息抜きの時間
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片方のハサミを失った蟹は動きが極端に鈍くなり、すぐに絶命した
「腕切っただけで死んだんだけど」
「樹木蟹は外殻が硬いだけですから、肉に直接攻撃すれば一撃でも致命的なダメージになりますよ」
「弱すぎか」
「樹木蟹は幹の内側に潜んで、通りかかった獲物を補食して生きていますから、知識のある者に反撃されたら勝ち目は無いんです」
「そんなのに殺されかけたのか俺は」
「っふふっ」
「笑うな!」
ルキアは、残った片方の蟹の腕を持ち上げる
「これ食えるのか?」
「はい。殻を剥がすのには手間がかかりますが、ハサミの内側の肉はたんぱく質も多く美味しいですよ」
「へえ」
ルキアは大剣を関節に当て、左右させてハサミを切り離す
殻と殻の重なる部分に剣を挿し込み、柄に足をかけて勢い良く力を入れる
殻が音を立ててめくれあがり、その中から薄い桃色の混じった肉が現れる
「おお、これはまた良い艶が」
「実際に見てみると話で聞いていたより綺麗ですね」
ルキアは残った殻も同じ手順で剥がしていき、内側に隠れていた肉を剥ぎ取る
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蟹の甲殻を削って、簡易的な肉焼き道具と串を作る。
串に蟹の肉を刺し、台の上に乗せる
そこにレイスが魔法で火を起こす
暫くすると、肉から水が滴り火に当たって弾ける
肉の焼ける匂いが二人の鼻を刺激する
「みずみずしい!」
「味もしつこくなくて食べやすい。宿屋で食べる料理された物もいいですが、自然の味も格別ですね」
二人は準備した肉に加え、放置していたもう片方のハサミの肉も剥ぎ取って、肉焼き器の上に乗せる
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「さて、もう少し頑張らねえとな」
「ルキアにしては本当に珍しいですね。こんなに真面目に仕事に取り組むなんて。いつもなら愚痴が止まらないのに」
「たまには熱心に仕事してないと給料減るだろうが」
「そうですね。ところで、ここからはどうやって登るつもりですか?。また壁を三角跳びしていくんですか?」
「それについてだが、レイス。さっきの魔法を使ってくれ」
「さっきの魔法ですか?」
「えーとなんだっけ?風よなんちゃらって」
「それですか。分かりました」
「風精よ 踊れ」
風がルキアとレイスを浮き上がらせる
「動き方は普通に歩くのと変わりません。ルキアなら問題なくこなせるでしょう」
「決まってるだろ?。誰に鍛えられたと思ってるんだよ」
ルキアは剣を納めると、すぐに走り出す
「んじゃなー!お先にー」
ルキアの姿はあっという間に十二階層を抜けていく
彼の魔力の反応がみるみるうちに離れていく
「.......さて、僕達も行くとしますか。精霊さん、お願いします」
精霊が風を起こすとレイスを囲み彼の体を運ぶ
現在 ユグドラシル十四階層
目的地まで残り十六層




