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処刑台上の詐欺師  作者: 十参乃竜雨
第一章 『とある宿でのとある一味のドタバタ』
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滞在三日目(1)

 

「……あ~」

 俺は自室のベッドの上で少し目が覚めた。まだ体の節々が痛い。結局昨晩は二人が疲れるまで殴り続けられた。たちが悪いことに、二人共、常人より体力がある。よって結構長い時間いたぶられた。

 俺はまだ完全に覚醒していない。でも日が高く上っているから結構いい時間になっているだろう。でも今日は惰眠をむさぼろう。この時間まで誰も俺を起こしに来なかった時点でもう俺の睡眠を邪魔しないだろう。俺は掛け布団の中で寝がえりを打つ。そして目の前のモノに抱きつく。意外と掛け布団を抱きしめて寝るのは気持ちいい。

 プニプニとしてて気持ちいいし、妙に生温かい。そんな掛け布団を咲き締めて寝るのは……。あれいつもと感触が違う。

 そして俺は気付いた。掛け布団は俺の腕の中にあるわけではなく、俺の上に文字通り掛けられている。じゃあ、俺の腕の中にいるのは何だ。

 俺の意識はゆっくりと覚醒してくる。

 枕か?確かに枕は今、俺の頭の下にはない。それに今抱きしめているものは明らかに枕にしては大きすぎる。じゃあ、誰かが抱き枕を俺の寝どこに忍ばせた。

 うん、これは真っ先に取っ払っても問題ない考えだ。なぜそうする必要があるか、くみ取ることもできないし、まず、抱き枕にしては感触が生々しい。

 …………次に第三案、この生々しい感触の主は人間であり、半裸の人間である。もしかして、やっちゃった?いや、あり得ない、昨日は地獄を味合わされ、それどころじゃなかっただろう。でもそこで問題が生じる。この人間が男か女で大きな問題が生じる。

 もし男であったなら俺は半裸の男、いや大きさからして男の子か。と抱き合っているのだ。そのときは潔く舌を噛み切ろう。

 もし、女の子であれば何の問題がない。女の子?

 もしかして…………。

 犯人が分かったかもしれない。というか十中八九、犯人は彼女だ。

 それが分かった俺は自然と気持ちが落ち着いた。もし彼女が犯人であれば間違いなどおこっていないだろう。今はまだ、禁断の果実なのだから。でも、あと数年後に同じことが起こったとしたら、どうなるのだろうか。ああ、自制のジの字が出てくることもなく、襲という字が頭の中に埋め尽くされるであろう。

 まぁ、脱線しかけた己の思考を呼び戻し、布団の中の彼女を起こすために、掛け布団をとり去ろうとしたときだった。

「おい、外道。ココアたん知らない」

「ふぎゃむるばぁぁあぁ」

 心臓が口から出るかと思った。なんでこうもタイミングが悪すぎるんだ。もし、この手の中の感触が本物であれば、彼女の上体は半裸か、それ以上だ。そんなときに今の布団の中の事を知られれば確実にあらぬ勘違いをされ、消される。文字通り骨が残らぬほど、燃やされて、消される。

「なに、どうしたの、ド変態外道」

 ドの冠がついていることを考えればおそらく、昨日の事をまだ引きずっているのだろう。

「いや、ちょっとちょうど足がつってしまって、あいたたたた」

 もしここで、『何でもない』と言ってしまえば、疑い深いリーアの事だ。布団をはがされるなどをしてばれることだろう。

「ふん、昨日のことは自業自得よ。それよりココアたんしらない?」

 良かった疑われなかった。まだ確認はしていないが、ココアなら布団の中にいるのだが。

「ん~、私のココアたんセンサーがここに反応したんだけどね~」

「へぇ~」

 それは立派なセンサーだな、おい。

「そんでもってアンタがココアたんに変なことでもしてようものなら、灰にして魚のえさにでもしようと思ったんだけどね~」

 俺は背筋が凍る。安心ができないからだ。いちようごまかしができている。しかし、手の感触でおそらくココアは半裸だ。もし服が俺の見えない所で落ちており、それを発見されれば晴れて、俺は魚の栄養源となる。

「まぁ、いいや、買いだしあるし、外道」

「……ん~?」

 頭は緊張で冴えまくっているが、あくまで眠たい自分を演じてごまかす。

「ちょっと、マスターと買いだしに行くから。マーサさんと雲雀はいつもの刀鍛冶屋に行ってるわ。だからココアたん見つけて昼飯どこかで食べてきてもらえる?」

「…………え~、我は惰眠をむさぼりたいのだ」

 二度寝ができないほどに今頭が冴えているが。あくまで自分の命のためだ。

「レアとマルコゲどっちがいい?」

 ここでリーア語を解説しよう。

 レア=ゆっくりじわじわ焼いて拷問して焼き殺す。マルコゲ=最火力で焼き続け殺す。

 どちらも殺すときによういる物騒な言葉だ。

「…………あいあいさー」

 俺の返事を確認すると、それじゃあね~といって俺の部屋を出て行くリーア。

 扉が閉まり、足音と気配がなくなるのを確認すると俺の胸辺りにある、ココアの両脇を掴み布団から引きあげる。

「…………わー、おーそーわーれーるー」

「棒読みじゃなくて、もう少し大きな声でいってたら俺はもうこの世にはいられないんだろうな」

 レアとマルコゲどっちだろうね。

 俺は呆れ半分で言う。おそらく、先ほどの焼却女が飛んでくるだろう。

 そこにいたのはやはり褐色の肌と銀色の髪が特徴的なココアだった。服装はタンクトップと短パンだった。部屋着と言うこともあってか、とても露出の多い服装だった。

「で、何の用だ」

「…………しつこかったから、隠れてた」

 しつこいとは間違いなくリーアの事だろう。

 あの幼女趣味め。そりゃ会えば抱きつかれて、離されないのだからココアもそう思うだろう。

「…………でも、暖かかったから、寝た」

 もう見て分かるようにココアは少し常識がない。男の布団に入ってきて無防備に寝るとは……。本当に襲われても文句が言えないぞ。もし、二、三年たっていたらわかんないぞ、俺でも。てか、確実に襲う自信がある。ココアは見た目は幼いのに妙な色香を持った女の子だ。あと二、三年あれば妖艶な女性に育つだろう。

「おまえな~」

 それにどこか強く怒れない。そんな雰囲気さえ持っている。リーアが愛玩動物の用に扱っているのは分かる気がする。

「それと昼飯どうする」

 とりあえず、二人共布団に入ったままで話をする。

「…………とくに」

 それにココアは主体性がない。それはまぁ、育った環境にあるわけだが。

「とりあえず、準備するか」

「…………ん~」

 とりあえず俺たちは同時にベッドから体を起こし、起きた。

「…………あ」

 一緒な格好で伸びをした後に、思い出したかのようにココアが一枚の紙を取り出した。

「…………これ、朝ポストに入ってた」

 それを俺に差し出してきたので、受け取ってから見る。

「感謝祭か」

 そういや季節は秋だったな。これから厳しい秋を乗り越えるにあたって、秋の収穫はとても重要だ。それで実りに感謝をこめて祭を催す。で、紙はこの宿屋のあるエリアの反対側のエリアで祭りが開催されるという知らせのビラだった。

「じゃあ、ここで昼飯をとるか」

 そういった趣旨であるために食べ物の屋台がたくさん出ている。それを昼飯にすると、栄養面がどうとかでリーアに食べさせるなと言われそうではある。

「…………人ごみ、多い、めんどくさい」

「食べ物美味しいぞ」

「…………準備してくる」

 トトトと走り去るココア。今日も惰眠を貪れそうにないみたいだ。まぁ、一日目二日目と比べれば、ぜんぜん平和だ。そんな一日もいいだろうと思って俺も準備を始めた。


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