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処刑台上の詐欺師  作者: 十参乃竜雨
第一章 『とある宿でのとある一味のドタバタ』
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滞在二日目(1)

~二日目~


「それじゃあ、始めましょう」

「ちょっと待て、雲雀」

 曇り一つもない気持ちいいぐらいの朝だった。

 俺は昨日の約束通りに稽古の為に宿屋の隣にある空き地に動きやすい格好で来ていた。近くにはリーアとココアが見学に来ていた。リーアは一枚一枚ハムをココアに餌付けしていることはもう突っ込まない。突っ込んでやるものか。

 そこまではいい。そこまではいいんだ。なんにも問題ない。

「なんで俺はいきなりこんなもの持たされているんだ」

 手に持っているのは一振りすると簡単に人を殺せる剣だった。それも刃を潰しているわけでもなく、実際に人を斬れる。俺は不謹慎にも大根がよく切れそうだと思ってしまった。

「訓練ですけど?」

 いやいやいや。自称『箸より重いものを持ったことがない』なのだから、いきなり実践練習なんぞ、できる訳がない。そもそも箸すらもったことない。箸はこの雲雀の出身でもある東方の食文化圏の者が使う者だからな。

「それに、お前の持っているものは何だ」

「これですかぁ?」

 はっきりと分かるのは、こちらと違って木製である。特徴的なのはいつも彼女が持っている刀とは違う。刀より柄は槍のように長い。そして刃は逆に短い。

「薙刀と言われるものですよぉ、木製ですからそれに似たモノなんですけどねぇ」

 たとえ、実力差がはっきりとしていようともこっちは人を殺せる得物で、向こうがどちらかというと打撃のみの武器では不公平である気が……。

 こっちの考えている事が分かったのか、微笑みながら雲雀は言う。

「不公平と思われるかもしれませんが、まったく実力もないのに言わないでください」

 それに関しては正直何も言えない。でもちょっとムカツク。

「ていうか、稽古と言っても、先にそれに必要な基礎体力をつける方が良いと思うんだが」

 自分で言うのも情けない話だが、基礎体力は皆無と言ってもいいだろう。

「ん~、それもそうですが」

 首をかしげながら考える仕草をする雲雀。

「でも、黒さん続かないですよね」

 うわ~、何にもいえないよ。

「人には向き不向きがあります。基礎体力は日々の鍛錬を続けていて初めてつくものです」

 うん、確かにそうです。だから口達者な俺は別に運動しなくてもいいと思うんだ~。

「仮に日々ふざけていても基礎体力が有り余っている者もいますが、それは天性的なもの。あくまで『特別』です」

 いるよね~。

「でも、そう言ってられないのが黒さんですよ。戦場に立つ者そうは言ってられませぇん」

 そうなんだ~。

「だから、自衛のための実践の勘を養ってもらいますぅ」

 へぇ~。

「あらあらあらあらあらあら、聞いてますか」

「あっ、ハイィイイ、聞いてますぅうう!」

 飛ぶ鳥を撃ち落とす、いや、殺し落とすほどの殺気が俺に飛んできた。慌てて俺は返事をする。最近思うんだが、実はリーアより、雲雀の方は怖いんではないかと思う。

 質が全然違う。

 リーアの殺気はツンデレ気……。おっと殺気がどこからともなく飛んできた。

 それに比べて、雲雀の殺気は洗練されたものだ。まぁ、家系を考えればそうなんだろうなぁ~。彼女は東方の国出身。それも暗殺者として育てられた。

暗殺者として人を殺したことのある者の殺気はやはり違う。

今は俺のモノになってから、殺しは厳禁している。しかし、加減ができるのはさすがだ。

「では、そろそろ参りましょうかぁ」

「ああ、分かった」

 こうなれば一興だと思ってやろう。雲雀が俺なんかに斬られるとは思えないしな。

「では、どこからでもかかってきてください」

 じゃあ、お構いなくいきますか。俺は体勢を低くして走り出す。そして近くに行ったとき、思いっきり地面の砂を雲雀の顔目掛けて蹴りあげる。そのうえで俺は剣を振りぬく。

 せこいというのならせこいといくらでも言え。ハハハッハハハ。

 どこからというか、リーアからのブーイングが聞こえてくるが気にしてやるもんか。

「力ない者のやり方として、及第点ですが、やはり振り抜きが甘いですねぇ」

 耳元で湿り気のある声が聞こえたかと思えば、その直後に背中に衝撃があった。地面にたたきつけられた。地面を目の前にしてそのままになっているわけにはいなかった。俺はそのまま横に転がっていく。俺のいた所から俺を追うように大きな音が迫ってくる。

俺はしばらく転がった後、素早く立ち上がる。

「あら、よく続きが来ると分かりましたねぇ」

「バカ腹黒野郎ぉ、キサマの性格を考えれば俺を気絶させるまでやるつもりだろぉがぁ」

 俺は一様怒鳴っておく。一度目の背中への容赦ない突きで意識が飛びかけたからだ。

「こちらとましては一撃で仕留める予定でしたが、しぶといですねぇ」

 微笑みながら言う雲雀。恐怖しか覚えねぇ。

「でも、目くらましはよかったですよ」

「怒らないのか」

「なぜ怒らないといけないんです?」

 いや、まぁ、そのですね……。

「人と人の死合で卑怯とかそういう余計な物はないですから。生き残った者が正義です」

「全くの同意見だ」

 死人には口無しだ。生きる者が好きなことを言える。この戦乱の続くこの世での常識。

「だから、黒さんには勝負には負けても、生きていてほしいんですぅ」

 しかし、敗者が必ず死者となるわけではない。逆に、死者が必ず敗者となる。だから、死者とならないため、力をつけてほしい。これはそのための稽古だろう。

 でも、納得できない事がある。

「おい、それ、『自分がいなくても生きていってほしい』としか聞こえねぇぞ、コラ」

 そんなことは絶対ゆるさねぇ。

「そうですねぇ、でも人はいつか死にますから」

 確かに殺されなくとも、死因はどうあれ人はいつか死ぬ。だが、俺の言いたい事はそういうことではない。

「議論のすり替えしてんじゃねぇよ」

 その俺の言葉にただニコニコとしているだけだった。

「てめぇも俺の野望の一部なんだよ。勝手に死んじまったらゆるさねぇ」

「ただの可能性の話ですぅ」

「それであってもだぁ!」

 俺は語気を強める。

「俺はお前や、ココア、リーネみてぇな力はねぇ。でもな、俺にはこのずる賢い頭がある。俺が考えに考え抜いて、てめぇらを殺さねぇ作戦を考えてやる。バカがいたら、言いくるめてやる。だから」

 俺の頭は沸騰していた。いつもの『我』と言う俺を演じれていなかった。自分らしくないと思いながらも。でも俺の口は動いていた。

「……だからそんなこと言うな。二度と……言うな」

 あたりが静けさに包まれる。最初に口を開いたのは……。

「そう思うのでしたら、そうなる可能性を一つでも潰すために稽古をしましょう」

 にっこりとほほ笑む雲雀であった。

「あー、分かったよ」

 この場の空気を濁してくれた。こればかりは、雲雀に感謝しなければならない。

「じゃあ、容赦なく行くぜ」

「……アイアイサーです」

 その後の俺は、この数十秒後に雲雀に失神させられた。



「…………ねぇ、リーア」

「ん?どうしたの。ココアたん」

 私は一枚のハムをココアに食べさせながら言った。

「…………難しいね」

 先ほどの黒と雲雀のやり取りのことを言っているのだとすぐに分かった。それを聞いてやはり自分の妹と似ていると思った。自分の妹は難しいことはさっぱりだった。でも大人達が会話している表情やしぐさ、その場の雰囲気で、理解してしまうのだ。表面的な物であるのだが。

「そうだねぇ、難しいねぇ」

 リーアはそうとだけ答えた。

「…………ムー、いじわる」

 私は内心驚いた。その一瞬だけ、妹の影が見えた。妹がまったく同じ答えをした時があった。そのせいだと思う。

「アハハハハ」

 思わず笑ってしまった。その様子を見て彼女は頬を膨らませてしまった。

「いや、ごめんごめん。ん~そうだね~。もう少し大人になったら分かるんじゃないかな」

「…………やっぱり、いじわる」

 かわいすぎた。なのであとは抱きしめて、撫でまわしてみた。自分の中で忘れたはずの悲しみをかき消すかのように。

 指輪に誓って悲しむわけにもいかなかったから。




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