張ったって通れっこない。

アリスが困り果てていると、ドアがしゃべった。

「先に進みたいならば、その瓶の中身を飲みなさい。」

アリスはドアがしゃべったことに非常に驚いたが、ふと横を見ると、これまた小さな瓶がちょこんと置いてあった。

「私を飲んで」

と描いてある。

「まさか毒じゃないでしょうね?」

アリスが瓶をひっくり返したり調べながら言った。

すると、ドアは動揺したのか、

「毒なWAKE無いじゃないKAお嬢SAN!」

と、すっごく怪しい話し方をし始めた。

「んぐ?!」

いきなりアリスがドアの口に瓶を押し付け、中身を強引に飲ませた。

次の瞬間、ドアがぎゅんと大きくなり、大人が一人通れるくらいになった。

「あたしを大きくして、ここから出られなくするつもりだったのね!」

アリスが怒ってドアを睨み付けた。ドアはしょんぼりして言った。

「ほんの少しイタズラしてやろうと思っただけなんだ。それに、白ウサギにここを通すなって言われたし。」

白ウサギさんが?アリスは驚いた。どうしてあたしを通さないようにしたんだろう?

「とりあえずここを通してくれない?お願い!」

「だが、」

「早く!」

アリスがドアを蹴飛ばさんばかりに叫ぶと、観念したのか、ドアが道を開いてくれた。

アリスは喜々として走り出そうとしたが、脅したり叫んだりしたのは悪かったなとおもい、振り返って

「ありがとう!」

とドアに満面の笑みで言ってから走り出した。

なんとかして白ウサギのところへ行きたいが、どこに行けばいいんだろう?道がいくつかに別れている。

「こういう時は、」

アリスは考えた。

「人に聞くのが1番ね!」

しかし、いくら待っても人は現れない。居るのはやかましくお喋りをする大きな鳥や、バタースコッチでできたへんてこりんな蝶などの動物のみ。意志の疎通も難しそうだ。

「うーん・・・仕方ない。こういう時は、」

またまたアリスは考えた。

「気になる道に進むべきね!」

とはいえ、どの道も同じ感じの風景で、これといって気を引く物はない。

アリスがまた考えていると、道の先で煙が立っていた。赤、青、紫、黄色。いろんな色の煙が浮かんで消える。

「どうせ行くところ無いんだし、この道を行こうかしら。」

アリスはため息をついて、煙へとゆっくり歩きはじめた。

アリスは道をまっすぐ歩いている。

道の先では、まだ煙がもくもくと上がっているが、火事では無いようだ。いろんな色の煙が、絶え間無く浮かんでは消える。

道の周りには美しい森が広がっている。木に小鳥が止まり、歌を歌っていたり、鹿が不思議そうにこちらを見つめていたりと、とても平和で和やかな雰囲気だ。

アリスは歩きながら白ウサギのことを考えていた。

どんな人なんだろう?

どこに行くんだろう?

どんな仕事をしているんだろう?

白ウサギのあの優しい瞳、困ったような顔。その一つ一つを思い出す度にアリスの小さな胸がぎゅっと締め上げられ、張り裂けそうになる。


あたしのこと何にも教えていなかった。

どうしてあなたを追いかけているか、あたしがどんな気持ちであなたを想っているか。

あたしを理解することもできないじゃない。


早く会いたい。白ウサギさんに、早く会いたい。そう思うだけで自然と足が早まる。


ふと、横を見ると、木苺が成っていた。

真っ赤でつやつやして、とってもおいしそう・・・。


おかしい。アリスは道を行くにつれて、異変を感じた。

なんだか周りの物がどんどん大きくなってる気がしたのだ。

もしかして、行こうとしているところは全部巨大で、そこに行くにつれて、物が大きくなっているのかしら?

怖くなったアリスは、試しに歩くのをやめ、じっと立っていると・・・。


周りの物は動きを止めず、どんどん大きくなっていく。

これは、もしや・・・。

「あたしが小さくなっていただけ?」

なーんだ、と胸を撫で下ろす。

「って、そっちの方が大問題じゃない!」

一人ツッコミをしている間にもどんどん縮まるアリス。どうしよう。このまま小さくなり続けたら、消えてなくなってしまう!目を閉じて必死に縮むのが止まるように願い、ようやく止まった時には、アリスの身長はわずか30㎝になっていた。

「まあ、どうしましょう!」

アリスは泣き出しそうになった。

「こんなに小さくなったら、学校のみんなに馬鹿にされてしまうわ!」

アリスはなかなか素敵な思考回路の持ち主だと思う。

足元にかわいらしく健気に咲いていた草花が、急に自分より大きくなって自分を見下ろしてきているので、なんだか恐ろしい怪物のように思えた。

なんで小さくなっちゃったんだろう?思い当たる節が無い。

これでは行く先で困ってしまうし、白ウサギが気付いてくれないかもしれない。

「困ったわ。どうすれば元に戻れるのかしら?」

原因がわからないのに戻る方法など思いつくはずが無い。とりあえず煙が上がっているところに行けば、人が居るはず。元に戻る方法を教えてもらおう。

アリスは目元をゴシッと拭き、ため息をつくと、また歩き出した。

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