表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下の国のアリス  作者: 皐月やえす
1/18

Alice in Under land



それは突然に。


挿絵(By みてみん)


アリスは草原に横たわり、ぼうっと空を見上げていた。

アリスのワンピースと同じ色の、透き通るような綺麗な青空。風がそよそよと優しくアリスの頬を撫でる。まるで姉さんが撫でてくれてるように。


今日もアリスの姉さんは、叶わぬ恋に涙を流していた。


アリスは目を閉じた。姉さんは家の庭師に恋をしていた。そのことに、アリスはとても違和感を覚えた。雇っている人に恋するなんて。自分の地位より遥かに下の人を、どうして好きになったんだろう。

アリスの家は立派な家だった。周りの大人はみんな、自分をアリスお嬢様、と呼び、儚い鳥の羽のように大切に扱われていた。アリスにとって、姉さんの恋は、その鳥の羽が、地面の蟻と恋をした、というくらいの認識だった。

そもそも、恋とは何か、どこがいいのか、なぜ恋をするのか、アリスは全くわからない。

当たり前ではある。アリスはまだ七歳。恋が訪れるのは、もっとずっと後のことだと思っている。

お茶の時間までまだずいぶんと時間がある。つまんないや。雛菊でも摘んで遊ぼうかしら?

でも、何もする気がしないので、アリスはじっと横たわったまま。息を深く吸うと、土と草の匂いが肺いっぱいに染み込む。

姉さんの恋人も、こんな匂いがした。あったかい匂い。姉さんはその匂いも好きなんだね。

父様も母様も、姉さんの恋に反対だった。仮にも良家の娘が、庭師と恋に落ちるなんて、「はじさらし」だ、なんて言ってた。「はじさらし」って何だろ。姉さんは何か悪いことしたの?それとも父様たちが間違ってる?

・・・わからない。でも、あたしは姉さんに幸せになってほしいと思ってる。いつになったら、姉さんのことわかるようになれるかな。



そんな事を考えているうちに、いつの間にか眠り込んでいたらしい。さっきより日が落ちている。

まだお茶の時間じゃないのか、アリスは欠伸をした。だが、すぐに不安そうな顔をした。

静か過ぎる。風の音も、鳥の囀りも聞こえない。時が凍り付いたように全く動かず、冷たい静寂が広がる。まるでアリスだけを残し、世界中の人達が一斉にいなくなったようだ。

しかしアリスは恐くなかった。むしろ、何かが起こりそうな気がしたのだ。まるで何年も前からずっと待っていた何かがやって来そうで、少しワクワクしていた。

それは絶対やってくると、なぜかアリスは確信していた。

まだかな・・・アリスは息を潜めて待っている。長い長い時が流れたような気がした。



それは不意に現れた。



「ああ、遅刻だー!」

と言いながら、小柄な五十代の男が急ぎ足でアリスの横を通り過ぎた。

老眼鏡、白のチョッキ、黒いスラックス姿の男は、懐から懐中時計を取り出し、時間を確かめ、また走り出した。五十代の人が、よく走れるなぁ、というくらい速い。

アリスは男の顔を見てびっくりして飛び上がった。白兎の耳のような物が、男の白髪頭からニョッと生えているじゃないか。作り物にしては実にリアルで、落ち着きなくぴょこぴょこ動いてる。目も真っ赤で、まるで血のようだ。

この人だ。あたしはこの人を待っていたんだ。アリスは何故かそう確信した。

アリスの胸に多大な好奇心が溢れ出た。

そして、もうひとつ、アリスにとって生まれて初めての感情が沸き起こる。

心臓が苦しいくらい跳ね上がり、頬や、体がほんのり熱くなる。

あのウサギさんを知りたい。好奇心とは違う、不思議な感情。

この気持ちが何なのか、アリスはひどく混乱したが、あのウサギさんを追いかければ、何かわかるかもしれないと思い、スクッと立ち上がると、

「すみませーん!」

と叫びながら走り出した。

驚いたのはウサギの方だった。いきなり小さな女の子が必死に追いかけて来たからだ。

でもウサギは遅刻してしまいそうで、走りながら、

「すみません!急いでいるので。失礼!」

と言って、たどり着いた横穴にさっと入って行ってしまった。

アリスは迷わず穴に入った。

穴はアリス一人が屈んでやっと通れるくらい狭い。あのウサギはどうやって通ったんだろう。お世辞にも細身とは言えない体だったし、アリスより少し背が高いのに。おまけに真っ暗で何も見えない。アリスは壁に沿って歩いた。

しかし、あのウサギさんの格好、何だろう?耳は作り物にしてはよく出来すぎだし、仮装大会にでも出るつもりだろうか?だとしたらとても面白そうだ。あたしも仲間に入れてくれないかなぁ?等とアリスはくだらないことを考えながら進む。

と、前方で「ぎゃっ!」という声がした。ウサギさんだ!とアリスは嬉しくなり、慎重さも忘れ、走り出した。

いきなり足元の地面が消えた。


次の瞬間、アリスは真っ逆さまに落ちて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ