コショウと薬(※NL BL表現あり)
ちょっとすけべです。
公爵夫人は、大きな屋敷に料理人と二人で暮らしているらしい。
部屋へ案内される際に、公爵夫人が、
「ちょっと、せっかくいいお香を焚いているのに!そんなにコショウを使われたら、また子供達のクシャミが止まらなくなるわ!やめて頂戴!」
と、厨房の料理人に声をかけた。なるほど、確かにコショウの匂いが鼻をこれでもかとくすぐってくる。料理人は隆起した背骨の不気味な背の高い男で、手にコショウの入れ物を持ちながらブスッとした顔で公爵夫人を見た。それからアリスに目をやると、奇妙な表情を浮かべた。例えるなら、これからご馳走になってしまうニワトリを見るような、憐れむ目つきに似ていた。
「この子はお客様よ。だからーー」
「承知しましたよ…。」
呆れたような、忌々しげな表情で、料理人は玄関の鍵を閉め、そして厨房へ引っ込んでしまった。
部屋についた公爵夫人は、アリスの怪我を手当し、丁重にもてなした。ふかふかのソファーにアリスを座らせ、温かい紅茶とおいしいお菓子を奨める。
「あの、あたし白ウサギさんのところへ行かなければならないんですが…。」
アリスが怖ず怖ずと声をかけると、公爵夫人はにっこりと笑った。
「白ウサギさんに後で来るから、あなたをここで待たせておいて下さいって言われたの。大丈夫。」
アリスはほっとして紅茶を一口飲んだ。
「お子さんがいらっしゃっるんですか?」
アリスは部屋を見渡して言った。部屋には子供用の服や靴、おもちゃや絵本がたくさんあった。公爵夫人が恥ずかしそうに微笑んです。
「居ないけど、私子供が好きなのよ。よく近くの子供が遊びに来てくれるの。」
そう、大人を困らせない、良い子がね…とアリスには聞こえた気がしたが、今度は公爵夫人が質問してきた。
「あなたはどこから来たの?」
アリスは自分がここの世界の人間では無いこと、ここに来てしまった理由、今から元の世界に帰ることをかい摘まんで話した。
「まあ、それは大変ね。」
公爵夫人がアリスをじっと見る。
「だからあなたはこの国の子供とは少し雰囲気が違うのね。」
「えっ、違うの?」
アリスはびっくりした。だが、公爵夫人はアリスのその声を聞いていなかったようだ。
「こっちにおいで。」
と公爵夫人が自分の膝の上に座るように言った。
アリスは母様や姉さん以外の人の膝に座るのはなんだか恥ずかしかったが、とりあえず座ることにした。
アリスが膝の上に座ると、公爵夫人はアリスが落ちないようにそっと抱いた。
「私には大好きな人がいたの。昔からずっと、側にいて、遊んで育った、素敵な人。」
公爵夫人がか細い声で言った。
「でもその人はどうしても私に振り向いてくれなかった。その人が言うには、ムリなんだって。私を愛することが。」
アリスが振り返ると、公爵夫人はとても悲しそうな顔をしていた。
「私はその人の奥様に酷く傷付けられ捨てられた。怒りを買ったせいで、私は呪いを受けたわ…。そんな時に、私を慰めて、とても良くしてくれた人がいたの。その人はあなたみたいにほかの国から来て、そして、またほかの人を愛していた。あなたみたいに…。」
公爵夫人の手が動いた。
「細くてかわいらしい人だったわ。」
そう言うと、急にアリスの腿の内側をスルッと撫でた。
「…!」
いきなりのせいもあったが、アリスは自分の体にいつもと違う感覚が走ったのに気が付いた。
「あなたにとてもそっくり。柔らかな髪も、大きな瞳も、滑らかな肌も、みんなそっくり。」
公爵夫人は一言一言言う度に、アリスのお腹、髪、頬を撫でる。公爵夫人がアリスの耳元で囁いた。
「あなたってとても可愛いわね。アリス?」
「ひゃっ…。」
アリスのスカートの中に手が入って来た。腿を這い、アリスの小さな尻を布越しに愛おしむように撫でる。
「やだっ…何するの!」
アリスは抵抗しようとしたが、何故か体に力が入らない。体の奥が熱く、得体の知れないもやもや感がアリスを襲う。公爵夫人が意地悪く笑う。
「あなたの紅茶に媚薬を入れたの。エッチな気分になったでしょう?ねぇ、アリス?」
そしてアリスの顔を持ち上げる。
「いい顔しているわ。あなたはどんな可愛い声で鳴いてくれるかしら?」
アリスは恐ろしくて堪らなかった。さっきまで優しかった公爵夫人が、今や不気味な笑顔を浮かべ、アリスの服を剥ぎ取るのだ。 これが大人の姿なのだろうか?
近づかない方が身のためですよ。
白ウサギの言葉が、今になって頭をよぎった。
アリスは抵抗したが、全くの無意味だった。それに、妙薬が効いているせいか、公爵夫人が触れる度にアリスの体が敏感に反応する。下腹部の奥が熱く疼くような感覚に包まれ、呼吸が浅くなる。
「いい反応するじゃない。可愛いわ。」
公爵夫人がアリスの額にキスをして、アリスの剥き出しになった胸元に触れた。
「んっ…。」
アリスは何をされるのかわからないが、このまま公爵夫人に好きにされるのも悪くないかもしれないという、わけのわからない感覚に溺れていた。
もういいや。抵抗しても無駄だし。
アリスはこれから始まる未知の体験に不安や恐怖、そしてほんの少しの期待を胸に、目を閉じた。
「なにやってる、お前」
不意にそんなけだるそうな声が聞こえ、アリスから公爵夫人の手が離れ、代わりに細いけどしっかりした腕に包まれた。
アリスはぼんやりした目で見上げた。
青いフード。不機嫌そうに下がった口。眠たげな灰色の瞳。
「青虫さん?!」
アリスはなんとか頭だけを動かして辺りを見渡す。アリスは青虫にしっかり抱えられていて、さらに、公爵夫人の方を見ると、外見が変わっているではないか。
青虫に傷付けられたのであろう右腕を庇うその姿は、顔がブクブクと膨らみ、8頭身からどう見ても5頭身になっていて、目はギョロリと剥き出され、尖った顎をガチガチさせながら、フゥフゥと息を荒げている。これが本性だったのだ。アリスが小さく悲鳴をあげて青虫にしがみ付くと、青虫は更に強く抱きしめた。
「あなた…いったいどこから入って…?!」
公爵夫人が腕を庇いながら青虫を睨み付けた。青虫が面倒くさそうに公爵夫人の血と思われる緑の液体を払って、彼女を見た。
「別にいいだろ、そんなこと。しいて言えば、」
青虫がドアを見た。
「犯罪すんなら、玄関だけじゃなく自室の施錠くらいまではしっかりしとけや。」
そっちの言い方の方が面倒臭いとアリスは思った。青虫がアリスを抱えたまま出て行こうとした。
「ちょっと!」
公爵夫人が声を荒げ、青虫の腕めがけて尖った爪で攻撃をした。青虫はアリスを庇おうとして、そのまま深く斬り付けられてしまった。だが、青虫は表情1つ変えずに、公爵夫人の膨れ上がった顔を思い切り蹴り飛ばした。派手な音を立てて転がる公爵夫人が恨めしげに声を絞り出した。
「勝手に連れて行かないでよ!横取りするつもり!?」
青虫の目が冷たく鋭く光った。
「もともと、てめぇのもんじゃねえだろう。」
すると、青虫の肺がいきなり膨らみ始めた。風船が膨らんでいくように、どんどん大きくなる。
そして青虫が肺に溜まった息をふしゅう!と公爵夫人に吹き掛けた。
青虫の口から濃い霧のような灰色の煙が吐き出される。公爵夫人が激しく咳込み、そして力無く崩れ落ちた。
アリスは、タバコの煙と素直じゃないけど優しい細い腕に包まれながら、意識を手放した。
ちょうどその頃。
帽子屋が、のんびりと紅茶を飲んでいると、3月ウサギが駆け寄って来た。
「大変だ、帽子屋君!僕、動悸息切れが激しい!君の飲みかけのミルク飲んだらきっと良くなると思うんだ!ちょうだいはあはあ」
「普通にミルク欲しいって言えよ。それに、ミルクで動悸息切れが治るわけじゃないし。」
帽子屋が呆れたように言いながら、3月ウサギにミルクを渡した。3月ウサギが顔をしかめた。
「君の飲みかけがいいんだよ!もっと言えば君の「搾りたてのミルク」が欲しぁああっ!」
3月ウサギがまた余計なことを言い掛けたので、帽子屋は腕を掴み、見事な背負い投げを一本決めた。
「ほんと懲りないのな、お前は!」
帽子屋がため息をついて、3月ウサギを起こすために手を貸そうとした。
すると、いきなり3月ウサギがガバッと起き上がり、帽子屋を押し倒した。
3月ウサギが不敵に笑った。
「隙ありだよ、帽子屋君。」
3月ウサギはいつも不意打ちで押し倒してくるので、帽子屋は冷静だった。
またいつものように、3月ウサギに頭突きを食らわせようとした。
だが、帽子屋は思わず動きを止めた。
いきなりとてつもない違和感が彼を襲ったのだ。力が抜ける。何かが急に彼の中から消えたようだ。なんだか懐かしい感覚。この感覚をずっと待っていた気がする。
だが、帽子屋の時間はお茶会の時間で止まっているはずだ。体にいきなり時間が戻ったような感じ。
何故だ?何が起きたんだ?
帽子屋が動かなくなったのをいいことに、3月ウサギが帽子屋の股間に手を伸ばした。
次の瞬間、帽子屋の肉付きのいい拳が、3月ウサギの左頬にクリーンヒットした。
「なんだよ~。諦めたと思ったのに!」
3月ウサギが頬をさすりながら身を起こした。
帽子屋が怒鳴り付けようとしたが、急に
グゥ。
という音が彼の腹から鳴った。
帽子屋の目が見開かれていく。
「お腹…空いた。」
帽子屋が掠れた声で呟く。そして驚く3月ウサギに、
「今何時だ?!僕の時計を見てみてくれ!」
と聞いた。
「お腹空いたって…君の時間はお茶会の時間で止まってるはずなのに、どうして?」
3月ウサギが言うと、痺れを切らして帽子屋がサッと時計を見た。
「…6時。」
帽子屋が泣き出しそうな顔で3月ウサギを見た。
「時間が動いた。僕の時間が、元に戻ったんだ!」
…はあ、…はあ、…はあ。
自分の体が快楽を求めている。
「ん、うぅ…。」
でも、どうしたらいいか、わからない。
「体が…熱い。」
誰か、あたしを、触って…。
「おい。」
無愛想な声が降ってきた。アリスがゆっくり目を開けると、薄暗い森の中、青虫が無表情でアリスの顔を覗き込んでいた。
「青虫さん…。」
「気分はどうだ?」
青虫がアリスを起こそうとした。青虫の細い腕がアリスの脇に入る。
その瞬間、僅かな刺激が強い快楽に変わり、アリスがビクッと過剰な反応を見せた。
「あっ…!」
熱い吐息と共に、甘い声が漏れる。青虫が腕を引っ込めようとしたが、アリスが掴んで止めた。
「あの…もっと。」
アリスは赤くなりながら言った。自分でも、何故こんなことを言っているのか、わからなかった。でも、気持ちよかったから、青虫にもっと触ってほしかった。本能のままに、何か言おうとした青虫の膝の上に跨り、肩口に軽く歯を立てた。アリスは自分のまだ小さな胸を、青虫の節くれだった手にそっと押し付ける。
青虫は珍しく表情を崩した。面食らったような、非常に困った顔だ。
だが、すぐにいつもの無表情に戻り、
「あのやろう、媚薬飲ませやがったな。」
と呟いた。そして、アリスに小さな瓶に入った液体を飲ませた。
薬は苦くて、辛くて、渋くて、目が覚めるほどにまずかった。
「んん!ひぃ…。」
「いちいち変な声出すなよ。」
と青虫が呟く声が聞こえたような気がした。
しばらくすると、アリスはいつものアリスに戻った。
「青虫さん。助けてくれて、ありがとう!」
アリスが恥ずかしそうに笑いながら言った。青虫が別にお前のためじゃ…と言った。
「でも、どうしてここに来たの?」
「人に頼まれたからな。」
お前のためじゃないぞと言いながら、青虫がアリスに手を差し延べた。
「白兎んとこ、行くぞ。」
「…はい!」
アリスは嬉しそうに笑い、青虫の手を握った。




