公爵夫人
アリスは悲しい気持ちを振り払い、最後の「Under Land」を楽しむことにした。
白ウサギとデート中と考えることにしたのだ。
そう思うと、自然と楽しい気持ちになり、アリスは普段の明るさを取り戻し、おおいにはしゃぎはじめた。
「Under Land」は子供は来てはならない国だったが、美しい風景や建物が多く、まるでお伽話の世界のようだ。アリスは来る時は白兎に追い付くことしか考えていなかったので、この国の素晴らしい風景を初めて見るような気がした。
これに困ったのは白ウサギだ。アリスは
「見て見て!素敵なお花畑!」
とか、
「鹿さんだ!かわいい!」
とか、
「綺麗な建物~!」
とか、とにかく元気いっぱいに駆け回る。最終的に白ウサギがアリスに首輪を付けた方がいいなと思うほどだった。
「遠足じゃないんですから!早く!」
と白ウサギが連れ戻し、またふらっとアリスが離れまた戻しの繰り返し。
側から見れば、ほほえましい光景だった。
たまに町の道の端に、怪しい売り子が立っている。ちょっとアブナイ薬や、妙な形のオブジェ…俗に言う「大人のおもちゃ」などを売っていた。アリスは好奇心旺盛なので声を掛けてしまったりして、白ウサギが慌てて連れ戻すハメになった。
ある売り子は、アリスと白ウサギにやましい関係があると勘違いし、
「いやあ、あんたも隅に置けないねぇ!小さな彼女を喜ばすために、こんな薬なんかピッタリだぜ!」
と言って、精力増強剤を奨めてきた。白ウサギは真っ赤になって怒り、興味深々なアリスの手を引き、去った。
本当に、こんなに美しい国なのにどうして道行く人々皆が変態なんだろうか?
真面目な白ウサギはいつも考えてはため息をつく。
数年前はこんなところじゃなかったのに。
「白ウサギさん。」
アリスが白ウサギの服の袖を引っ張った。白ウサギが何だろうと見る。
「さっきのおじさんがくれたんだけど、これ、何?フーセン?」
アリスはニコニコしながら手を差し伸べた。何か持っている。
コンドームだった。
「捨てて下さい。」
「ここの国って優しい人が結構居るんだね。」
アリスがニコニコしながら言う。白ウサギは複雑な顔をした。
「確かにそうかもしれませんが、あまり近寄らない方が身のためですよ。」
「どうして?」
「少しアブナイ思考回路の人が多いんです。何をされるか、わかったもんじゃない。」
アリスは聞いた。
「じゃあ、白ウサギさんも優しいけど、アブナイ人なの?」
「違いますよ!」
白ウサギが困ったように首を振る。
「そういうことじゃなくて。」
ふと、白ウサギが悲しそうな顔をした。
「3月ウサギのように、どうにもならない事情で、まともじゃなくなった人がほとんどなんです。女王によって人生を狂わされた人。」
アリスはまた女王の名を耳にしたので、少し気持ちがざわついた。女王は人の不幸に必ず付いて回るようだ。
「さあ、もう少しで出口に着きますよ。」
どこがもう少しなのだろうか。また森をもう一つ抜けなければならない。まあ、アリスはむしろもう三つ森があってもいいくらいに思っていた。
帰りたくない。白ウサギさんともっと一緒に居たい。アリスがあちこちうろうろしたのも、時間を稼ぎたかったからだ。
森に一歩入ろうとした途端。
いきなり強い風が二人を襲った。
「きゃ!」
「アリスさん・・・!」
白ウサギが庇おうとしたが、遅かった。
アリスの小さくて軽い体は、力強い風に抱かれ、二人は離れ離れになってしまった。
「痛たた・・・。」
気が付くと、アリスは原っぱで倒れていた。起きようとすると、左手首に鋭い痛みが走る。どうやら捻挫したらしい。
白ウサギさんはどこ?辺りを見渡すが、原っぱと木と家しか無く、誰もいない。アリス一人だ。
「白ウサギさん?」
アリスは叫んだが、しんと静まるだけ。
アリスは不安で仕方なく、べそをかいた。
「白ウサギさん。…どこ?」
本格的に泣き出しそうになったその時。
「あらあら、どうしたの?」
優しい声がアリスの後ろから聞こえてきた。アリスが驚いて振り返ると、女の人が立っていた。
女の人は、細面で、目が切れ長で鼻が小さく、全体的にすっきりした顔立ち。肌の色が透き通るように白く滑らかで、思わず触れてみたくなるほどだ。黒髪をまとめて高い位置でお団子にしている。ゆったりとしたドレスは胸元が大胆に開いていて、豊かな乳房が強調されていた。
女の人はアリスの元に来て、
「何があったの?」
と優しく尋ねた。ふんわりとした石鹸のような良い香りが、アリスの心を落ち着かせる。
「あたし、白ウサギさんとはぐれちゃって…どこ行ったらいいのかわかんなくて…手も痛いし…。」
アリスはこの女の人は怖くないと判断し、事情を話すことにした。
「まあ、こんなに腫れて!かわいそうに。」
女性がアリスを撫でた。
「私の家においで。怪我の手当をしてあげるわ。」
アリスは女性について行き、家に行くことにした。女性は公爵夫人と名乗った。




