過去の戦争3
後方に構えていた魔法騎士達が一斉に詠唱を開始する。ルキアも続けて詠唱完了すると地面を蹴る。瞬間、戦場の風が止む。ルキアの姿が全線から消え、代わりに敵陣から叫び声が上がる
「馬鹿な!!。こいつ一瞬で」
「怯むな!迎え打.....ぐあああ」
「あのなあ、お前ら遅いぞ」
ルキアは敵陣のほぼ中心で20キロは下らない大剣を涼しい顔で振り回す
「何をしている貴様等!。たかが子供一人に遅れをとるなどありえないぞ!!」
「しかしあの者、あまりに速すぎて動きを捉えることができません。まるで風のようで」
「ええい、弱音など聞きたくない早く奴を倒せ!」
「本陣でふんぞり返って部下に命令するだけとは、随分と偉そうな隊長だなあ?」
「なっ!?」
その場にいた全員が声の方を向く。そこには眠そうに目を擦り、あくびをするルキアがいた
「お前らが最後だぜ?。この軍は」
「まさか、全線の兵を全滅させたとでも!?」
「んあ?。んなめんどくせえことしねえわ。腕痛めるわ」
「貴様....一体何を言って」
「他の兵士ならもう長くは持たないってことだ」
「ふ、ふっ。貴様は我々の軍を過小評価しすぎだ。我々の兵は腕利きの者ばかりだぞ?。貴様のような子供に倒されるほど」
「ああ、勝てるはずがない。まあ、まともにやればの話しだがな」
「どういうことだ」
それまでルキアを小馬鹿にして笑っていた隊長の顔が曇る
「魔力補給部隊を潰した。この意味は分かるよな?。なあ隊長さんよ」
ルキアの微笑に、場が凍りつく
「ん?。どうした?急に慌てちまって。動揺してるのか?」
「じ、冗談のつもりならその程度にしておけよ。嘘だったらただですまさ.....」
隊長の足元に赤い汚れのついた青水晶のオーブが転がってくる
「証拠なら、あるぜ?」
ルキアはなおもニヤニヤと笑いながら兵士一同を見つめる
「馬鹿な.....貴様等!あれほど補給部隊の防御を高めておけと言ったはずだぞ!」
「防御....ああ、あれって盾のつもりだったのか。てっきり人間で柵でもつくってんのかと。趣味悪いなあ」
「何だと!?」
「防御陣に普通の兵士なんて使って、お前ココ大丈夫か?」
ルキアは自分の頭を人差し指でトントンとつつく動作をして見せる
「馬鹿にしおってええ!」
隊長が剣を握り、突進してくる
ルキアはそれをひらりと避け、すれ違い様にスネを蹴る
隊長は足の痛みにバランスを崩し、派手に転倒する
「へぶっ!」
隊長はすぐに地面に手をついて立ち上がろうとするが、ルキアがそうさせない
「悪いけどもうこの話には飽きたんだ。俺は帰らせてもらうぜ」
ルキアは剣を隊長の背中に突き刺す
隊長はその場で血を吐き出すと動かなくなる
「さて」
ルキアがいかにもだるいといった顔で残りの兵士を見る
「ひっ」
「.....どうした。殺さないのか?。見ての通り、俺はもううごけませーん。それとも俺が怖いか?。なら逃げればいいだろ。俺は疲れた、ここで逃げても追っかけたりしねえよ」
「.......」
ルキアが何と言っても兵士達は震えるばかりだ
「...はあ、やめだやめだ」
ルキアは大きくあくびをすると、踵を返して帰っていく
「ったく。くっそ眠い。さっさと帰って寝るか」
今いるのが戦場等と知らないかのように、ルキアはのんきにそんな事を呟く
彼の目の前に広がるのは、味方の軍によって全滅させられた大量の死体に埋め尽くされた平原だ